争いが絶えないことから「争族」と揶揄される「相続トラブル」。当事者にならないために、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、父の遺言を次男と叔父だけが聞いていたことによるトラブルを、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

面倒を見てくれる次男に自宅を継ぐと約束したが……

相続は、トラブルに発展しやすいパターンがあります。その一つが、口約束。言った、言わないの約束が、後々に相続トラブルに発展しまうのです。今回ご紹介するのも、そんな家族です。

 

最近、足腰が弱くなり、何かと不便を感じるようになったAさん。「やはり年には勝てないな」というのが口癖になっていました。妻に先立たれたAさんには、長男、長女、次男の3人の子供がいましたが、頼りにしていたのは実家の近くに住んでいた次男家族。次男もその妻も、Aさんを気にかけて、よく様子を見に来てくれていました。

 

ある日のこと。

 

「お義父さん、お菓子買ってきたので食べましょ」と次男の妻がAさんを訪ねに来ました。

 

「すまないね、いつもいつも」

 

「自転車を使えば、30分で来れるんですから、気にしないでください」

 

またある日のこと。

 

「父さん、ご飯食べた? おかず作りすぎちゃったみたいで、持ってきたんだけど」と次男がAさんを訪ねに来ました。

 

「ちょうど、米だけ炊いたところだったから、助かるよ」

 

このように、何かと理由をつけて、次男家族は様子を見に来てくれました。一度、同居も提案されたこともありました。ありがたい話でしたが、程よい距離感があったほうがいいと考え断りました。次男家族もAさんの気持ちを考えて、以降は無理に同居とは言わずに、できる範囲で様子を見に行くようにしていました。

 

ある日のこと。実家には次男のほか、Aさんの弟であるBさんが遊びに来ていました。

 

「ちょうどBもいるから、伝えておきたいことがある」

 

Aさんが静かに切り出しました。

 

「C(=次男)や、Dさん(=次男の妻)には、いつも気にかけてもらって、本当に助かっている。それで、私もいつ何があってもおかしくない年だ。そこで相続なんだけど、残せるものは、この家くらいなんだが、Cに残したいと思っている」

 

「父さん……でも兄さんや姉さんもいるし」

 

「二人とも遺産なんてなくても、困らんだろ。ふたりには本当に良くしてもらっているから、この家を残したいんだ。そういうことだから、B、証人だからな」

 

「わかったよ、兄さん。もしもの時は、な」とAさんの弟。

 

「これで、いつでもあの世に行けるな」

 

「やめてよ、父さん。縁起でもない」

 

何かと世話をしてくれる次男家族に何か残してあげたいという親心
何かと世話をしてくれる次男家族に何か残してあげたいという親心

 

そんなやり取りがあった数年後。Aさんは亡くなりました。そしてすべての法要が終わったときに、長男が「父さんの遺産なんだけど」と切り出しました。

 

「確認したんだけど、口座にあったのは200万円ほど。あとはこの家。相続人で等分するのがいいと思うんだが」

 

「この家のことなんだが」とAさんの弟であるBさんが話に割り込みます。

 

「生前、この家はCにと言っていたんだ。なあC」

 

「あ、ああ、父さんはそう言ってくれていたね」と次男。

 

「叔父さん、そんなこと、私は聞いていないわ」と長女。

 

「Cは、色々とAの世話をしていたからな。だからそういう判断をしたんだろ」とBさん。

 

「叔父さん、そう言っていたという証拠、遺言はあるのかい?」と長男。

 

「遺言……そういったものはないが、私が証人だ」とBさん。

 

「それだと、父さんが本当に言っていたかわからないから無効だよ、叔父さん」

 

「いや、確かにCと私は聞いている。なあC」

 

「ちょっと待って」と長女が話を遮ります。

 

「確かに、Cは父さんの面倒をよく見てくれていたかもしれない。でもそれは、近くに住んでいたからでしょ。私だってお父さんの近くにいたら、そうしていたわ」

 

「そうだな、遺産の分け方に差をつけられると、まるで俺達が父さんのことを考えていなかったと言われているようで、気分が悪い。遺言書はないのだから、やはり等分するのが一番いいだろう」

 

「確かにAは言っていたんだよ。Aの気持ちを尊重しようじゃないか」とBさん。

 

「そうは言っても、本当に、父さんがそう言っていたかわからないし……」と長男。

 

結局、話し合いの末、Aさんの遺産は三兄妹で等分することになったそうです。

遺言書を残すなら「公正証書遺言」がおすすめ

事例のように、口約束だけの遺言というのは、「言った」「言っていない」とトラブルになりやすいパターンのひとつです。口約束だけでは立証が難しいので、はやり遺志は遺言書にしておくことをおすすめします。

 

遺言書には、自分で作る「自筆証書遺言」と公証役場で公証人が作ってくれる「公正証書遺言」があります。

 

「自筆証書遺言書」は、15歳以上の人であれば、誰でも紙とペンだけで簡単に作ることが可能です(15歳未満の人が作った遺言書は無効です)。財産目録以外は、自分の手で書き上げなければ無効になるなど、細かい条件がたくさんあります。自筆にこだわるなら、それ専用の本を一冊買ってもいいかもしれないですね。

 

「公正証書遺言」は、安全性と確実性が非常に高い遺言書です。「偽造変造のリスクが一切ないこと」「公正証書遺言は、公証役場で預かってもらえること」がメリットです。ちなみに、2020年7月10日からは、法務局が「自筆証書遺言」を保管する制度ができます。

 

筆者はこれまで多くの相続の相談に乗ってきましが、その経験からお話すると、遺言書の作成は、手間とお金が掛かっても、公正証書で作ることを強くおすすめします。と、いうのも自筆証書遺言は、紛失など、非常によくトラブルが起きてしまうからです。

 

現在、遺言書を残す人は、10人に1人と言われています。しかし「遺言書があって本当によかったですね」ということや、「遺言書さえ残しておいてくれれば、よかったのに」というシチュエーションはたくさんあります。残される方のためにも、遺言書を残すことを一考してみてください。

 

【動画/筆者が「遺言書の改正ポイント」について分かりやすく解説

 

橘慶太

円満相続税理士法人

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