遺産分割協議は問題なく成立していたが…
母親が亡くなり、子どもである姉妹2人を法定相続人とする相続が開始しました。
姉妹2人で遺産分割協議をして、問題なく協議は成立しました。しかしその後、母の遺言が発見されたのです。
見つかった母の遺言には、姉に母が生前居住していた家と預貯金及び現金500万円を、妹に現金500万円を相続させる旨の内容が記載されていました。
対して、すでに成立していた遺産分割協議では「姉が家と預貯金を、妹が現金1000万円を相続する」などと定めていました。そのため、当該遺言を前提とすれば、このような遺産分割協議はしなかったとして、姉が妹に対して、遺産分割協議は錯誤無効であると、遺産分割協議無効確認の訴訟を提起しました。
妹は、姉が遺産分割協議に基づいて、協議成立後に不動産所有権移転登記手続をしていたことから、姉に錯誤はなく、あったとしても事後的に追認しており遺産分割協議はいずれにしても有効であると主張しました。
そこで裁判所は、姉側の登記手続及び遺言発見から依頼者が移転後の登記をそのままにしていたことなどに注目し、依頼者側が錯誤に陥っていたとすればこのような行動はとらないであろうとして、錯誤無効を認めないとの心証を示しました。
ただし、本件遺産分割協議の際に発見されていなかった相続財産については姉(依頼者)のものと確認する和解をし、姉妹の間にその他の債権債務がないことを確認する旨の内容が盛り込まれました。
結局、裁判所からの強い和解勧告により、和解成立となったのです。
「錯誤無効」立証のハードルは非常に高い
錯誤無効は、①錯誤に陥いるに至った状況、②錯誤に陥ったあとの言動、③錯誤と判明したあとの言動の各事情を踏まえ判断するものであり、かつ現在の状況を無効として覆すものとなりますので、その立証のハードルは非常に高いです。
自筆証書遺言は自宅で保管されることが多いですが、本件のように遺言書が紛失してしまったり、遺言書が作成されたことを知った相続人が遺言書を廃棄、隠匿、改ざんする恐れがあり、そのことが後々相続を巡る紛争を引き起こす原因になることもあります。そこで、このような事態を防止するため、令和2年7月10日から、法務局による自筆遺言証書の保管制度が開始されます。
本制度により、自筆証書遺言が紛失、隠匿、改ざんされる事態を防止するとともに、遺言者の死後、相続関係人が自筆証書遺言の存在を従来より容易に把握できるようになります。なお、この保管制度を利用して保管された自筆証書遺言については、裁判所での検認手続は不要です。
相続トラブルを回避するためには、先を見越した行動が重要です。生前に、それぞれの状況にあった対策の検討をしておきましょう。