法律上、遺産を相続できるのは「法定相続人」だけ
実際に人が亡くなってしまった場合には、その人の遺産を分けていかなればいけません。この遺産の分け方には、法律で決めたルールがあります。そのルールは非常にシンプルです。
遺言書がある場合には、遺言書の通りに遺産を分けます。遺言書がない場合には、法定相続人全員での話し合いによって遺産の分け方を決めていくことになります。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
この遺産分割協議に参加できるのは、法律で決められた法定相続人という立場を持った人だけです。また、法定相続人が全員揃っていないのに、勝手に進めた遺産分割協議は無効です。
相続税の計算は、法定相続人の人数に基づいて計算します。法定相続人が多くなればなるほど、相続税は少なくなる性質を持っています。この考え方を利用して、たとえば養子をたくさん取って相続税を少なくしようとする人もいるので、民法上の法定相続人の考え方と、相続税法上の法定相続人の考え方は、若干異なっています。
初めに民法上の法定相続人について解説していきます。相続税法上もほぼ同じなので、こちらをベースに理解してもらえれば問題ありません。
まず、配偶者は必ず法定相続人になります。ここでの注意点は、戸籍上、配偶者となっていない場合には、その人は法定相続人にはなれません。
さらに配偶者以外の法定相続人には、優先順位があります。上の順位の法定相続人がいる場合には、下の順位の人は法定相続人になれません。まず、第1順位の法定相続人は子どもです。
当然、子どもが複数人いる場合には、その子どもたちすべて相続人になります。では[図表3]のような場合、誰が法定相続人かというと……
正解は、後妻(現妻)と、後妻との間の娘、そして前妻との間の息子です。前妻、前夫との間であっても、血を分けた子どもであれば、まぎれもなく法定相続人になります。
子どもがいない場合には、第2順位に進みます。第2順位の法定相続人は直系尊属である父母です。亡くなった人の妻(夫)と、亡くなった人の両親が法定相続人になります。
そして、子どもも父母もいない場合には、第3順位に進みます。第3順位の法定相続人は兄弟姉妹です。亡くなった人の妻と、亡くなった人の兄弟姉妹が法定相続人になるケースです。
さらに本来、遺産を相続するはずだった子どもが先に亡くなってしまっている場合には、その相続する権利は孫に引き継がれます。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。この時に気を付けなければいけないのは、相続権は孫には引き継がれますが、長男の妻には引き継がれません。長男の妻に遺産をあげたいときは遺言書が必要になります。
第三者の介入で、遺産分割協議が大モメ
このように、遺産は、遺言書がある場合には遺言書の通り、遺言書がない場合には法定相続人全員での話し合い(遺産分割協議)によって分け方を決めていきます。また法定相続人はどのような立場の人がなれるのか、法律で定められています。
しかし、遺産分割協議がうまくいかないケースは多くあります。ある家族の例を見ていきましょう。
Aさんは、奥さん、長女、次女の4人家族。子どもは二人とも結婚を機に実家を離れて、それぞれ幸せに暮らしていました。しかし、不幸は突然やってきます。Aさんが突然亡くなってしまったのです。
悲しみに暮れる奥さんと娘たち。親戚のサポートで、何とか、葬儀を終わらせることができました。そしてやっと家族でAさんの思い出に浸りながら、今後のことを話せる時間がやってきたのです。
「お母さん、これからどうする? この家で一人じゃ心細くない?」と娘たち。
「大丈夫よ。まだまだ私も若いんだから。それにお父さんとの思い出が残った家だから、もう少し、ここに住みたいの」と母。年はまだ60代。娘たちも、まだ母一人でも大丈夫だと感じていました。そして母が切り出しました。
「でね、お父さんの遺産なんだけど……。あの人、先々のことを考えて色々と資産運用をしてきたの。この家とは別にマンションを持っていたり、株式投資をしていたり。貯金も結構あるのよね。これらをどのように分けたらいいのか……」
堅実な性格の父は、若い時から将来を見据えて資産運用を行い、二人の老後はもちろんのこと、娘たちも楽ができるようにと、財を築いてきたのでした。しかし突然の不幸。相続対策はまったくしてなく、遺言書もありませんでした。
しかも家計以外のお金まわりのことは、右も左もわからない母と娘たち。この日は「どうしよう、どうしよう」と3人とも繰り返すばかりで、結論は出ませんでした。
自宅に帰ってきた次女は、夫に状況を話しました。
「お父さん、運用がうまくいっていたみたいで、結構遺産があるみたいなのよ。でも遺言書もないし、3人ともうろたえるだけで。どうしたらいいんだろう?」
「この次、いつ話し合いをするんだい?」
「再来週の水曜日よ。どうして?」
「おれ、相続の本を読んだことがあるから、力になれると思うんだ。一緒に行くよ」
「そう? でもその日仕事じゃない?」
「大丈夫。有給、結構たまっているし」
「ありがとう! じゃあ一緒に行きましょう」
そして、翌々週の水曜日。母、長女、次女、次女の夫が集まりました。
「あら、お義兄さん。今日はどうしたの?」
「3人が困っていると聞いたから、中立的な立場でアドバイスできたらと思って」
「そうなんだ、心強いわ」
そして遺産の分け方について、4人での話し合いが始まりました。次女の夫のサポートもあり、すんなりと進んでいくかと思いきや、話し合いは段々とヒートアップ。
「お義兄さん、それではあまりに不公平よ」と長女。
「でも、こう分けたほうが楽じゃないですか!」
「ダメよ、自分たちの都合のいい事ばかり考えて!」
「自分たちって……俺は中立的な立場でアドバイスできたらと思って、わざわざ会社を休んで来ているんです!」
「そうよ、お姉さん。そんな言い方、あんまりだわ」と次女も夫を擁護します。
「あなた、最初から自分の取り分を増やそう、お義兄さんを連れてきたのね」
「まあまあ、3人とも」となだめる母。しかしこのまま話し合いは平行線のまま、わだかまりりを残してこの日の話し合いは終了しました。
この家族の揉め事の原因は、相続人以外の人、このケースでは次女の夫が話し合いに口を出したことがほったんです。どんなに中立的な立場といっても、利益相反の関係が生じます。利益相反というのは、ある行為において一方には利益になるが、もう一方には不利益になるということです。
この場合では、次女が多くの財産を相続できれば、自分も得をするという立ち位置にいます。どんなに自分が中立的な立場を主張しようとも、当事者からすれば「都合のいいことばかり言って」となるわけです。
このようなケースは、世の中にたくさんあります。相続人ではない第三者が介入し、泥沼化してしまうケースです。このようなことを避けるためにも、筆者は相続人以外の人の遺産分割協議への参加は避けるよう、アドバイスをしています。あくまで相続人同士での話し合いを優先させるべきなのです。
しかし、まったくの無関心は良くないので、相談にはちゃんとのってあげるようにしましょう。「自分は部外者だから」という姿勢も、別の喧嘩の火種になりかねません。
【動画/筆者が「揉めやすい相続」について分かりやすく解説】