欧州中央銀行が0.1%の利下げを発表
9月12日、欧州中央銀行(ECB)は理事会を開催し、ECBが市中銀行から預金を受け入れる際の預金金利を-0.4%から-0.5%とする0.1%の利下げを決定した。さらに、いわゆる量的緩和(QE)を再開し、今年11月から月額200億ユーロの債券買入れと、銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の条件緩和を決定した。包括的な追加金融緩和である。
ドラギECB総裁は、理事会後に会見し、これまで検討を重ね実施する用意があると述べてきた手段を実行に移したと述べ、前回7月の理事会以降に入手したデータからは、ユーロ圏経済の脆弱性が一段と増し、顕著な下振れリスクとインフレ率が抑制されており、物価が上昇しない状況を今回の判断の理由として説明した。
ECBは前日11日に2019年と2020年の成長率見通しを下方修正し、2019年は1.1%、2020年は1.2%成長にとどまると公表していた。なおドラギ総裁によれば、この予想には、英国がEUからの「合意なき離脱」に至ることや、米中通商摩擦の一段の激化は勘案されていないとのことである。つまり、現状でも、ユーロ圏経済の成長には暗雲が立ち込めているということになる。
しかし、再び量的緩和まで踏み込んだ今回のECBの包括的な追加金融緩和策が、ユーロ圏経済を支えるのにどれほど効果を発揮するかについて、市場は懐疑的である。ドラギ総裁も、「財政政策が主導する時期に来ている」と述べて、金融緩和より財政による景気刺激策の重要性を訴えたほどである。なお、債券買入れの再開に関しては、ワイトマン独連銀総裁、ビルロワドガロー仏中銀総裁、クーレECB専務理事の3人が反対に回り、ECB理事の間でも、政策の効果に対して疑問があることを知らしめた格好である。
そのため、包括的な金融緩和策が導入されたにも関わらず、市場では金利低下ではなく、金利が上昇する動きとなった。ユーロ圏の経済見通しが悪化するなかで、ECBとしては手持ちのカードで可能な手を尽くしたことを示したといえる。年内のECBの追加緩和観測は、むしろ後退して、2年ドイツ国債は金利が急上昇している。
なお、ECBは、マイナス金利政策の深堀りによって、銀行の収益力が低下し経営体力が弱ることで貸し渋りにつながるとの批判にも配慮し、銀行の負担を緩和する措置として、超過準備の一部につきマイナス金利を免除する預金金利の階層化を実施する。また、TLTROの金利も引き下げ、銀行の負担増加に繋がらないよう配慮した。
トランプ氏は追加利下げに踏み切らないFRBを批判
さて、ECBの決定にいち早く反応したのは、トランプ米大統領である。ツイッターに投稿し、「ECBは米ドルに対してユーロの価値を引き下げることに尽力し、そして成功している」とする一方で、「連邦準備理事会(FRB)は手をこまねいているだけだ」と批判。マイナス金利となるまで利下げするよう求めた。大統領選が視野に入ってきたトランプ大統領としては、経済成長の持続を確保しておきたいところで、今後もFRBへの利下げ要求は強めるだろう。
来週開催予定の連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRBが利下げを実施することは、市場でほぼ織り込まれている。マイナス金利の実現とまでは行かないものの、FRBが金融緩和に政策転換していることで、米国株は再度史上最高値をうかがう展開である。米国経済指標も、赤信号がともっているわけではなく、むしろまちまちである。
加えて、米中通商協議にも双方に歩み寄りの姿勢が伝えられ、暫定合意案成立の期待が膨らむなか、すぐさまFRBが大幅利下げや、継続的な金融緩和策にコミットすることはなく、むしろ判断を急がない姿勢を示すのではないだろうか。なお、来週は、日銀も政策決定会合を開く予定だが、現時点で追加緩和に動くことは予想していない。消費税引上げ実施の影響や円高の進行に備え、カードを温存するのではないかと考えている。
市場の織込み度合いを超えるような金利の急ピッチな低下を確認する内容にはならないとすれば、米国債券市場では、今回のECBの緩和策発表後の反応のように、金利が上昇する可能性を見ておきたい。また、為替市場でも、米ドルはこの2週間で強含んできているが、値を切り上げる動きが続くのではないだろうか。ドル円では、106円50銭から109円30銭のレンジだが、ドルは堅調な動きであろう。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO