セクハラ、パワハラ、モラハラ…職場におけるハラスメント問題は尽きません。セクハラについては、1999年に男女雇用機会均等法企業へにより防止措置が義務づけられ、2017年には、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについても防止措置を講じるよう義務づけられました。また2019年5月には、「パワハラ防止策」が成立しました。防止措置義務にとどまってはいますが、国もハラスメント問題の解決に積極的に取り組んでいます。加害者となった従業員本人だけでなく、使用者である企業にも責任が発生する可能性のあるハラスメント問題について見ていきましょう。

「セクハラ」と「パワハラ」の違いは?

「セクハラ」とは、簡単にいえば、「職場において行われる、性的な言動による被害」といえます。ここにいう、「職場」とは、勤務時間外の宴会などであっても、実質上職務の延長と考えられる場合にはこれに該当するとされています。

 

また、「性的な言動」というのは、性的な事実関係を尋ねるといったことや、食事やデートへの執拗な誘い、女性を「おばさん」などと呼ぶこと、わいせつ図画の配布等、幅広いものがこれに当たるとされています。一回限りの行為でも、当事者の関係・とられた対応等を総合的に見てセクハラとして認定される場合もあります。

 

これに対して「パワハラ」とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とされています。

 

セクハラ同様、幅広い態様があり、暴行・脅迫といった刑法上の犯罪行為に当たるものから、他の社員のプライベートに過度に立ち入るなどというレベルのものまで存在します。

 

パワハラの違法性判断にあたり、セクハラの場合と大きく異なってくるのは、「企業秩序違反をした社員に対して注意・指導を行うこと自体は、当然予定されている」という点です。つまり、パワハラか否かが問題となった際には、それが目的と手段との関係で合理性がある「正当な教育指導等」といえるのであれば、直ちに違法とまではいえないという点です。

 

このような違いはあるものの、セクハラもパワハラも企業内で発生した場合、加害者自身が責任を負うのはもちろんのこと、使用者である企業にも責任が生じる可能性があります。

 

使用者は、ハラスメントの被害者に対し労働契約上の職場環境配慮義務を負い、かつ、ハラスメントの加害者に対し懲戒権や人事権を有していることから、ハラスメントの発生を予防し、発生してしまった場合には対応すべき立場にあると考えられるからです。

上司と食事に行った際に「セクハラ」があったと主張

セクハラを理由に、労働者が使用者に損害賠償を請求した事例をご紹介しましょう。

 

勤務時間終了後に上司が部下と食事に行ったのですが、その後、部下は退職しました。退職後、部下は、上司と食事に行った際の言動を理由に、セクハラがあったと主張し、上司と会社を相手に、労働審判を起こしました。そして、そのなかで、250万円の慰謝料を請求してきたのです。

 

食事のあとに部下が退職…
食事のあとに部下が退職…

 

確かに、その日の上司の言動には若干の問題があり、典型的なセクハラに該当する言動はありました。ですが、継続的に行われていたわけではなく、また、その他の事例と比較しても250万円もの慰謝料が認められるべきではない事例でした。

 

このような点を労働審判員に丁寧に説明し、真摯な反省なども伝え、3回目の労働審判期日で和解が成立しました。和解の内容は、会社が請求額の半額以下である110万円の解決金を支払うというものでした。また、上司に対する直接の請求も行わないことが和解の内容となり、紛争は最終的に解決しました。

 

使用者としての責任を果たすためには、まず事前に体制を整備しておき、ハラスメントが発生してしまった場合には迅速かつ適切な対応を行うことが重要になります。具体的には、①就業規則にハラスメントに関する規定を設け、啓蒙のための研修や講習などを実施すること、②相談窓口や苦情処理制度などを設置し、苦情に対し対応できる体制を作ることが求められます。

 

実際のハラスメント事案において、加害者だけでなく使用者である企業に対しても損害賠償請求がなされ、使用者責任が認められている裁判例は多くあるので、ご自身の社内体制は十分であるか、一度検討してみていただければと思います。

 

本連載は、「弁護士法人グリーンリーフ法律事務所」掲載の記事を転載・再編集したものです。

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