本記事では、不動産投資アドバイザーでCFPファイナンシャルプランナーの大林弘道氏の著書、『儲ける不動産ビジネス 7つの新規事業アイディア』より一部を抜粋し、投資をはじめとした不動産ビジネスをめぐる課題を解決するための具体的なアイデアを提案していきます。今回は、日本で「不動産オークション」が根付かなかった理由について解説します。

「不動産テック」の時代とも言われているが…

不動産オークションという取引方法があります。

 

現在もサービスとして提供している会社はありますが、定着しているとは言い難いでしょう。不動産オークションは当時のアイディーユーというベンチャー企業がその先駆者として展開、マザーズオークションというサービス名で美輪明宏さんを起用したTVCMで広告していたのを覚えていらっしゃる方も多いと思います。

 

当時はオークションによる不動産売買は、理にかなう売買方法であるとして、マザーズオークションに遅れを取るまいと大手不動産会社(三井不動産、東急不動産、三菱地所、東京建物、野村不動産の各グループの系列会社)が共同でAUC’Sというサービスをはじめると、アメリカのネットオークション会社eBay(イーベイ)も日本に上陸、不動産オークションに参入してきました。

 

当時を思い起こすと、いよいよ個人間で売手と買手のマッチングが行われる時代に突入かと盛り上がっていたように思います。

 

ところが当時の不動産オークションは、日本の取引慣行にそぐわず、根付くことはありませんでした。

 

まず、通常の売却においては、売手に売却価格決定の主導権があると言えます。売主が自己の資金ニーズにあわせて、より高く売れることを期待した売出価格とスケジューリングを設定します。たとえば時間的余裕がある場合は、高め価格でスタートしてみて、マーケットの反応を確かめたあと、必要に応じて価格変更をしていくという販売手法を取ることが出来るのです。

 

一方、オークション形式の場合には、できるだけ安く買いたいと考える買手集団に価格決定の主導権があります。買手はライバルの札を意識しながら、自分が買ってもいいと考える価格を握りながら入札していきます。想定より低く買える場合もあるため、買手としてはオークションに参加するインセンティブがあります。買手同士が競い合うことで価格があがっていけば、価格決定権が買手にあるといえども、理論値としては最高価格での売却が可能になるという設計であり、それが売主のインセンティブです。

 

ただ、これが実現するためには、買手側のプレーヤーが競い合うほど多数存在する必要があるのです。不動産は個別性の強い財であるという点は絵画骨董などと同じなのですが、当然、その不動産が在る場所を拠点として、居住や経済活動を行おうとする人しかオークションに参加しません。また、買う人にとってはそれぞれ、その買うタイミングがあるはずで、子供の成長など家族構成の変化がその時だとすれば、時間軸は全くバラバラです。

 

エリアも時点も限定されるために、競い合うほどの買手数を集めることはとても難しいでしょう。強いて言えばスタート価格を1円にしたら、ある程度買手は集まるものと思われますが、一定額までは競り上がったところで、買手プレーヤーは離脱していき、売主の期待値まで届くことは少ないはずです。

 

また不動産のように希少性が高く、取引価格が高額となる財を取引するにあたっては、購入対象の物件調査(デューデリジェンス)と事務手続き体制(エスクロー)が伴うことが必要です。売主サイドから、物件の物理的信頼性が客観的に明示されない以上、買手は入札しにくいでしょうし、買手の経済的資力、人的属性がわからないままでは売手も取引に応じることができません。

 

結局これを行うために不動産会社が介在しているのであり、売手買手ともそのサポート(仲介)のもとで不動産取引をすることを選ぶのです。

 

過去、不動産オークションが根付かなかったのはある意味必然的でもあります。そして今、不動産テック(不動産とIT技術との融合)の時代と言われ、ヤフーとソニー不動産の「おうちダイレクト」をはじめ、インターネットを介した個人間不動産取引サービスがいくつか現れていますが、どれも生煮えのような印象です。

 

物件や取引情報がしっかり開示され、大勢の買手売手が公平に参加できる合理的なオークションができれば、そこで形成される価格は納得感の高いものとなります。これを実現できたあかつきには不動産取引に新しい景色が見えてくると思いませんか。

共同購入メンバー間で欲しい面積と土地の形を調整する

◆サービス名称『コーポラティブ型土地購入』(組合型土地分割購入)◆

 

【ビジネス概要】

TVCMに出てくるような素敵な注文住宅を建ててみたいという願望は、日本人の多くが持っています。注文住宅用地を所有している人はそれほど多くない一方、土地は欲しい場所に欲しい面積だけ購入するということができません。資金的にゆとりがある人ならいざ知らず、土地価格が高い日本、とりわけ首都圏では3、4坪の違いが1000万円の差となる場合もでてきます。

 

ハウスメーカーで自分好みの注文住宅を建てたかったとしても、誰もができることではないのです。

 

一方、広めの売土地は事業者に買われることが多くなります。高額となるために個人の買手では成約しにくいためであり、それらの土地はハウスメーカー等事業者の建売住宅の素地となって引き取られていくのです。

 

「コーポラティブ型土地購入」事業では、注文住宅を建てることを希望するエンドユーザー複数をセットアップし、広めの土地を共同で購入することで、それぞれが欲しい面積分の土地を取得することを叶えていきます。

 

[図表]「コーポラティブ型土地購入」の事業イメージ
[図表]「コーポラティブ型土地購入」の事業イメージ

 

昔から一国一城の主という言葉があるように、「自分の家を建てる」というのが男子の本懐とされ、地主小作人の時代から連綿と続く日本のカルチャーでもありました。ただ土地を購入するといっても、価格が手頃で、面積も希望通りというようなものはそうそうあるものではありません。

 

狭すぎる土地では思い描いた間取りプランは実現しないし、広すぎる土地では、すぐに予算オーバーとなってしまいます。

 

首都圏の平均像を考えた場合、注文住宅の敷地としては25~30坪位の広さが望ましいと思われますが、仮に、人気の場所にそんな手頃な土地があったとしたら、その希少性のため、価格は一段も二段も高くなってしまうでしょう。

 

そんな中で、土地から購入する人(=ハウスメーカーが言うところの「土地なし客」)は、理想と現実との妥協点を見いだしながら、またハウスメーカー側は「土地なし客」の希望に沿わない土地でも、気に入った建物プランが実現できるような提案を捻出していくことで、土地を用意しているのが現状です。

 

広めの土地があった場合、容積率がとれる立地ならデベロッパーがマンション用地として購入を検討することになりますが、住宅地の場合は戸建て用地としての活用方法となるでしょう。ところが個人が買手だと、広めの土地は価格総額が張ってしまうために思うように売れず、価格が低くなってしまいます。そこで広めの住宅用地が売りに出た際に、個人同士での共同購入をセットアップすることで、より希望に近い、広さ・地型・場所の土地取得に近づけていくのです。

 

あらかじめ「土地から購入したい」と考える検討者を募集、友の会グループのような形式でフォローアップしながら、適当な土地が売りに出された際に、メンバー間で欲しい面積と土地の形を調整、分筆ラインを定めた上で共同購入をアレンジします。

 

事業者は不動産会社かハウスメーカーを想定、関与方法としては仲介にちかい転売事業として考えています。また地型や広さの意見調整を考えると(当初の)買主は2人まで、つまり2分割プランが適当と考えています。

 

なお、分筆には行政と調整し測量を行うため時間がかかります。また、売主の資金ニーズおよび抵当権抹消のことを考えると買主同士の購入日時を合わせなくてはなりません。とりまとめのスピードと決済タイミングを考慮して、この買手のとりまとめはオークション形式をとることにします。オークション形式を採用することで売主の価格に対する納得感も得られるのです。

本記事は、筆者の個人的な解釈、見解を踏まえて書かれたもので、情報提供を目的としたものです。各種法規、税制に照らして検証されたものではなく、記載の内容と実際とが異なる場合もございます。筆者ならびに当社関係各社は、これにより生じた損害について一切の責任を負いかねますのでご了承下さいますようお願い申し上げます。

儲ける不動産ビジネス 7つの新規事業アイデア

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大林 弘道

幻冬舎

取引価格が大きい、賃貸借をはじめとする法制が複雑、ファイナンス環境との相関の高さ、日本人固有のメンタリティによる「不動産の取り扱いにくさ」に流動性を与えれば商機が生まれる?マイナス要素を取り除くための新たなビジ…

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