「その子に合っている受験校」を選ぶことが親の務め
中学受験の試験は、適性検査と似ています。学校の教育方針が試験問題にあらわれているので、その学校と試験問題にフィットしている(もしくはフィットさせた)子どもが合格するようにできています。
子どもの受験校は「その子に合っているか」という視点が大切です。偏差値だけで受験校を選んでしまうと、まかり間違って合わない学校に入ってしまい、「子どもが伸びない……」という事態になりかねません。
わが家の受験校選びの基準は、
① その子より“少し上”の目標を与えてくれること
② スポーツや文化的な活動もさかんなこと
③ 向上心を持つ子どもが集まっていること
というものでした。
① その子より“少し上”の目標を与えてくれること
これは、子ども本来の学力レベルより、少しだけ上のレベルの学校を目指す、という意味です。入学後の定期テストで中位以上に入れるくらいのレベルの学校に入ったほうが、子どもが自信をもってすごせるという考え方もあります。
けれど、「自分がいちばん」という環境よりも、「自分より“少し”出来のいい子」が集まっている環境に身を置いたほうが、子どもが伸びていくことができます。
「全科目合わせて学年で最下位」になってしまうレベルだと、劣等感のほうが上回ってしまうのでおすすめできません。ある進学塾では、そうした子どもを「深海魚」と揶揄していましたが、下から数えたほうが早いくらいでも、本当のビリでない限り、お祭り効果(※)がもたらすメリットのほうが、劣等感を上回ると思います。
※お祭り効果…勉強ができる子や人間的にも尊敬できる子などが大勢いる環境に身を置くと、おのずと周りに引き上げられること。詳しくは本連載第1回『中学受験を経験すると、「お金を稼ぐ力」が身につくワケ』参照。
ただし、なかには繊細な子もいます。上位になれないと顔が変わるくらいの劣等感を抱いてしまいそうなタイプなら、よいレベルをキープできる学校を慎重に選んだほうがいいでしょう。そのあたりの見きわめが、親の務めでもあります。
② スポーツや文化的な活動もさかんなこと
「部活なんかする時間があったら勉強しなさい」という校風の学校もありますが、それでは人間としての幅が狭くなってしまいます。勉強だけでは仕事をするための体力も身につかないし、友人関係も築けません。中高一貫校では運動会、文化祭などにその学校の特色があらわれるので実際に見学に行くのもいいでしょう。
③ 向上心を持つ子どもが集まっていること
中学受験を経ている子どもは、幼いながらも「なぜ勉強するのか」「その先に何があるのか」を考えています。すでに中学入学時点で大学生レベルの将来のビジョンを描いている子も少なくありません。
そうなれば、日々のすごし方もおのずと目標に向けたものになります。自分できちんと考えて行動できるタイプであれば、周りの環境は関係ないかもしれません。ただ、放っておけばダラダラすごしてしまうごく普通の子が、稼ぐ力を身につけて活躍するには、早くから向上心を持つ人間が集まる環境にいたほうがいいのは確実です。
ちなみに、保護者会やPTAなどで学校を訪れることの多い保護者にとっては、親同士の付き合いがどの程度のものなのか気になるところでしょう。妻は、全体集会、PTA、部活の懇親会の当番など義務的な行事には参加していたものの、個別のお付き合いは控えていたそうです。子どもが4人もいたので時間もお金もなかったのが理由ですが、やはり中学受験をする家庭の多くは教育熱心で、母親の存在感も子どもの成績で決まるのでおとなしくしていた、と言っていました。
保護者の雰囲気も学校によってさまざまで、長男が合格した駒場東邦ではお母さん同士がランチ会でおしゃべりするだけでなく、合唱団をつくって活動するなどのびのびと楽しい雰囲気があったようです。親同士の付き合いは確かに憂鬱な部分ではありますが、距離の取り方次第で、気に病むほどではない、というのが実情のようです。
親の仕事は、子どもの受験勉強の「スケジュール管理」
もうすでに過去の話になりますし、私は受験専門家ではありませんが、4人の中学受験に取り組んだ経験、そこから得たことを、参考までに記しておきます。
私は子どもたちに一切勉強を教えませんでした。やったことは、スケジュール管理のみ。
中学受験をためらう親御さんの多くが、「遊べなくなるのがかわいそう……」という思いを抱いています。それは、「中学受験は、受験まで3〜4年かけて遊ぶ時間もなくみっちり勉強するものだ」と思い込んでいるからです。塾のあおりもあるでしょう。
しかし、受験は短期決戦が鉄則。飽きっぽい子どもならなおさらです。受験勉強は1年半もあればじゅうぶんだと思います。御三家以外の学校では特殊な問題は出ないからです。
息子たちの受験時に、過去問を分析してみたところ、問題は基礎的なもので構成されていて、そのなかでも基礎の初級・中級・上級の3レベルに分かれていました。上級レベルの問題を切り捨て、初級レベルで95%、中級で50%得点できれば受かる、というのが私の見立てです(なおこの法則は公認会計士試験も同様です)。
この要領をつかむことができれば、1年半でじゅうぶん間に合うと思います。ローラー式に全部勉強しようとしても不可能ですし、合格レベルまで何年も時間をかけないと間に合わないというのなら、目標設定が間違っている可能性が大。高いレベルを望みすぎると、入学後本当のビリになってしまい、劣等感を募らせる原因になりかねません。
5年生からの短期決戦でしたから、塾は毎日行かせていました。基礎力は、塾のカリキュラムで身につきます。ただ、勉強のしかたが肝心で、目標をもって「直し」をさせるのがポイントだと思います。
私はとにかく、「できなかった問題の直しを何回繰り返すか」「不得意な基本問題をどう克服するのか」 に留意して、スケジュールを管理しました。 ポイントは、過去問を音読することと、実際の解答用紙に解くことです。
耳からも情報を入れることでより記憶に残りやすく、解答用紙のフォーマットを理解させることで、記入欄を間違えるといったミスも防げます。
これらの勉強を、受験期まで親がスケジュール管理します。受験半年前まで、3カ月前まで、1カ月前まで、2週間前まで、直前までというスパンで考えて「to doリスト」をつくり、「何月何日までにやること」を明確にしていました。終わったところは本人にチェックさせると、達成感が味わえるようでした。
勉強の進み具合で、「to doリスト」は微調整していきます。絶対に無理強いはしませんし、キャパを超える設定にならないよう注意は必要です。
1日のスケジュールも私がつくっていました。 朝起きたら、計算と漢字に取りかかります。学校から帰り、塾に行くまでの2〜3時間も、家庭学習に使います。短期決戦なのでこれくらい詰め込みますが、夏休みは海外旅行に行き、気分転換を兼ねて思いきり遊びまくりました。
「3年生から行かせないと間に合わない!」などと不安をかきたてる塾もありますが、やる気のある子は5年生からでも間に合うし、根気ややる気のない子であれば、どんなに長期間かけても難関校合格は難しい。それが現実です。
子どもの受験もひとつのプロジェクトであることに変わりはありません。いかに短い時間で最大の成果を出すかが勝負です。
生産性の低い勉強法で3〜4年もかけて受験だけに打ち込み、実力以上の学校に入ったとしても、あとから要領のいい人たちに追い抜かされてしまいます。時間をかけて打ち込むということは美化されがちですが、「数年間ひとつのことに賭ける」というのはほかのことができなくなるということです。
わが家の場合、まだ私が受験の要領をつかんでいなかった長男は小4の終わり、勉強に不安があった次男は小4のはじめ、三男、四男は小5から塾に通い始め、試験の半年前までバイオリンの発表会にも出て「受験だけ」にならないようにしていました。ちなみに、医師国家試験を控えても、長男は9月まで6つのサークルをこなし、三男もおなじく9月までサッカーに打ち込みました。