「最近、この店の質が落ちたな」
売上が激減してしまったラーメン店の状況をチェックすると、味も盛り付けも雑になっていました。お店を仕切っている店長にもよりますが、プロの監視がなくなると、これほどあっけなく品質が下がるものなのです。
やはり雇われている人たちから見れば、お任せでほったらかしのオーナーがいるだけでは緊張感が続かないのでしょう。店の規模が大きい分、雑になりやすかったということもあります。
しかも売上が順調だった時期もあったので、店のスタッフも自分たちだけでも好きなようにやらせてもらえればもっと売上を上げられると錯覚してしまいます。
そのため、私がいなくなってから最初の1カ月間くらいまでは私に言われたことを忠実に守っていたのですが、2カ月目あたりからだんだんと自分たちなりのやり方を始めてしまうのです。
そしていったん味や盛り付け、店内の清潔感などが劣化してしまうと、お客さまに「最近、この店の質が落ちたな」と思われてしまいます。そうなると、それまでに育ててきたブランドイメージがあっけなくダウンしてしまいます。
しかも私がいなくなってから、メニューも勝手に減らしていました。これはスタッフが滅多に注文されないメニューはなくても同じだろう、たまに注文されると対応が面倒くさい、という素人判断をしてしまったのです。
私は「勝手にメニューを減らしてはダメだ。注文されなくてもこの規模の店舗ではそれに見合った品揃えがあることが大切なんだよ」と言いました。つまり、注文されないと分かっていても、お客さまに選択肢を与えることが重要なのですね。
ネギ味噌ラーメンは注文されるけどネギ塩ラーメンは滅多に出ないからといってメニューからなくしてしまうと、ネギ味噌ラーメンも売れなくなるのです。
また、値段の面からも店舗の規模に見合った選択肢を用意しておく必要があります。 600円のラーメンと700円のラーメン、そして800円のラーメンしかなければ、700円のラーメンが最も売れます。次に600円のラーメンです(図表参照)。
これは、一番高いのはぜいたくかな、と思って避けてしまう心理と安いほうがお得だと思う心理が働くためです。
しかしここに900円のラーメンを加えれば、同じ心理でも800円のラーメンが売れるようになります。ぜいたくかな、と感じる基準が上がるためです。
ですから、めったに注文されなくても用意しておくべきメニューというものがあります。つまり、お店のメニューは全品まんべんなく売るつもりで揃えるのではなく、お客さまに選ばせるために揃えておく必要があるのです。
ただし、準備することで余分な経費がかかりすぎるようなメニューは削除しても構いません。
ラーメン店は月300店舗近く閉店…その理由は?
ラーメン店は月に300店舗開業しているとも言われるほど人気がある飲食店ですが、ほぼ同じ数だけ閉店しているとも言われるほど、競争が激しく難しいというのもまた現実です。
ですから、すでにレッドオーシャンであり、いまさら参入するのは得策ではないと考える人も多いでしょう。
ところが私に言わせれば、閉店してしまうところにはそれなりの問題があるわけで、その点を改善できていれば売上を上げることができるのです。
つまり、一見多くの競合がひしめき合っているように見えるのですが、多くの店がきちんとしたノウハウを持っていないために、実は本当の意味での競合は少ないとも言えます。
自分の店の欠点や問題点に気付かないまま営業を続けてしまっているお店のなんと多いことでしょうか。
そのような欠点や問題点を指摘して改善する方法をお教えするのが、ラーメンプロデューサーである私の仕事です。
ラーメン店がつぶれる理由はケース・バイ・ケースですので、一概にこれが原因と言い難いのですが、要するにお客さまが店に付かないのです。
ではなぜお客さまが付かないのかというと、その原因にはお店の造りや立地条件、あるいは清潔感など様々あるのですが、最も多い原因は味が不安定であることです。
極端な場合は午前中と午後では味が大きく変わってしまうお店もあります。
たまたま味がうまく出せているときに入ったお客さまはリピートしてくれますが、その2度目の来店時に味が変わっていたら、がっかりしてもう二度と来てくれません。また、味が落ちているときに来たお客さまは、もちろん次の来店はありません。
しかも、がっかりしたお客さまの何割かは、ネット上に「まずかった」「期待外れだった」「もう行かない」などと書き込んでしまうかもしれません。すると、それを見た人は、よほど好奇心旺盛な人でもない限り、最初から来てくれません。
その結果、お客さまが店に付かないのです。
「工場系」スープがけっして邪道ではない理由
それでは、味を安定させるにはどうすればよいのでしょうか。
味が不安定なお店は、すべての調理を店内で行っているお店です。
この場合、味を安定させるのは非常に難しいのです。なにしろ仕入れた素材が必ず一定の品質を保てるとは限りません。
たとえば豚の骨を使っている場合でも、その豚が何を食べていたのかによって味が変わってしまいます。それほど豚骨スープの味を安定させるのは難しい。まだ、鶏ガラのほうが味がぶれにくいと言えますが、それでも常に安定した味を出し続けることは難しいのです。
また、作り始めて間もないときのスープの味を、営業時間中一定に保つことも難しいのです。
ですから、ラーメンマニアと呼ばれるような人たちは、開店直後のスープがその店の最高のコンディションであることを狙って食べに来ます。彼らは開店してから時間が経つほどにスープの味が劣化していくことを知っているためです。
また、あるラーメン店などは、スープが理想的な味に仕上がったときしか開店しません。スープの出来が悪いとお店を開かない方針なのです。それほど毎日同じ味を出すのは難しいということです。
ところが、私がプロデュースしているラーメン店の味は常に安定しています。
それは、スープや麺を工場で作っているためです。
実はラーメンオタクと呼ばれるような人たちからすると、私のようにスープや麺を工場で作らせているのは「工場系」で邪道だと捉えられていました。しかし、大多数のお客さまは、スープや麺がどこで作られていようと気にしません。それよりも味が安定していることのほうを重視します。
大多数のお客さまを味方に付けることが大切です。その結果、私がプロデュースしているお店は、「食べログ」1位やランクイン常連になっているのです。
7、8年前のことですが、工場で安定した品質のスープと麺を作って、お店に配給する方式を採用したのは、私だけでした。
ある人気ラーメン店では、お店が増え始めると、均一の安定したスープを作れなくなってきました。各店舗でスープを作っていた方式をやめて、工場でスープを作る方式に変えていきましたが、面白いのは、この人気ラーメン店が工場でスープを作る方式を採用した途端に、ラーメンオタクたちが「工場系」を批判しなくなったことです。結局、工場系のほうが常に安定しておいしいことを認めざるを得なくなったのでしょう。