読んだ家族全員が「え?」…遺言書の内容を変えることは可能か

争いが絶えないことから「争族」と揶揄される「相続トラブル」。当事者にならないために、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は「相続問題とは無縁」と考えていた兄弟が引き起こした相続トラブルの事例を、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

相続人全員の同意があれば、遺言書通りでなくてもOK

突然ですが、クイズです。

 

【問題】

ある方が、財産を残して亡くなりました。きちんと遺言書を残して亡くなられていたので、残された家族は悲しみに暮れるなか、その遺言書を開けてみたのですが、その遺言書を見た家族全員が同じことを思いました。

 

――この遺言書、 内容をちょっと変えることはできないかしら?

 

さて、家族全員=相続人全員が同意した場合、遺言書の内容は変えることができる、○か×か?

 

いかがでしょうか? 答えは、「○」です。相続人が全員同意した場合、遺言書の内容は変えることが可能です。ちなみにこの問題を相続税セミナーで出すと、正答率は50%になります。おそらく、この記事を読んでいた方も正答率は同じような具合なのではないでしょうか。

 

そもそも、なぜ、いきなりこのようなクイズを出したかというと、実際に、このケースは非常によくおきているからなのです。亡くなった方がせっかく一生懸命、遺言書を残しても、相続人全員=家族全員で変えてしまうケースは非常に多く存在します。

 

なぜ、こういったことが起きてしまうのでしょうか。もちろん、感情的な問題もあるでしょう。今回は、感情的な問題以外の部分で「なぜか」を考えると、遺言書の通りに財産を分けてしまうと、相続税がとんでもなく高くなってしまうのです。

 

相続税は、財産の分けかた次第で、何倍にも金額が変わる恐ろしい税金なのです。

 

財産の分け方のルールというと、大きく2種類しかありません。それは、遺言書があるか、ないか、です。遺言書がある場合には、遺言書の通りに遺産を分けます。遺言書がない場合には、相続人全員で話し合いをして遺産を分けます。遺産をわけるための話し合いを遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)といいます。この遺産分割協議は、相続人が全員納得するまで終わりません。

 

ここで先ほどのクイズが関係してきます。遺言書は法的に非常に強い効力をもっていますが、遺産分割協議、つまり相続人全員で話し合い全員が同意をした場合には、その内容を変更することが可能になるのです。

 

一方で相続人全員が同意をすれば変更できるということは、1人でも「私はお父さんの遺言書の通りに遺産をわけたい!」という人が現れた場合には、遺言書の通りに遺産を分けなければいけないということです。

 

遺言書がない場合は、先に述べた通り、遺産分割協議で分け方を決めていくわけですが、「(夫が亡くなったら)妻が1/2で、その子どもは(2人以上いるときは、全員で)1/2と決まっているのでは?」と質問を受けますが少々違います。法定相続分というのはあくまで目安であり、相続人全員が同意すれば、違う分け方ができるわけです。

 

では、相続人全員の同意が得られなかったらどうなるのでしょうか。そうなると調停(家庭裁判所において調停委員立ち会いのもとを話し合い)による合意、それでも決まらなかったら、審判による決定(=家庭裁判所において裁判官による決定)となり、ここまで来るとドロドロした“争族”というイメージですね。

争族に発展しやすい「相続資産が分けにくい」パターン

ドロドロの相続トラブルですが、実は相続資産がたくさんあると起こりやすいというものではありません。よくあるパターンを見ていきましょう。

 

ある家族の話です。父親、長男、次男という家族がいました。2人の子どもはすでに独立し、それぞれ家庭を持っています。母親はだいぶ前になくなり、実家には父親だけが住んでいました。3人、バラバラに住んでいましたが、母親の命日には実家に集まり、家族の思い出話に花を咲かせるのが、毎年のお決まりとなっていました。

 

ある年の母親の命日。久々に顔を合わせた3人は、自然と相続の話に。

 

「お隣さん、おじいちゃんが亡くなった時に相続やらなんやらで、結構揉めたらしいよ。うちもそうならないように、何かしておいたほうがいいんじゃないかな」と次男。それを聞いた父親は、笑いながら言いました。

 

「馬鹿か。それはお金持ちが考えることだろ。うちは揉めるだけお金なんてないよ」

 

「それもそうだね」と長男。次男も「考えすぎかぁ」と笑い、相続の話はこれっきりとなりました。

 

その数年後、突然、父親が亡くなりました。呆然とする兄弟。しかし、父親はもしものときを考え、遺言書を残していたのです。

 

「相続なんて、うちには関係ないって笑ってたのに……」

 

何かあったときに子どもが困らないようにという親心――。兄弟の涙腺はさらに緩みました。そして遺言書を開けると、そこにはこう書かれていたのです。

 

――自宅は長男に、現金は次男に相続する

 

父が遺したものは自宅と現金のみで、それ以外に資産と呼べるようなものはありませんでした。そこで次男は、父が遺してくれた銀行の通帳を見ました。するとみるみると顔つきが険しくなっていったのです。

 

「父さんが遺してくれた通帳を見たら、1,000万円しかはいってなかったよ。これじゃ納得できないよ!」

 

自宅の評価額は4,000万円。遺言書通りの分配では不公平だというのです。

 

「そう言ったって、この家は分けることはできないだろ。お父さん、お母さんが汗水垂らして買った家だ、俺が守っていくよ」

 

「いや不公平だ、きちんと半々になるように、土地も建物も分けてくれ」

 

「それだと、この家を売らないといけなくなるだろ。それはできない」

 

「兄さんのことだ、これから子どもの高校だ、大学だとお金がかかるだろう。どうせ現金が必要になって、この家だって売るんだろう!」

 

「そんなこと、あるわけないだろう!」

 

兄弟間の話し合いは平行線のまま、結局は第三者が介入することになりました。

 

争族に発展しやすいのは相続資産が多い富裕層ではなく、統計的に相続資産が5,000万円程度で現金の比率が低い場合が多いようです。それは相続資産の“分けにくさ”が要因になっています。

 

ではこの場合どうすればよかったのでしょうか。家族含めて納得したうえで遺言書を作成したり、不動産を現金に変えて資産分配しやすい状態にしておいたりなど、事前に色々な相続対策ができたでしょう。

 

ひとつ言えるのは、「うちは相続するお金なんてないから大丈夫よ」と関係ない顔をしている家庭のほうが、もしものときに争族に発展しやすい、という事実です。もしものときのことについて、家族同士、きちんと話し合っておきましょう。

 

 

動画/筆者が「揉めやすい相続」について分かりやすく解説

 

円満相続税理士法人 代表 税理士

中学・高校とバンド活動に明け暮れる。大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人山田&パートナーズに正社員として入社する。

税理士法人山田&パートナーズでは相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算300件以上。また、三井住友銀行・静岡銀行・ゆうちょ銀行を中心に、全国の銀行で年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。

税理士の使命は、難解な法律や税金をできる限りわかりやすく伝えることだと考えている。平成29年1月に表参道相続専門税理士事務所を設立し、平成30年より法人化に伴い、円満相続税理士法人に商号を変更した。

著者紹介

連載円満相続税理士が楽しく解説!「相続の基礎知識」

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