人的資源の少ない中小企業を苦しめている「働き方改革」。解決策として、単に福利厚生の充実として推進するのではなく、業績向上につなげる考え方が必要です。本記事では、公認会計士の久禮義継氏が、中小企業の業績アップを目標とした「経営戦略としての働き方改革」について解説します。

中小企業の働き方改革は「取捨選択」から

今回は「働き方改革」全体ではなくて、個別具体的な施策レベルで、それぞれが中小企業に「どれだけフィットしているか」について論じてみたいと思います。

 

ただ、すべての施策について論じるには紙面の都合上無理がありますので、「働き方改革」において採用される個別施策のうち、代表的な施策(①テレワーク、②副業・兼業、③シニア層の活用、④ダイバーシティ)に絞って解説を進めていきます。

 

最初に結論を述べてしまうと、中小企業においては、「すべての施策を採用するべきではなく、各社のおかれた状況などを鑑み、選択的に採用することが望ましい」といえます。

 

上記4つの代表的な施策に関して、中小企業へのフィット感は、[図表]のように整理できるでしょう。

 

[図表]「働き方改革」の代表的施策のフィット感
[図表]「働き方改革」の代表的施策のフィット感

 

では、簡単ではありますが個別に解説していきましょう。

「ダイバーシティ」の意味を履き違えていないか

①テレワーク

大企業では、「同じ部署でも全然コミュニケーションがない」というケースが少なからずあります。しかし、中小企業の場合はそうではなく、少人数で縦横のコミュニケーションが緊密であることが一般的であり、テレワーク導入の必要性は乏しいと考えられます。

 

とはいえ、中小企業のなかでも、ひときわ元気なスタートアップ企業では「誰がどこで働こうがまったく気にしない」会社は多くあります。要は成果を出せばいいスタンスです。このあたりは自社の状況に応じて、選択していきましょう。

 

②副業・兼業

近い将来、AIやロボットに仕事が奪われる! 経営者のみならず、従業員たちも危機感を覚えていることでしょう。

 

ユニークなアイデアや発想力、そして新しいアプローチの採用が、AIやロボットからの侵食を防ぐことができる……という考え方があります。副業・兼業を認めるならば、創造力を育み、多面的なモノの見方を豊かにするような仕事を推進することが理想的です。また、「時間外労働の上限規制」が導入されるため、残業時間が減ることによる収入減の確保といった現実的な必要性もあります。

 

中小企業の場合には副業・兼業を与えるだけのリソースが十分にないことが問題です。ただ、副業・兼業は、AI・ロボットに代替できない価値を有することにつながり、企業の足腰を鍛えることにつながることから、中期的にみれば経営者としても十分なベネフィットがあるはずです。

 

③シニア層の活用

人的リソースが乏しい中小企業に対し、直接的に労働資源を提供することから有効性が高いと考えられます。特に地方に所在する昔ながらの中小企業は、地域社会との繋がりが密接であることが多いため、フィットするのではないでしょうか。

 

また、シニア層に対する労働の対価として、金銭に加えて、地域に貢献しているという生き甲斐の提供などの要素もあり、費用対効果のバランスを取ることができる可能性があります。

 

④ダイバーシティ

そもそも中小企業の場合、人数が少ないので、少しダイバーシティに取り組むだけでも効果が出やすいと思われます。とはいえ、急に進めると従業員が混乱するリスクが高いので、徐々に様子を見ながら、どのような形のダイバーシティが自社に馴染むかを考えた方がいいでしょう。

 

ちなみに、本題からはそれますが、一つ付言したいのが、そもそもダイバーシティの意味を履き違えている企業や専門家が多いという点です。「女性登用の促進」というようなジェンダーダイバーシティ=ダイバーシティではないのです(※1)。

 

中小企業のみならず、すべての企業にいえる話ですが、ダイバーシティのあり方の一部にすぎないジェンダーダイバーシティにとどまらず、より効果が高いといわれているタスクダイバーシティまで踏み込むことがより望ましいといわれています(※2)。

 

※1 ジェンダーダイバーシティがいきすぎた場合、女性管理職と女性一般職との軋轢、逆に女性に偏った人事制度(例.女性昇進人数の目標達成を目指す結果、優秀な男性が昇進の機会を失う)などの問題が指摘されることがあります。

 

※2 タスクダイバーシティとは、個々人の能力・経験・知識など、目に見えない部分が組織で多様化されることをいいます。

 

 

上記の解説は、多少偏った見方となっている部分もあるかもしれず、唯一無二の回答とはいいきれません。しかし、「働き方改革」にかかる個々の施策を採用する上で、多少なりとも参考となれば幸いです。

 

 

久禮 義継

株式会社H2 オーケストレーターCEO/公認会計士久禮義継事務所 代表

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