「米国経済が良好な状態にある」なかでの利下げ決定
米連邦準備理事会(FRB)は、10月29-30日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利であるフェデラルファンド(FF)の誘導目標レンジを0.25%引き下げ1.50-1.75%とすることを決定した。3回続いたFOMCにおいて、立て続けに政策金利を引き下げたことになる。ただ、会合終了後に発表した声明では、前回までの声明に記載されていた「景気拡大を維持するために、適切に行動する」との文言が削除された。そして、「FF金利の誘導目標レンジの適切な道筋を精査する」との記載が加えられ、今後の経済データを注視していく姿勢に転換することを示唆した。
パウエルFRB議長は、記者会見で、米国経済は消費が成長をけん引しており、今年に入って吹き続けている向かい風に対し抵抗力を示していることを指摘し、米国経済が基本的に良好な状態にあるとの認識を示した。失業率も、半世紀ぶりの低水準にあり、雇用市場について「力強く」、雇用の伸びは「堅調」であり、家計消費は「力強いペース」で増加していると表現した。実際、30日に発表された米実質国内総生産(GDP)速報値(7-9月(第3四半期))では、米国経済は前期比年率1.9%の成長率で、伸びでは事前の予想を上回った。
一方で、経済見通しに「不確実性」が高まっていることも認め、企業の設備投資と輸出については「弱いまま推移」しているとの表現に修正した。その上で、追加利下げを決定した理由として、9月のFOMC会合時にも指摘していた、世界的な経済動向からの悪影響が引き続き懸念されることを挙げた。
今後については、「金融政策は良好な状況にある」との考えを示し、「今後の経済データがFOMCでの見通しと整合する限り、現在の政策スタンスは適切であり続ける可能性が高いと見ている」と述べて、利下げを継続するというよりは、当面、政策金利を据え置く可能性を示唆した。
なお、今回の表決に際しては、前回、前々回の利下げ時と同様、ジョージ・カンザスシティー連銀総裁とローゼングレン・ボストン連銀総裁が金利据え置きを主張し、反対票を投じたことも明らかとなった。
FOMC声明から「適切に行動する」との文言が削除されたことは、パウエル議長をはじめFOMC政策担当者が、忍耐強く見極め姿勢に転じることを示唆する。少なくとも次回12月のFOMC会合では、政策を据え置く可能性が高まったと見るべきだろう。今後の経済データが、急速に悪化するなどしない限り、12月のFOMCでの追加利下げはないと見るのが自然である。ただ、そうだとすれば、年内の追加利下げの確率は低下するはずだが、FOMC後の米国債相場は、債券価格が上昇(利回り低下)した。フェデラルファンド(FF)金利先物市場でも、12月の追加利下げの確率は、まだそこそこ織り込んだままである。
一方、市場は米国経済の「鈍化」をいまだ懸念
一方で、米国経済は緩やかだが鈍化していると市場は解釈しており、引き続き、市場参加者は楽観的にはなれないようだ。
「(今後の)データ次第」とのFOMC声明の表現に従えば、米FRBが追加利下げに踏み切るかどうかは、予防的なものとしての政策金利の調整ではなく、景気が一段とリスクに晒されるなど、景気減速に対応した形になるだろう。
米FRBは立て続けにアクションを取ったことの効果を見極めたいとの姿勢に転じ、利下げも一時休止の状態にしたいのだろうが、景気は、まさに下振れ方向にも上振れ方向にも向かいかねない状況というべきなのではないか。米国企業が設備投資に続いて、雇用に関しても「削減」といった形で手を付け始めれば、金融当局の想定よりも景気が悪化する可能性はある。そして、第4四半期に低調な経済指標が示されて、米金融当局が追加的な政策決定を余儀なくされるのではないかとの、市場の懸念はくすぶるだろう。
一方で、筆者は従前から指摘してきたが、連続3回の利下げにより、米金融政策に関する、金利の低下をいち早く織り込んできた市場の懸念と、当局(FRB)の認識のギャップは埋まりつつある。すなわち、先行しすぎた市場での米ドル金利の低下は、程度問題だが、しばし抑制されるのではないだろうか。金利低下がすぐさま起こるのではなく、当面、経済指標に一喜一憂することになるのではないか。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO