営業出身の経営者でも「営業部門の現状」を知らない
これまで長い間、営業は「話術」「経験」「やる気」でなんとかするものだとされてきました。今なおこの通説は広く信じられています。一方で、インターネットをはじめとするITを活用したネット通販やECサイトによる企業間の取引など、対面営業をせずに自動的にモノやサービスを販売する仕組みも普及しています。
しかしダイレクト販売のようなケースを除けば、大部分の企業は人が介在して売上が得られています。
会社の組織の中で、売上ノルマがあるのは営業・マーケティング部門だけです。個々の営業担当者もまたそれぞれに販売ノルマを抱えています。結局、対面営業を担当する一人ひとりに負荷がかかってきます。もちろん営業・マーケティング部門の成績は売上や利益に直結しますから、企業の経営者も関心を持たずにはいられません。
ところが、経営者の大多数は、営業が現場で実際に顧客を目の前にしてどのような活動をしているかを知りません。
営業出身の経営者の場合、おそらくご自分が〝できる営業担当〞だったことでしょう。しかし実際には、できる営業はむしろ少数派です。それ以外の〝そこそこの営業〞や〝できない営業〞がなぜ苦労するのかが、できる営業だった経営者ほど理解できません。しかも時代の変化もあって、「昔取った杵柄」が今も通用するとは限らないのです。まして営業を経験したことがない経営者は、なおさらその実態を把握することは困難です。
しかも経営者には、ほかにもこなさなければならない仕事があります。企業の規模が大きくなると、製造、開発、財務会計、教育研修などを担う各部門があり、営業部門もそのような企業を構成する一部分になります。ほかに内部統制、企業統治、CSR(企業の社会的責任)など、目を配らなければならない経営課題は山積しています。するとどうしても、営業推進は営業やマーケティングの責任者に任せておけばいいということになってしまいます。
経営者だけではありません。販売を支援する仕組みづくりなどを担当するマーケティング部門は、本来なら営業部門と緊密に連携を取りながら売上を伸ばす立場です。しかしよく聞くのは「売ってくるのは営業の仕事、売れないのは営業部門の責任」という営業現場との乖離です。
「対面営業」の支援が会社存続の根幹に関わる
営業成績の良し悪しは営業部門だけの問題ではなく、会社全体の活動の結果が集約された数字です。商品開発の努力や、広告宣伝による呼び込みなどのマーケティング活動があるからこそ、営業担当者は自社のモノやサービスを売り込むことができます。ですから営業部門は、たまたま会社の総力を挙げた結果が集約される場所にいるだけで、営業成績には社内の全部門が関わりを持っているといえます。
ではモノやサービスは、どのようにして売れていくのでしょうか。営業という仕事がどのようにして成立しているかを理解するために、顧客側の目線で検証してみましょう。
モノやサービスを購入するに至るまでの過程は、まずその存在を認知するところから始まります。その結果関心を持つと似たようなものと比較し、実際に手に取って触ったり体験したりして検討した上で購入するという道筋をたどります。また、ネットを使えば検索やSNSや価格ドットコムのような比較サイトも利用できます。
このときに購入する人は、マスメディアやインターネットメディア、広告や各種サイトなどを通じて企業が発した情報に触れています[図表]。どんな中身かがだいたい想像できるようなものなら、情報だけ集めたらネット通販で注文してしまうかもしれません。しかし家電製品や自動車など値が張るものや、おしゃれ着のように実際に身体に合わせてみたいものは、お店に行って買うはずです。そして店員の説明やアドバイスも聞いてから購入するかどうかを決めるでしょう。
このような購入に至るプロセスは「カスタマージャーニー」と呼ばれています。カスタマージャーニーにおいて、人と人が接触する場面が生まれます。人と会って話を聞くことが購入を決定づける最後の一押しとなるのは、一般的な消費者として誰もが経験して感じることではないでしょうか。
企業の購入行動では、この傾向がさらに強くなります。それはやはり非接触で行う広報やマーケティング活動、電話やネット、ダイレクトメールによるインサイドセールスなどと、人と人とが接触する対面営業に分けられますが、興味が出てきて購入に近づくほど対面営業の重要性が増していきます。
営業の成果は、前に述べたように営業部門の努力だけで得られるわけではありません。このカスタマージャーニーの図を見ても分かるように、マーケティングやインサイドセールスも含めた企業の総力戦です。
その中でも購入に至るまでの顧客の体験でカギになるのは人と対面する場面です。売る側からいえば、やはり人が顧客を訪問して丁寧に説明してクロージングをしてこなければということになるでしょう。ですから企業は対面営業に多くの時間をかけ、人件費がかかっても営業担当を置くようにしています。
その重要な対面営業の現場で、営業担当者の力量に頼るだけでなく、会社が持つ情報を始めとした資産を活用することを多くの方が望まれていると思います。対面営業で担当者を会社がいかに支援できるかという意味でも、営業は全社を挙げた総力戦であるわけです。