東京商工リサーチによると、中小企業の倒産件数は年間約8000社にも及びます。人口減少や働き方改革などをはじめ、様々な社会変化の影響をうけるなか、中小企業が生き残るためには、冷静に問題点を分析することが求められます。経営コンサルタントの鈴木衛氏が解説します。

毎年「8000社」以上の中小企業が倒産している現実

東京商工リサーチの調査によると、2017年に倒産した会社の平均寿命は23.5年だ。あくまでも平均値なので、1年で潰れる会社があれば100年以上続く老舗もあるわけだが、20年ちょっとという寿命を短く感じる人は多いのではないか。22歳で入社する会社員であれば、45歳で会社がなくなってしまう。

 

上場企業のように比較的体力がある会社であれば、潰れないと思われがちだが、実際には結構簡単に潰れる。リーマンショックが起きた年(2008年)には40社以上の上場企業が倒産した。しかも、国内にある上場企業は、全企業の1%未満に過ぎず、ほとんどの会社は体力がない中小企業だ。

 

出所:東京商工リサーチ
[図表1]企業の平均寿命 出所:東京商工リサーチ
出所:東京商工リサーチ
[図表2]企業倒産年次推移 出所:東京商工リサーチ

 

企業規模が小さくなるほど景気などの影響も受けやすくなり、中小企業は毎年8000社以上が倒産している。これが会社経営の現実である。中小企業にとって、倒産や廃業は決して縁遠いものではないのだ。

大企業と中小企業の「採用格差」は深刻化

では、なぜ経営が行き詰まるのだろうか。私はコンサルタントの仕事を通じて、様々な会社の倒産を見てきた。また追い詰められた会社もたくさん復活させてきた。その経験から、会社を倒産に追いやる大きな原因は3つあると思う。

 

一つは、人の問題だ。つまり、会社経営の属人的不安定性である。この人の問題は、直接打撃を受けるものではないが、中小企業が安定的な経営を確立するために非常に重要なポイントだ。「採用は難しい」「人を育てるのは大変」「一人前になると独立していってしまう」ほとんどの経営者がそのように感じた経験を持っていることだろう。その中でも、中小企業を取り巻く環境は非常に厳しい。

 

雇用状況を例に挙げると、昨今の人口減少と緩やかな景気回復などの影響もあって、企業の求人倍率はバブル期の最高値を上回るまでになっている。求人倍率の平均は1.5倍ほどだ。

 

ところが、ここに大手企業と中小企業の差がある。従業員5000人以上の大手企業では大卒求人倍率が下がり、大手企業への就職を狙う学生が逆に厳しい状況に置かれている。一方、従業員300人未満の中小企業はどうか。大手企業とは対照的に人手不足が深刻化し、求人倍率が10倍近くまで跳ね上がっている。これは過去最高の数値で、前代未聞の厳しい状況ということを表している。

 

出所:株式会社リクルート「第35回ワークス大卒求人倍率調査」(2019年卒)
[図表3]従業員規模別求人倍率の推移 出所:株式会社リクルート「第35回ワークス大卒求人倍率調査」(2019年卒)

 

また、仮にうまく人を雇えたとしても、その先には教育の問題がある。従業員を成長させるために、資金的に余裕のない中小企業が社員教育に十分な投資ができるだろうか。十分にできていると断言できる中小企業経営者はおそらくほとんどいないだろう。

 

教育の仕組み化が進んでおらず、業務に余裕のない中小企業が求める人材は、すぐに現場で活躍できる即戦力である。そのためほとんどが中途採用となる。

 

しかし、ある人材サービスの会社の情報によれば、転職希望者の半数以上は、一つの会社にとどまらない流動的転職組で、自分がうまくいかないのは会社のせいと考える他責の意識が強い人たちが流動しているという。もちろん、中には素晴らしい人材を中途で雇用することも可能かもしれないが、会社を成長させたいのであれば新卒者を採れというのもうなずける。

「エース頼り」の中小企業は少なくない

労働市場の変化は今後も中小企業の向かい風になるだろう。サービス業、接客業、製造業など、人の力が不可欠な業種はとくに影響を受ける。マンパワーに頼らず、果たしてこのまま経営を続けられるだろうか。それ以外の業種も決して安泰ではない。

 

例えば、営業職などは、経験、スキル、ノウハウ、人脈などが個人に蓄積される。稼ぎ頭の営業マンが辞めたらどうなるか。頭数の少ない中小企業にとって、次の戦力となる人材が育っていなければ経営状態は急激に悪化するだろう。業界を問わず、どんな会社もスキルなどの属人化によって経営が立ち行かなくなるリスクを抱えているのだ。

 

経営方針や営業戦略の立て方などが仕組み化されておらず、資金と情報の少ない中小企業は、経営そのものが属人化していると言えるだろう。社長は経営だけではなく、営業本部長・経理部長・人事部長を兼任していることが多い。会社が仕組み化されていないため、社長や各部署の責任者に成果が委ねられる。

 

また、経済産業省のレポートによると、社長が60歳以上の中小企業のうち、3分の1の会社は後継者が決まっていない状態なのだという。仮に黒字経営だったとしても、次を引き継ぐ人がいなければ廃業せざるを得ない。属人化は、目先の話として経営が傾く要因であり、長期的には会社の存続を危機にさらす。何かしらの対策をしない限り、自分、家族、従業員、従業員の家族にとって生活の基盤ともいえる会社を守っていくことはできないのだ。

「会社経営」という本来の仕事を忘れていく社長たち

人手不足や属人化を防ぐ方法がないわけではない。例えば、機械化である。全ての業務を機械化できないにしても、人の業務を減らせば人手不足は解消できる。製造や流通の現場ならIoTの導入で生産性を高められるだろうし、それ以外の細かな業務も、IT活用やAIの導入によって人がやってきた仕事を機械に任せられる。

 

しかし、問題もある。まず、設備などへの投資は決して安くない。IT関連の投資についても、大手企業では導入率も投資額も右肩上がりに増えているが、中小企業はほぼ横ばいだ。また、投資による効果が中小企業のような少人数では発揮されにくく、投資自体が見合わないことが多い。

 

そう考えて二の足を踏む経営者は多い。意を決して機械化やIT化に取り組んだ結果、成果が出ずに無駄な投資に終わるケースがある。私の顧問先でもIT化のために2000万円の投資をしたが、3か月後にこのシステム運用責任者が辞めてしまった。以来3年経った今でも、このシステムは眠ったままでいる。

 

属人化に関しては、一般的には仕事の進め方を標準化したり、顧客の情報などを共有する仕組みを作ることによって防ぐことができる。しかし、これも大手企業向けの対策であって、中小企業の実態にはそぐわない。ギリギリの人数で仕事を回している中で、誰が標準化の作業をするのか。また、人が足りていない業務や、誰かが辞めた後の穴埋めを、会社全員でカバーしているのが中小企業の実態だ。

 

私が見てきた会社でも、社長自らが現場を駆けずり回っている会社がほとんどであった。その結果、経営戦略を立てる、ビジョンを作るといった経営者の本来の仕事に手が回らなくなる。会社としてどこに向かうかわからなくなり、ただやみくもに営業するだけの会社となり、土台から経営がぐらつくことも少なくないのだ。

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