駅直結の大型商業施設完成で、さらに賑わいを創出
11月14日、そごう・西武が西武所沢店を改装し、新たに「西武所沢S.C.」を開業させた。脱百貨店を図り、専門店の集客力で新規顧客を開拓するという。ここ所沢は西武の本拠地(本社所在地、本店所在地は池袋など)。今回の改装は、百貨店にとって厳しい時代だが、何としても所沢から撤退しない、という決意にもとれる。
所沢は埼玉県南西部に位置し、人口は約34万人。埼玉県では、さいたま市、川口市、川越市、越谷市に次ぐ第5位の規模だ。
所沢市役所によると、所沢という地名は古いが、その由来ははっきりしないとか。所沢の地名が確認できるのは、道興准后(どうこうじゅこう)という僧が残した『廻国雑記』という紀行文。1486年に所沢に立ち寄った際、「野遊びのさかなに山のいもそへてほりもとめたる野老(ところ)沢」という歌を残している。野老はヤマイモ科の植物のことを指し、ところざわという地名と「山のいも」を掛けた歌になっているが、このことから、地名の由来を問われたとき、野老に由来すると説明することが多かったのだとか。
所沢を語るうえで外せないのが、西武鉄道。現在の西武池袋線を開業した武蔵野鉄道が、新宿線を開業した旧・西武鉄道を合併してできた会社で、1946年に西武農業鉄道から西武鉄道に改称した。
戦後、所沢は鉄道網を活かし、東京のベッドタウンとして発展。1950年に市制を施行した際には、人口4万人強だったが、その後50年で人口は33万人にまで膨れ上がった。一方で映画『となりのトトロ』の舞台となった狭山丘陵が広がるなど、自然も豊か。良好な住環境を形成し、特に子育て世代からの支持を集めている。
所沢の中心となるのが西武鉄道新宿線と西武鉄道池袋線が乗り入れる「所沢」駅。新宿線利用なら山手線との接続駅である「高田馬場」駅まで約35分、「西武新宿」駅まで約40分(急行利用時)、池袋線利用なら「池袋」駅まで約30分。また池袋線は東京メトロ有楽町線と相互運転を行っており、都心へダイレクトにアクセスすることもできる。
さらに「小竹向原」駅では東京メトロ副都心線に乗り入れる点もポイントで、「Fライナー」を使えば、「新宿三丁目」「渋谷」さらには横浜方面にも乗り換えなしでリーチできる。
駅周辺は、所沢市の中心らしい賑わいで、駅西口は前出の「西武所沢S.C.」を中心に商業集積地になっている。日本の航空発祥の地であることにちなみ命名された「所沢プロぺ商店街」には、西口ロータリーから全長300mに渡り続く商店街で、100以上の店が軒を連ねる。
一方東口は閑静な住宅街を形成してきたが、2018年に駅ビル「グランエミオ所沢」がオープン。2020年には第2期が開業し、全体で120店舗が入る大型商業施設になる予定。新たな人の流れが生まれそうだ。
家族層に支持されるも、すでに人口減少は始まっている
では「所沢」を不動産投資の観点から見ていこう。まず直近の国勢調査(図表1)によると、所沢市の人口は約34万人。埼玉県全体では人口増加率1.0%だったが、所沢市ではマイナス0.4%減と、わずかながら人口減少を記録している。年齢構成(図表2)を見てみると、埼玉県平均とほぼ同じ。65歳以上の高齢者率の全国平均は29.4%であり、それに比べると、現役世代が多いエリアだと言えるだろう。
次に世帯数(図表3)を見てみると、単身者世帯率は33.2%、高齢者を除くと24.1%。交通利便性を重視する単身者層より、住環境を重視するファミリー層に支持されるエリアであることがわかる。
次に住宅事情を見てみよう。所沢市の賃貸住宅における空室率(図表4)は6.2%と、埼玉県市部平均6.6%と同程度。賃貸住宅の建設年の分布(図表5)を見ると、所沢市では80~90年代築の物件が多く、バルブ期に一気に都市化が進んだ結果かと推測される。
駅周辺に絞って見ていこう。所沢市では1世帯あたりの人数が2.35人に対して、「所沢」駅周辺では1.95人(図表6)。ファミリー層から支持される所沢のなかでも、都内主要エリアの通勤1時間圏内となる「所沢」駅周辺は、単身者に好まれる傾向にあるようだ。「所沢」駅周辺の1K・1DKの平均家賃は5.15万円。池袋線の隣駅「秋津」は4.63万円、「西所沢」で4.16万円と比べると高いが、十分リーズナブルな価格だ(平均家賃はいずれも、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ11月6日時点)。
続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。平均取引価格は2,699万円。平均平米数は56.㎡。単身者向け物件よりも大型のファミリー層向けの物件が多く供給されているエリアであり、長く住んでもらえることを基準に物件を選べば、長期的に安定した不動産経営を目指せるだろう。
所沢市の将来人口の推計を見ていこう。実は、所沢はすでに人口減少のトレンドに入っている。国立社会保障・人口問題研究所の推測では、2030年に324,100人、2040年に303,237人、その後、30万人を割り込むと予測している(図表8)。さらに黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を表す将来人口推移のメッシュ分析(図表9)で「所沢」駅周辺を見てみると、駅周辺でも真っ青、つまり人口減少が予測されるという結果になった。
不動産投資はさまざまな要因が関係するものであるが、人口はそのなかでも重要なファクターだ。すでに人口減少が始まり、その流れが加速するという予測を鑑みると、「所沢」での不動産投資は厳しい環境だと言えるだろう。
しかし冒頭の「西武所沢S.C.」の開業をはじめ、西武鉄道は沿線活性化に注力している。今後の取り組み次第では将来予測は大きく変わる可能性があり、そこに大きなチャンスが潜んでいるかもしれない。