1:「エステート・プランニング」の基本
「エステート・プランニング」の定義は、以下のとおりである。
エステート・プランニングとは、個人財産の承継を計画(及び実行)することをいう。生前贈与、資産運用の戦略立案、資産運用の実施、運用結果の継続的なモニタリング、資産のリスク管理などを行うことである。
日本は、諸外国と比べて相続税が重く、財産承継を行うたびに財産が目減りすることになる。一般的に、富裕層の財産は、3回の相続を繰り返すとほとんどが相続税の支払いによって消えてしまい、4代目が相続するときには、初代が築き上げた財産のおおむね1割しか残らないといわれている。それゆえ、日本の富裕層はエステート・プランニングに早期に着手しなければならない。
2:エステート・プランニングのすすめ方
プライベートバンカーがすすめるエステート・プランニングの手順は、「顧客情報の入手」「顧客財産の現状分析」「エステート・プランニングの立案」「フォローアップ」というプロセスを繰り返し、実施することである。
まず、見込み客との面談において、顧客情報を入手する。保有する資産及び負債などの定量的な情報だけでなく、感情的側面に係る定性的情報まで入手しなければならない。
定量的情報
① 資産及び負債の明細を入手し、財産目録を作成する。
② 戸籍謄本を入手し、相続人を確定する。
③ 不動産登記簿謄本、固定資産税明細書を入手し、不動産の所在等を確かめる。
④ 遺言書を作成している場合は、その内容を確認するとともに、相続時に家庭裁判所の検認が必要になることを家族が理解しているか確かめておく。
⑤ 信託財産があれば信託契約書を入手し、その内容が本人(委託者)の意向に沿ったものであるかどうか確かめる。
⑥ 死亡退職金やストックオプションの内容を確かめる。
⑦ 過去の贈与契約書及び贈与税申告書を入手して、遺留分算定の基礎財産を計算するとともに、名義預金や名義株式の問題がないか確かめる。
定性的情報
① 家族で遺したい財産の運用目的と基本方針を確かめる。
② 家族への財産の配分方法を確かめる。自分が配偶者より先に死亡した場合、配偶者が自分より先に死亡した場合、これら両方のシナリオを検討しておくべきである。
③ 夫婦のいずれもが死亡した場合、子供へどのように財産承継したいのかを確かめる。
④ 慈善団体やお世話になった個人へ財産を寄附又は遺贈したいかどうかを確かめる。
次に、顧客財産の現状分析を行う。プライベートバンカーの役割は、顧客に関する多様な情報を整理して顧客に提示し、顧客が財産全体を俯瞰することによって現状を把握するとともに、そこに伴う問題点を理解する手助けをすることである。
特に、資産及び負債を把握しようとしてヒアリングしても、ほとんどの顧客は、未払い相続税という潜在的な債務の存在に気がついていない。個人の財産を増やせば増やすほど、相続税という負債が増えていくことを感じていない。それゆえ、プライベートバンカーは家計貸借対照表を作成して将来の相続税額を計算し、顧客にその存在を認識させなければならない。
そして、プライベートバンカーがエステート・プランニングを立案し、顧客に提案する。その提案が受け入れられた場合、コンサルティング契約を締結する場合もあるだろう。
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なお、エステート・プランニングは計画すれば終わりというわけではない。経済環境の変化や親族内における関係性の変化に対応しながら、定期的なフォローアップを行う必要がある。特に、親族内での大きなイベント、例えば、本人の病気、親族の死去、孫の誕生、本人の離婚や再婚、経営する会社のM&AやIPOなどがあれば、その都度エステート・プランニングの見直しを行わなければならない。
エステート・プランニングのすすめ方
① 顧客情報の入手
② 顧客財産の現状分析
③ エステート・プランニングの立案
④ 定期的なフォローアップ
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士