造反議員も現れ「EU離脱」再延長要請の動議が可決
9月3日、英下院は欧州連合(EU)離脱を3ヵ月延期することをボリス・ジョンソン首相に強いる法案(以下、離脱再延長要請法案)の審議入りに関する動議が賛成多数で可決された。超党派の動議は賛成328票、反対301票だった。ジョンソン首相は、この動議に反対するよう働きかけ、造反した保守党議員は党から除名すると警告していたが、21人が造反して賛成票を投じた。
ジョンソン首相は、7月に就任して以来、交渉期限である10月31日に、EUとの間で何らかの合意が成立していない場合でも、「合意なきEU離脱」を辞さないと主張してきた。これに対し、英下院の超党派議員は、合意なき離脱は英国に経済的な大惨事をもたらしかねないとして離脱期限を来年1月31日まで延期することを首相に強制する離脱再延長要請法案を取りまとめ、下院で通したのである。
ジョンソン首相は、こうした動きを、締結可能なEUとの離脱合意をつぶす動きだとして強く批判し、対抗措置として総選挙を前倒しで実施する動議を提出した。同首相は、総選挙を10月15日に実施する腹づもりのようである。EU首脳会議は10月17日から開催される予定であるため、これがギリギリのタイミングではある。
また、保守党院内幹事は、3日、離脱再延長要請法案の審議入り決定後、造反議員21人に対し事前の警告どおり、保守党からの除名を言い渡した。自由民主党に鞍替えした保守党議員1人を含めて、ジョンソン首相率いる保守党勢力は3日だけで計22の議席を失ったことになる。保守党勢力は289議席となり、下院650議席の過半数を割り込むこととなった。
保守党現執行部は、総選挙も想定して、これまでの主張どおり合意なきEU離脱も辞さない姿勢を貫く構えである。世論調査では、保守党への支持率はメイ政権末期の20%から35%程度まで回復しているとの結果もある。今の議会下院で多数を失っても、10月の総選挙を実現し、再び多数を得たほうが、EUとの間で自由度の高い交渉ができると考えているのだろう。ただ、果たして、目算ほどうまくいくかどうかは不透明である。
英下院は総選挙実施の動議を否決、首相は苦しい状況に
9月4日、英下院は、離脱再延長要請法案を可決した。また、10月15日の総選挙実施を求めるジョンソン首相の動議を否決した。ジョンソン首相は離脱期限である10月31日に合意なきEU離脱を選択するという手段を封じられることになる。
一方で、コービン労働党党首は、上院が同法案を承認し成立させれば、総選挙の前倒し実施に同意すると表明した。ただ、同党首はジョンソン首相が提案する10月15日の選挙実施日程に同意するかは明言を避けた。総選挙の前倒しは、下院の3分の2以上に当たる434議員の賛成が必要となる。保守党と労働党の議席数を足せば、3分の2以上は確保できる。総選挙に打って出て、過半数議席を確保し、同法を廃案にするという道筋しかなくなったジョンソン首相は、労働党の提案を受け入れるのではないだろうか。
ただ、10月31日の期限を再度延長することも、バックストップ条項の再協議も、EU側が同意しているわけではないのが現実である。10月15日の選挙で、どちらが勝っても英国のEU離脱に答えが見出せるわけではないだろう。国民投票の実施などとなれば、また随分と時間はかかることになる。
9月3日、為替市場では、英国のEU離脱や総選挙の実施を不安視した英ポンド売りが拡大し、ポンドは対米ドルで一時1.20米ドルを下回って売り込まれた。これは、2016年10月に起きたフラッシュクラッシュといわれるポンド急落以来、約3年ぶりの安値である。4日には、1ポンド=1.21ドル台を回復したが、ポンドへの売り圧力は止みそうにない。ダウンサイドのリスクは高まっている。英ポンドの安値の目処は、2016年10月に付けた1英ポンド=1.15米ドルだろう。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO