業界では月に1席で20万円売り上げれば繁盛とされる
ラーメン店は1日に何杯売れば儲けが出るのかという質問をよく受けるのですが、実のところかなり幅があるので、正確な数値で即答することは難しいです。座席数やメニューの種類、仕入れている材料費や、人件費、家賃など、経費によってずいぶんと変わってくるためです。
ただ、それでもざっくりとしたイメージを持っていただくためにあえてお答えしているのは、黒字と赤字の分岐点は60~70杯というあたりです(図表参照)。
1日に100杯売っているラーメン店も結構あるのですが、このクラスならかなり儲かっている優秀なお店と考えてよいでしょう。この業界では月に1席で20万円売り上げれば繁盛していると言われています。10席あるお店なら月に200万円売り上げているということです。
たとえば私が当時関わっていた「麺屋一燈」というお店は11席で月に500万円ほど売り上げていますから、かなりハイレベルと言えます。
ラーメン店を始めるとき、店舗が決まっている場合は別ですが、まだ店舗が決まっていない場合は、10席ほどの店舗をお勧めすることが多いのです。多くても24席止まりです。これは、10席くらいであれば、1人でなんとか切り盛りできるというのが理由です。24席になるとやはりスタッフが3人はいないと回せなくなります。
さらにこれ以上の席数になると、スタッフが5~6人は必要になりますので、人員の確保や管理が難しくなってきます。ですから私は、席数は10~24の間を勧めているのです。
ただ、先に大きな物件が手に入ってしまって、これを前提にプロデュースしなければならないときがあります。このようなときは私でもかなり神経を使います。やはり大型の店舗になると、ファミリー層のお客さまも当て込まなくてはいけません。そのために、メニューの幅も広げる必要が出てきます。ですから、25席以上の物件で出店するときは、結構な大勝負をすることになります。
一度下がった業績を立て直すのはかなり難しい…
以前、不動産のオーナーが100席も入る大型物件を用意してお店を出すことになったことがあります。そこで私は出店した後も1年間コンサルティングを続けました。この規模になると気を抜けません。
ところが売上が順調だったので、途中でオーナーがもう大丈夫だと判断してしまいました。それでもう、私のコンサルティングは必要ないと言い出します。
「いや、ここで手を抜くとまずいですよ。この規模のお店は3年間は私に見させてください。コンサルティング料がかかる分儲けが少なくても、この3年間さえしっかり経営すれば、息の長い名店になりますから」
と私は忠告したのですが、すっかり売上に気を良くしていたので、「もう、藏本さんのコンサルは要りませんよ」と聞く耳を持ちません。
私としてもコンサルティングを押し売りするつもりはまったくありませんでしたので、「それならお好きにどうぞ」と手を引きました。
すると3カ月ほどで売上が激減してしまいました。
―ああ、まずいなぁ。
それでもコンサルを押し売りする気がまったくありませんでしたので、傍観しておりました。もしかするとご自分で何か手を打つかもしれませんし。
すると半年後にオーナーが血相を変えて私の元にやってきました。
「なんとかしてくれ。もう一度コンサルしてくれないか」
「だから手を抜いてはいけませんよ、と忠告したのです」
とはいえ、困っているオーナーの依頼を断るほど私も鬼ではありませんので引き受けましたが、「一度下がった業績を立て直すのは、コンサルを継続していたときよりも難しいですよ」と念を押しておきました。
それは嫌みではなく、本当のことだからです。順調な売上を維持することよりも、一度激減した売上を戻すことのほうがはるかに難しい。たとえば3カ月間売上が下がっていたとすると、売上を戻すまでには倍の6カ月間が必要になります。もうこれで安心だ、という状況にまで立て直すには3倍の期間がかかることもあるのです。
「それなりに予算もかかりますよ」
分かった―と納得されたので、立ち上げ直しを行いました。