「働き方改革」に成功した中小企業経営者の共通点は?
ここまで4回にわたり、中小企業を対象とした「働き方改革」のトピックを解説してきました(関連記事『他人事ではない!中小企業こそ「働き方改革」すべき3つの理由』参照)。最終回となる今回のテーマは、「働き方改革」を推進するうえで役に立つと考えられる「経営者の意識改革」です。
経営者が「働き方改革」に腹落ちしていないのに施策を導入しても、従業員の期待との間でミスマッチが生じ、空中分解してしまう恐れがあります。「働き方改革」によって従業員の意識が変わっていくのみならず、経営者自身も変わらなければならないのです。
そこで、周囲で「働き方改革」の推進に成功している中小企業経営者の共通点を整理してみると、多かれ少なかれ次のような共通点が見受けられました。これらに配慮して行動してみるといいのではないでしょうか。
1.「働き方改革」の効果について自ら肌感覚で実感する
経営者が「働き方改革は行政が主導しているから仕方ない」といった“やらされ感”で消極的に進めてしまうと、かえって従業員の士気が低下してしまい、本末転倒な結果となりかねません。
したがって、経営者は「働き方改革」の有効性や意義を事前にきちんと理解しておく必要があります。当然、行政が主催するセミナーや関連著書で学ぶこともできますが、ここでは、「働き方改革」の効果を腹落ちさせることにつながる事例を2つお伝えします。
これはダイバーシティを積極的に導入し成功している経営者から聞いたことですが、経営者は一度クラシックコンサートに行くことを強くおすすめするとのことです。
人によっては「クラシックなんてつまらない、退屈」と感じるかもしれませんが、じっと我慢をして最初の30分でも聞けば、ダイバーシティの真なる意味が理解できるとのことです。確かに、男女関係なく、バイオリン、トランペット、チェンバロなど多様な楽器で奏でるその姿は、まさに同じベクトルで一心不乱に突き進むことが求められる企業経営の大きなヒントとなるのでしょう。
また、経営者自らの仕事の定義を見直してみるのもいいでしょう。「働き方改革」が一般的となる世の中では、昭和の時代にあったような「朝、人一倍早く出社する」とか、「一番遅くまで残業する」といった経営者の行動様式は、もはや時代遅れで逆効果になるのでしょう。
また、筆者の個人的な見解にすぎませんが「Work Life Balance(ワークライフバランス)」もいささか陳腐化した感じがします。これからの時代は落合陽一氏が提唱している「Work as life(ワークアズライフ)」※が主流だと感じるのです。つまり、経営者であろうと従業員であろうと、これまで一般的に考えられていた「仕事をしている時」が「仕事をしている時ではなくなる」ということです。
そうすると、副業・兼業や残業時間の上限規制撤廃の意義について自然と腹落ち感が出てくるのではないでしょうか?
※ 「Work as life」とは「仕事とプライベートをわけることなく、寝ている時間以外はすべて仕事であり趣味である」という考え方です。
以上、2つの事例を挙げましたが、ほかの個人施策についても肌感覚を実感できるようなネタを探してみてはいかがでしょうか。
「トップダウン体制」を見直し、従業員のやる気を向上
2.経営者と従業員の関係性を深化させるツールと捉える
「働き方改革」は外部環境の変化のひとつです。経営者は、この外部環境の変化をテコに、企業がさらに成長するための機会とポジティブに捉えることが望ましいでしょう。たとえば、経営者は強烈なトップダウン体制を見直し、従業員のやる気を向上させ、さらには能動的なボトムアップ意識の芽生えといった地点まで気づきを促すことも一案です。
ちなみに話は変わりますが、「俺はこんなに従業員のことを考えている」というような経営者の独りよがりな思い込みに基づく施策とならないよう、注意しなくてはなりません。「働き方改革」の受益者である従業員がベネフィットを感じない施策は、まったく意味がなさないからです。
以上、いかがでしょうか。「働き方改革」は労働環境の見直しや、人事制度などの枠組みを整備・改変するなど、形式を整えるということが主軸にありますが、中小企業にとっては、経営者自身の内面の改革(内省)の色彩が強いものと考えられます。
いいかえると、少し大げさかもしれませんが、「経営者の従業員に対する慈愛を見える化するプロセス」と考えるべきではないでしょうか。
久禮 義継
株式会社H2 オーケストレーターCEO/公認会計士久禮義継事務所 代表