10月雇用統計でクローズアップされた「米金融政策」の正当性

米国雇用統計(10月)が発表された2日の米国株式市場では、S&P500種が終値ベースで過去最高値を更新した。10月30日の米連邦準備理事会(FRB)による今年3度目の利下げ決定を受けて、個人消費の拡大を支える雇用市場の動向は、過去2度の利下げの効果測定としても注目が集まっていたが、米中通商会議の進展と合わさり、結果を株式市場が好感した形だ。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が解説する。

景気拡大が今後どれほど継続するか「見極める段階」に

10月の非農業部門雇用者数の伸びは、市場の事前予想(8万5千人増)を上回り、12万8千人増だった。10月はゼネラル・モーターズ(GM)で起こったストライキに伴い4万1千人減少する要因があったことに加え、国勢調査に関連した臨時職員の雇用終了に伴う2万人減が含まれるため、それを差し引いてなお12万8千人の伸びがあった点はやや市場を驚かせた。

 

3カ月平均で見れば、17万6000人増加であり、これは2018年の水準を下回るものの、求職者の伸びに見合う雇用増加数が月10万人と見られる中で、この数字はクリアしている。

 

また9月の同雇用者数も、前回発表された速報値13万6千人増から、18万人増と大きく上方修正された。業種別に見ると、娯楽、ホスピタリティーや教育・医療等で雇用の伸びが顕著で、建設や金融、小売りも引き続き増加傾向を維持している。気がかりな点を挙げれば、製造業の雇用(10月)が3万6千人減と、2009年以降で最大のマイナス幅となったことだろう。不完全雇用率(U6)*も、7.0%に上昇した。

 

*U6=フルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムの職に就いている労働者や、仕事に就きたいとは考えているものの積極的に職探しをしていない人を含む広義の失業率

 

失業率(10月)は3.6%と、9月の3.5%からは小幅上昇したが、平均時給は前年同月比で3.0%増加、前月比では0.2%増と、こちらはストが影響した可能性があり、市場予想をやや下回った。

 

全体として、雇用市場は、非常にしっかりと堅調さを維持していると評価すべきデータで、雇用環境が、賃金の増加につながり、個人消費を支えているという図式が見える。少なくとも、雇用が勢いを失うような兆候は見られず、この点からも、米FRBが先日のFOMCで公表したように、金融政策を「しばらく据え置く」との見方を支持するものと言えるだろう。

 

クラリダFRB副議長は米メディアのインタビューで、金融政策は「良好な状況」にあり、消費者動向は堅調だと、FOMC声明になぞらえてコメントし、FRBの判断の正当性を強調した。

 

筆者は、米国経済は、弱気に転じた製造業を中心とする企業の景況感を背景とした低調な設備投資や通商活動の減退というマイナス要因と、堅調な雇用市場が支える個人消費の拡大というプラス要因が混在する中で、すでに過去最長に達した景気拡大が今後どれほど継続するかを見極める段階にあると見ている。

 

FRBは、予防的に引き下げた政策金利の効果が、雇用や消費をさらに支えて、米国経済の足取りを持ちこたえさせ、再びしっかりと成長軌道に回帰することをメインシナリオに、世界経済のリスクがどう変化するかアンテナを高くするということだろう。

米中両政府ともに「成果」を協調したい思惑がある

雇用統計に加えて、米中通商協議に関する進展が伝えられた。トランプ大統領は28日に、中国との通商協議に関して、『第1段階』として予定より早く、かなり大きな合意に達する可能性に触れ、11月にチリで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で署名が計画されていると発言していた。

 

1日には、米通商代表部(USTR)も、ライトハイザー代表とムニューシン米財務長官、および中国の劉鶴副首相が電話協議を行い、通商協議で「様々な分野での進展があったと公表した。新華社通信も、閣僚級協議の結果、「双方が核心的懸念への適切な対応を巡り、真剣かつ建設的な協議を行い、原則合意に達した」と報道した。

 

雇用統計と米中通商交渉の進展報道を受け、2日の米国株式市場では、S&P500種が終値ベースで過去最高値を更新した。ダウ工業株30種平均は301.13ドル(1.1%)高の27347.36ドルで引けた。債券市場では、債券は小幅に売られ、債券価格は下落、利回りは上昇して、米10年債利回りは0.03%上昇の利回り1.71%となった。

 

原油は、大幅に反発し、6週間ぶりの水準に上昇した。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物12月限は2.02ドル(3.7%)高の1バレル=56.20ドルで終了した。金先物相場は小幅反落した。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は0.2%安の1オンス=1511.40ドルで引けた。

 

米中両政府とも、景気減速への対応を迫られており、通商交渉で“成果”を強調するインセンティブがある。当面、合意に向けてポジティブな姿勢を維持するだろう。そうなると、経済の見通しには確信は持てないものの、株価はジリジリと高値を更新する相場が続くのではないだろうか? 債券は、横ばいか利回りの小幅上昇が続くだろう。為替は、引き続き動きが鈍いが、米ドル金利の低下が見通せないため、ドルは消去法的に買われる傾向は維持されると考える。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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