世界金融危機以降「最も低い成長率」に…IMF世界経済見通し

15日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO)を更新。2019年の成長率予想が下方修正され、総括では「さえない経済成長」と表現された。これを受け、多くのメディアで「世界経済の減速」が報じられたが、一部マーケット系レポートでは「19年が底」との見方も。直近の市場は、米中通称協議の暫定合意や英国の合意なき離脱回避など、明るい話題も続く。合わせて、どう読み解くか? Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が解説する。

下方修正の主な理由は「世界貿易の量の減少」

本欄でもたびたび取り上げているが、国際通貨基金 (IMF)が、世界経済見通し(WEO)を更新したので、取り上げておく。三ヶ月に一度、1月、4月、7月、10月に更新されるので、定点観測としてフォローしていただくことをおすすめする。

 

10月のWEOでは、2019年の世界経済の成長率予想を3.0%と、7月時点の予想だった3.2%から下方修正された。2020年の予想も3.4%へと、7月時点の3.5%から引き下げた。世界経済は、今年、主要国がシンクロして減速に向かっており、世界経済が3.0%成長にとどまれば、世界金融危機以降で最も低い伸びとなる。

 

下方修正の主な理由は、貿易摩擦や関税引き上げ、地政学的な情勢をめぐる不透明感から、世界貿易の量が減少しているためである。世界貿易量の増加ペースは、前年比1.1%増と僅かな増加にとどまり、停滞感が著しい。これが、世界の主要国・地域で広範に景気減速の動きに繋がっていることが指摘された。

 

2019年の米国、ユーロ圏、中国の各国成長率の予測をすべて引き下げた。米国経済の成長率は2.4%と前回より▲0.2%下方修正された。ユーロ圏の成長率見通しも下方修正され、わずか1.2%成長にとどまる見通しである。ユーロ圏内の主要国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、いずれも成長率見通しが下方修正されたことが響いた。ブレグジットに揺れる英国の成長率見通しも下方修正され、ユーロ圏同様に1.2%にとどまるとの見通しである。中国経済の成長率も、さらに下方修正され6.1%にとどまる見通しだという。

 

振り返れば、2017年には、世界各国で景気拡大が同時進行し3.8%の成長率を記録したが、2018年の第2四半期から第4四半期にかけて急速にブレーキがかかった。その後、深刻化する通商摩擦や地政学的緊張の高まりから自由貿易体制の維持や国際協調の将来に関する不透明感が増し、景況感や投資の決定、世界貿易に打撃を与えている。

 

特に製造業には勢いがなく、2019年の成長率見通しがここまで落ち込んできたことは、危うい状態であると言える。米国を中心に、サービス業種で、雇用の伸びが続いていることと、米FRBをはじめ、ECBも、中国人民銀行も、金融緩和へと政策の舵を切ったことが、金融市場の動揺や悲観的に傾きがちな市場を下支えしていると評価しているものの、米国では非製造業の景況感にも下降傾向が鮮明となってきており、不安定感は否めない。

2020年の成長回復…「楽観的な見通し」に牽制か

2020年の予測は、世界全体の経済成長率が3.4%と、前回7月の見通しからは0.2%幅で下方修正となるものの、やや改善する見通しが維持された。米国の成長率については△0.2%引き上げられ、2.1%成長の見通しが示された。ユーロ圏の成長率見通しも、2019年からはボトムアウトするものの1.4%成長にとどまる。中国経済の成長率は5.8%と2019年の6.0%を下回る予想となった。先進国全体では2020年成長率は1.7%と2019年並みだが、新興市場国や発展途上国の成長率は 2019年の3.9%から2020年の 4.6%に上向く見通しが示された。

 

しかし、2020年の成長回復は裾野が狭く、心もとないと表現されるほどで、見通しが明るいわけではないようだ。2019年の成長率が大幅に低下した新興国各国、具体的にはトルコ、アルゼンチン、イラン、ブラジル、メキシコ、インド、ロシア、サウジアラビアといった国々で、景気の回復が期待できると指摘している。力強い回復というより、下げた分を自律回復するという印象だろう。グローバルには、2020年も経済成長見通しは、不安定と言わざるを得ない。

 

WEOの中では、トランプ米大統領の通商政策が、世界経済にとっての最大の脅威であると直接的に表現された。今年の成長率の低下が、世界の貿易量の伸び鈍化が主因であるとの指摘の通り、関税引き上げによる経済的損失がいかに大きいかが浮き彫りになったとして、トランプ大統領の政策を批判した。そして、「貿易摩擦を解消し、多国間協力を再び活発にし、必要とあらばタイミング良く経済活動支援を実施することを断固として目指していかなければならない」と、通商摩擦と地政学的緊張を緩和するべく各国が協調することが急務だと呼びかけた。

 

先日の、米中通商協議の「暫定合意」が、関税措置や対立状態の緩和に繋がり、世界的な先行きの不透明感が払拭されたり、英国の欧州連合(EU)からの『合意なき離脱』が回避されたりするなど、需要が予想以上に押し上げられる可能性もないわけではないが、楽観的な見通しを戒めるようなレポートであったと筆者は、読み込んでいる。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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