右肩上がりに高まるインバウンド需要。オリンピックに向け、公私ともに、ますますグローバルなコミュニケーションが求められています。しかし、時代の潮流に後れを取っている企業・日本人は、いまだ多くいます。本記事では、靖山(せいざん)画廊の代表・山田聖子氏が、日本人の「コミュニケーション力」の乏しさを伝えます。

人口減少時代、「外国人労働者」は必要不可欠だが…

私が経営しているギャラリーは、歌舞伎座のほど近く、銀座5丁目にあります。銀座といえば、皆さんもご存知の通り、高級ブランド店や老舗百貨店が立ち並ぶ日本有数の繁華街です。そして日本全国、海外からも旅行者が訪れる観光スポットでもあります。毎日、このにぎやかな街で働いていて、ここのところ強く感じるのは「いつの間に、こんなに外国人が増えたの!?」ということです。

 

日本を訪れる外国人観光客の数は年々増加していて、2011年に621万8752人だった訪日外国人数は2016年には2403万9700人にのぼり、たった5年で4倍近く増加しています。また、在留外国人の数も2017年末の時点で約256万人と、過去最高になりました(法務省入国管理局報道発表資料より)。日本で生活する外国人もどんどん増えているのです[図表1]。

 

そんななか、「外国人と接する機会が増えた」という人も多いのではないでしょうか。私は仕事柄、商談などで海外へ行くことも多いため、もともといろいろな国の方と接してきましたが、最近ではギャラリーに外国のお客様がいらっしゃることも珍しくなくなりました。ホームページを通じて、海外から問い合わせをいただくことも格段に増えています。おそらく、日本のビジネスパーソンの多くが同じように、仕事のさまざまな場面で国際化を実感しているのではないかと思います。

 

「国際化」を実感している人は多いが…
「国際化」を実感している人は多いが…

 

ご存知の通り、インターネットの急速な普及で、いつでもどこでも簡単に世界中の人とつながれるようになり、ビジネスに国境がなくなりつつあります。そのため各企業は国内だけでなく、世界中の同業他社をライバルとして意識しています。

 

さらに、世界に先駆けて「超高齢化社会」に突入する日本は、労働力となる人口が減り、国内マーケットも縮小してきています。企業が今後も成長・発展していくためには、外国人労働者の受け入れや海外市場の開拓が不可欠なのです。

 

日本企業にとって「グローバル化」は喫緊の課題で、すでに多くの企業が海外進出のための取り組みを行っています。

 

例えば製造業では、海外現地法人による売上高の比率や、海外で働く従業員の比率が、1990年度から上昇傾向にあります。ユニクロの赤地に白文字のロゴを多く目にしたり、トヨタやホンダといった日本車の多さを目の当たりにしたり……私自身も、ニューヨークの五番街やパリ、ロンドンなどといった海外で、日本企業の活躍を感じることが多々あります。

 

とはいえ、日本企業のすべてがグローバル化を実現できているわけではなく、まだまだこれからという企業が多いのも現実。日本貿易振興機構(JETRO)が海外ビジネスに関心の高い日本企業にアンケートを行ったところ、2016年度調査(有効回収数2995社)では、今後3年程度の海外進出方針としては、「拡大を図る」という企業が60.2%にのぼるという結果が出ています[図表2]。

 

いずれにせよ、企業のグローバル化のスピードは、これからさらに加速していきそうです。

 

グローバル化と聞いても、「うちの会社には関係ないかな」とまだピンとこない人もいるかもしれません。しかし、身近なところでいうと、日本のレストランだと思っていたらいつの間にか外資経営に替わっていたというケースも、最近では珍しくなくなっています。また今後、海外出張や外国人との商談が増えたり、外国人の上司や同僚ができたり……といった変化に直面するかもしれません。ビジネスパーソン一人ひとりに、グローバル化が求められる時代が来ているのです。

 

出所:日本政府観光局 統計資料より作成
[図表1]訪日外国人数の推移 出所:日本政府観光局 統計資料より作成

 

出所:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2016年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(JETRO海外ビジネス調査)結果概要」
[図表2]今後の海外進出方針 出所:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2016年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(JETRO海外ビジネス調査)結果概要」

「グローバル・コミュニケーション」に苦戦する現実

実際、経営者の多くは今、世界で活躍できる人材の必要性を強く感じています。2014〜2015年に日本経済団体連合会が463社の企業に行ったアンケートでは、「グローバル経営を進める上での課題」として、「本社でのグローバル人材育成が海外事業展開のスピードに追いついていない」という回答が一番多く挙がっています。次いで多かった回答は「経営幹部層におけるグローバルに活躍できる人材不足」というものでした。では、グローバル人材とは、具体的にどんな人のことを指すのでしょうか。

 

その定義はさまざまですが、政府は2013年6月14日の閣議決定において、グローバル人材とは「日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けてさまざまな分野で活躍できる人材」と定義しています。

 

ひと口にグローバル人材といっても、必要となる適性や能力はさまざまだということが分かります。ただ、そのなかでも、どこでどんな仕事をしていても必ず必要となるのは「コミュニケーション能力」ではないでしょうか。特に異なる文化を持つ人たちと接するときこそ、コミュニケーションスキルが必要不可欠なはずです。

 

外国人とのコミュニケーションに必要なスキルというと、「語学力」と思う人が多いかもしれません。もちろん、ある程度は語学力がなければ外国人と意思疎通を行うことは難しくなりますし、仕事もスムーズに進められないでしょう。けれども、外国語が話せれば外国人と良い関係が築けるのか、海外で実績を残せるかというと、そうとは限らないのです。

 

逆の立場になって考えてみてください。日本語が話せる外国人と会話をしたとき、日本語が上手でも話が弾まない人もいれば、日本語がつたなくても意気投合できる人もいるのではないでしょうか。語学力とコミュニケーション能力は別物なのです。

 

アメリカ人やイギリス人、フランス人、中国人、韓国人……いろいろな国の人とコミュニケーションをとってお互いを理解したり、信頼関係を築いたりするためには、完璧な外国語を話そうとするよりコミュニケーション能力を伸ばすことを意識すべきです。言葉だけの問題であれば、場合によっては通訳を雇うことだってできます。また、最近は、スマートフォンの翻訳機能や翻訳機器の進歩もめざましいものです。

 

今後、語学力よりも個々のコミュニケーション能力が重要視されるようになることは疑いようがありません。なかでも、私が外国人と接するにあたって特に重要だと思うのは、自分の意見や気持ちを伝える力(表現力・発信力)や雑談力です。

 

これはよく言われることですが、日本人独特のあいまいな表現は外国人には伝わりませんし、相手をイライラさせることすらあります。外国人と会話するときには、自分の意見や思いを、分かりやすくストレートに伝える力が必要です。

 

また、仕事で本題に入る前や商談が終わった後などに気の利いた会話ができると、文化や国籍を超えて相手との距離を縮められますし、自分を強く印象付けられます。私も外国人アーティストと話をするときには、相手へのリスペクトや熱意を伝えるとともに、作品の方向性や意図をとことん話し合い、「販売につなげるには価格を下げる必要がある」といった言いにくい現実的なこともはっきり伝えるようにしています。

 

経験上、そのほうが、あとあと「話が違う!」とお互い嫌な思いをしなくて済みますし、長くお付き合いできると分かっているからです。また、仕事以外の会話──特に自分の話を積極的にします。

 

何者か分からない人に、自分の大事な作品を預けようと思う人はいないはずです。雑談を通して私自身がどんな人間かを分かってもらえれば、相手の警戒心はなくなり、信頼関係を築く土台になるものです。

ビジネスにおいて「雑談の仕方」が分からない日本人

このほか、相手の文化に興味を持ち受け入れる力も、外国人との円滑なコミュニケーションに不可欠なものです。これもグローバル・コミュニケーションスキルの一つといえるでしょう。

 

ビジネスパーソンにグローバル・コミュニケーションスキルが求められる一方で、日本人に対して「口下手」「おとなしい」という印象を持っている外国人は多いですし、直接そういった評判を耳にしたことのある人もいるのではないでしょうか。

 

私も海外の友人から、日本人のコミュニケーション下手を指摘された経験は何度もあります。あるアメリカのアートディレクターから、「日本の男性は、会話が全然楽しくない」「自分から話しかけてこないし、意見を言わないし、おとなしくてつまらない」などと厳しい意見を聞かされ、残念な気持ちになったこともありました。

 

もちろん、単に外国語に対する自信のなさや力不足が原因の場合もあるでしょう。ただ、日本のビジネスパーソンには、雑談や世間話が得意でない人が多いように感じます。そもそも日本人は外国人に比べて、ビジネスの場で仕事以外の話をする場面が少ないのではないでしょうか。

 

例えば、同僚とのランチや飲み会でも結局、仕事や職場の話になってしまうという人はいませんか? ましてや、クライアントやお客様が相手となれば、「余計な話はできない」「世間話をするとしても、天気の話くらい」という人も多いでしょう。日本人には仕事相手とあまり雑談を楽しむ習慣がないため、仕事以外の話をしようと思っても何を話してよいか分からず、自分から積極的に話しかけられないのです。また、相手から話題を振られても、自分の個人的な意見や気持ちを伝える力がないせいで、相づちを打つことしかできないという人もいます。

 

一方、外国人は雑談が大好き。初対面の仕事相手であっても、本題に入る前に、お互いの国のニュースや話題のスポット・人物などといった雑談から入るのが普通です。食事会でも、自分の趣味や好きなスポーツ、家族のことなど、よりパーソナルな話題について話し、討論に花を咲かせます。そこで自分の個性をアピールしたり、安心感や信頼感を与えたりすることもできます。それが仕事にもよい影響を与えるのです。

 

さらにそこから個人的に親しくなることも珍しくありません。休みの日に家に招いたり、招かれたりして、家族ぐるみの付き合いが始まり、上下関係のない友人になることだってあります。日本人のビジネスパーソンのなかには、定年退職すると仕事関係の人との付き合いがパタッとなくなり、孤独になる人もいると聞きますが、それとは大違いです。

 

もちろん、「仕事とプライベートは分けたい」「プライベートの時間に仕事関係の人と会いたくない」という意見もあり、それを否定するわけではありませんし、すべての人と友人関係になるべきだと言っているのでもありません。

 

けれども世界のさまざまな人と交流し、よい関係を築くためには、雑談で相手を楽しませたり自分の意見を伝えて個性をアピールしたりするスキルが必要であることは間違いありません。

 

日本人のアピール力のなさは、日本企業の認知度の低さからも分かります。私は20歳の頃、アメリカを旅行したのですが、そのときにこんな経験をしました。

 

バスのなかでおじいさんに席を譲ると、「君はどこから来たの?」と尋ねられたのです。私が「日本からです」と答えると、そこから日本の話になりました。そのなかで私が、日本の有名な企業としてソニーを挙げると、おじいさんはびっくりして「ソニーはアメリカの会社じゃないのか!?」と言うのです。

 

それには私のほうが驚いたと同時に日本人としての使命感に駆られてしまい、つたない英語で、ソニーという会社や日本企業の技術力の高さについて力説してしまいました。別れ際、おじいさんが「これから、日本のことをもっと勉強するよ!」と言ってくれたのが嬉しく、よく覚えています。

 

それからずいぶんと時間が経ちましたが、相変わらず、「ソニーをアメリカの企業だと思っている外国人」の話はよく耳にします。また、ソニー以外にもパナソニックやブリヂストンなどは、名前を知っていても日本企業だと知らない外国人が多いそうです。これだけ有名な企業でさえ日本企業と認識されていないというのは、どこかさみしい気がします。私はこれも、日本人のアピール力の弱さやつたなさのせいなのではないかと考えています。

教養としての「芸術」入門

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山田 聖子

幻冬舎メディアコンサルティング

多数メディアで活躍中の「ギャラリスト」が解説! 初心者でも楽しみながら学べるはじめての「芸術」ガイド。 【目次】 第1章 日本人は「芸術」への関心が不足している 第2章 「芸術」は世界共通の“コミュニケーションツ…

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