感情移入によって子が「みじめな思い」をしてしまう
私が子どもに勉強を教えなかったのは、私自身が入試問題が解けなかったことだけではありません。子どもにみじめな思いをさせたくなかったからです。よく、「私が導いて、東大に合格させた」とか、「受験への取り組み、親子ともどもがんばりました!」などと言う親がいますが、がんばったのはあくまで子ども自身です。自分ががんばったのに、「親の力で」という顔をされてしまうと、子どもは本当にみじめな気持ちを味わうことになります。
忘れられない出来事があります。長男の中学受験のときのこと、どういう成り行きだったのかは失念しましたが、受験直前の大晦日に、一度だけ理科と社会をみることになりました。案の定、全然できていません。
そこで、少しきついことを言ったら、泣きだしてしまったのです。あー、悪いことしたな、傷つけたなと思いました。長男もいまだにこのことを覚えていて、お互いのなかに苦い記憶として刻まれています。子どもの勉強に首をつっこんだのは、このときただ一度だけです。
親が勉強を教えてはいけないのは、やはり「感情移入」してしまうからです。塾の先生は教えるプロですし、よくも悪くも他人ですから、子どもがわからないのは当たり前だと思っています。
しかし、親は子どもに期待と幻想がありすぎるがゆえ、解けないとイライラを募らせ、「なんでわからないの?」と子どものプライドを傷つける発言をしてしまうのです。
「感情移入はよくない」と言いながらも、私自身、実は毎週塾に張り出される子どもの成績に一喜一憂していました。その点、妻は成績が上がっても下がっても、非常にクールな対応で、気にもとめない様子。そんな淡々とした妻の態度は、息子たちの緊張をやわらげていたような気がします。
「受験は一家の非常事態!」という感じで、家族の楽しみをすべて犠牲にして子どもの受験に賭けるのは、弊害のほうが多いと感じます。
プレッシャーは「害」…親はクールな対応を貫くこと
わが家では受験期にも海外旅行に行っていました。もちろん息抜きの意味もありますが、夏休みに1週間旅行に行ったくらいで落ちるなら、はじめから受からないと考えていたからです。自分のために毎年の旅行がなくなったとなると、子どももプレッシャーを感じるでしょう。
プレッシャーは、子どもからチャレンジ精神や心の余裕を奪います。無用なプレッシャーを受けている子どもは、「期待に応えるにはどうしたらいいか?」ということで頭がいっぱいで、心に余裕がありません。プレッシャーのない子どもは、余裕があるぶん、いろんなことを考え、判断する力を蓄えていきます。
休みなく延々と回し車をくるくる回し続けるハムスターのように、自ら考える時間を与えられず、目の前の課題をこなすだけの人間が、社会に出て「稼げる人」になれるわけがありません。
わが家では、勉強を教えないのはもちろん、成績についても特にコメントはしませんでした。第一志望に合格したときも、私は大喜びしましたが、妻はニコッと笑っただけ。子どもの稼ぐ力を伸ばすには、親は少しクールなくらいがいいのです。
短期的に効果を出すなら「家庭教師」がおすすめ
短期的に成果を出したい受験前の1カ月、2カ月限定で、家庭教師をお願いしました。周りに流されて受講してしまいがちな塾のオプション講座より、よほどコスパがよく、結果も出ます。
家庭教師のいいところは、マンツーマンであること。私自身、マンツーマンで加圧トレーニングを受けているのですが、一対一の関係はほどよい緊張感があり、責任を持ってこちらの要望に応えてくれます。指導内容も一人ひとりに合わせたオーダーメイドですから、苦手分野や理解が不十分な部分を徹底強化でき、子どもの体調に応じて日時を調整することができるのもメリットのひとつです。
しかし、家庭教師なら誰でもいいというわけではありません。うちは近所の家庭教師派遣センターにお願いしていたのですが、その際、必ず確認していたのが「実績」です。どのレベルの子どもを、どのくらい成績アップさせ、どの学校に合格させたのか。こうした実績が豊富な人であれば、プロでなく学生でもいいと思います。
長男の受験時に来ていただいたのは、開成中学・高校から早稲田大学に通っていた学生さんでした。自分の経験に基づいた教え方をしてくれたおかげで、受験直前1カ月で力をつけ、無事第一志望の合格を勝ち取ることができたのです。医学部受験のときにお願いしたのは、東大大学院の院生さんで、医学部を受け直すからと、自分も受験勉強をしながら家庭教師をしてくれました。
林 總
公認会計士林總事務所 公認会計士/明治大学特任教授