日本ではあまり馴染みのない「プライベートバンカー」。富裕層のために、金融資産のみならず、事業再構築・事業承継についても「投資政策書」を立案し、長期的に実行を助ける専門家のことを指します。本記事では、岸田康雄公認会計士/税理士が、プライベートバンカーに求められる役割について解説します。

1:プライベートバンカーとしての強みと顧客基盤

プライベートバンキング業務をビジネスとして行う市場には、多数の競合他社が存在している。その市場競争に勝ち抜くためには、お客様にとって自社の強みがどこにあり、それをどのように活用するかを考えなければならない。

 

自社の相対的な強みを分析する観点は、①商品・サービスの品質、②顧客基盤、③収益性の3点であるが、なかでも顧客基盤が競争力の中心となる。その際、お客様から獲得できる収益を長期的に評価すべきである。すなわち、顧客がもたらす生涯にわたるキャッシュ・フローの現在価値を、お客様がプライベートバンカーにもたらす生涯価値(ライフタイムバリュー=LTV)として定義し、それを極大化することをプライベートバンカーの目標にするのである。

 

プライベートバンカーの「強み」

①商品・サービスの品質

②顧客基盤

③収益性

 

お客様の生涯価値を向上させるには、次の3点からその向上に寄与する取引がなされているかを検証する必要がある。

 

第一に、いかに長く顧客でいてもらうかである。第二に、お客様がほかの顧客を紹介してくれるかどうかである。富裕層の顧客紹介は、同じレベルの財産を持つ富裕層から受けることがほとんどであり、富裕層ではない人から富裕層を顧客として紹介されることはない。プライベートバンキングのビジネスでは、既存顧客による顧客紹介が最も確実で優良な新規顧客獲得の手法なのである。積極的に友人や知人を紹介いただけるような機会を作ることが重要である。

 

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第三に、クロスセルとアップセルである。これは、お客様がもたらす生涯価値に直接影響を与えるものであり、クロスセルとは、有価証券運用というプライベートバンキングのコア業務に加えて、相続税対策の一環として生命保険のような商品を販売することをいう。一方、アップセルとは、お客様にプライベートバンカーへの信頼を高めてもらい、ほかのプライベートバンカーからそこに資金を集中させ、取引額を増加させることをいう。このように、お客様がもたらしてくれる生涯価値は、顧客維持率の向上顧客紹介そしてクロスセルやアップセルの3つの達成で増大することになる。

 

生涯価値の増大の手段

①顧客維持率の向上

②顧客紹介

③クロスセルとアップセル

2:プライベートバンカーの営業力の強化方法

お客様からのほかの顧客紹介、提携する専門家から様々な案件の紹介をもらうためには、紹介を受けるための仕掛け作りが必要である。その手法としては、3つある。

 

第一に、ノウハウを文書化してアピールすることである。これについては、自らが有するノウハウをWebサイト上で公開するとよいだろう。

 

第二に、メディアヘの効果的露出を演出することである。富裕層は、相続税対策という共通の課題と社会的に際立った存在という意味で目立つため、外部業者の売込みが多く、それゆえ、商品やサービスを売り込もうとする人間に対して厳しい選別眼と強い懐疑心を持っている。したがって、売り込むよりも顧客を引き寄せることが重要である。ただし、顧客ターゲットを富裕層市場に絞るのであれば、大規模な広告宣伝を行うようなマス・マーケティングは必要なく、特定の顧客セグメントに絞り込んだ媒体に、自分のノウハウを提供して顧客開拓し、そこからの紹介の連鎖を起こすことができれば、十分であろう。 1人当たりの売上高も相対的に大きいからである。

 

第三に、専門家からのお墨付きを得ることである。特定の富裕層にアプローチする方法として、彼らが好んで読む雑誌に連載記事を寄稿したり、彼らが集まる勉強会に講師として招かれたりするとよい。特に、大手出版社からの書籍出版は効果的である。第三者的な立場にある大手出版社から認知を得ることで、お客様へ売り込む必要はなくなり、いい商品やサービスの提供者としてお客様のほうから選んでもらえるようになる。

 

そして、顧客からプライベートバンカーとして選好されるようになるには、こちらから先に利益を提供して、相手に好きになってもらうことが必要である。たとえば、お客様から直接依頼をされた仕事だけでなく、その周辺の課題についても情報提供するよう心掛けることである。また、きめ細かな情報提供を続け、短期的には見返りを一切期待しないで、お客様の利益への貢献を続けることである。この心掛けで接していくと、やがてプライベートバンカーへの信頼が高まり、個人的な相談を行ってくれるお客様になってくれるはずである。

 

相手が一流の人物であればあるほど、先行投資は大きく戻ってくると信じて続けることが大事である。プライベートバンカーのお客様のほとんどは、高齢者であるため、残りの人生を誰と過ごすかを考え、付き合う人間を選択している。お客様から選好されるプライベートバンカーになることが必要となる。

3:お客様をいかに見つけるか

プライベートバンキング業務の出発点は、ほかの事業と同じくお客様を見つけること、すなわち、マーケティングである。ほかの事業であれば、インターネットや雑誌メディアの広告宣伝などマス・マーケティングが有効な場合があるだろう。しかし、プライベートバンキング業務では、広範囲の広告宣伝はまったく通用しない。

 

プライベートバンキング業務でお客様を見つける方法は、顧客紹介、すなわち、既存のお客様からほかのお客様を紹介してもらうことである。いま関係を持っている富裕層が、提供しているサービスに満足してくれた場合、新たな富裕層のお客様を紹介してくれるのである。これが唯一の方法だといっても過言ではない。お客様にとってみても紹介責任を伴い、信用問題にも発展しかねないだけに、プライベートバンカーの紹介には慎重になる。

 

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もちろん、紹介を期待できるお客様とそうでないお客様がいる。顧客紹介をいただけるようなお客様とは長い時間のお付き合いが必要となるため、プライベートバンカー自身と性格や価値観が合っていることが必要であろう。また、客観的にも幅広い交友関係を持ち人脈が豊富な人物であることは大前提となる。このようなお客様とは親密な関係性を築き、ほかの顧客紹介を期待する。これがプライベートバンカーの営業手法となる。

 

それでは、既存のお客様からほかのお客様を紹介してもらうためには、プライベートバンカーはどうすればよいのであろうか。

 

企業オーナーのお客様であれば、既存のお客様が運営する事業を支援することである。経営されている事業の売上拡大に具体的に寄与するために、取引先を紹介するなどの営業支援を行う。また、コスト削減に効果的な提案を行うこと、外部から採用することが難しい優秀な幹部人材を紹介することである。

 

プライベートバンカーが無償でこのような支援を提供し、その結果お客様に喜ばれたときには、そのタイミングを逃すことなく、「社長のようなお客様をぜひご紹介いただけないでしょうか」とストレートに依頼することが効果的である。お客様としてもプライベートバンカーに見返りを提供しようと努めるはずであり、意識的に紹介できそうな友人や知人を探すことになろう。それによって、それまでの時間と手間をかけてきたお客様への投資を回収するのである。

 

また、ビジネス以外の側面からもお客様の期待を超えるサービスを提供することも効果的である。たとえば、子供の就学、就職、結婚の支援、入会困難な会員制クラブへの招待などである。

 

あと、既存のお客様が所属している組織とネットワークのなかにプライベートバンカーが自ら入り込むことは、顧客紹介の可能性を高めるものであり、効果的な営業手法である。ただし、富裕層は信用を重んじるため、恵まれた組織に所属したからといって新規開拓営業を行ってはならない。

 

プライベートバンカーのマーケティング手法

          ↓

既存のお客様からほかのお客様を紹介してもらうこと

          ↓ そのためには

①既存のお客様が運営する事業を支援すること

②既存のお客様が所属している組織とネットワークに入り込むこと

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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