赤字中小企業の経営者は、「最悪な老後」を回避できるのか?

「老後破産」。考えるだけでも恐ろしいですが、将来の年金も期待できない今、貯蓄も満足にない方には十分迫りうる現実です。特に経営者の場合、会社の負債を支払えなければ、個人で背負うことになってしまうケースも多くあります。財産をすべて失ってしまうその前に、「不動産売却」という手段をあらかじめ考慮しておきましょう。本記事では、経営者引退コンサルタントの大澤義幸氏が、「赤字中小企業」の経営者が生き抜く策を解説します。

不動産売却で得られるはずの利益を逃す経営者

不動産取引は、数ある他の取引に比べて動く金額が大きいものです。想定以上の高値で売却できれば、数億円もの大きな利益を一瞬にして得ることができます。逆に失敗すれば、巨額の損失を被ることもあるということです。

 

これは経営者にとって一つの「事業」とも呼ぶべき規模の大きな経済活動であり、自分の本業は不動産とは関係がないと放置すべき問題ではありません。ところが多くの経営者にとって不動産売買の仕組みは不透明で、本業のように成功のための対策や工夫をすることが困難です。

 

たとえば不動産売却においては、仲介事業者と契約を結んだ後は買主が見つかるのを待つだけという売主が大半を占めますが、わからないことが多いために人任せになってしまいます。本業ならば顧客を誰かが連れてくるのを漫然と待つことはほとんどありません。もし営業を委託するなら少なくとも相手のことを調べるでしょう。これまでの実績や経営の状況などを調査し、十分信頼できるという判断ができてようやく契約を結ぶのが普通です。ところが、多くの売主は不動産仲介事業者に対してそこまでの調査は行いません。

 

また、事業であれば期限ごとに収支報告を求め、可能なら自分でチェックするはずですが、仲介事業者がどんな活動をしているか、仔細に検証できている経営者はまれです。そのため、不動産仲介事業者が誠実さに欠ける対応をしていても気づくことができず、実は得られたはずの売却益を数億円という単位で逃してしまうのです。

本当に売りたいのなら「周りは敵だらけ」と考えること

不動産取引を一つの事業と捉えれば、所有していても意味のない不動産や損失を生み出す不動産は、適切なタイミングで売却しなければなりません。しかし経営者が自社で保有する事業用不動産を売却しようとすると、ほとんどの場合、従業員や取引先、その他関係者、あるいは家族などから強い反発が起きます。

 

たとえば事業縮小のために工場を売却するとなると、従業員から強い反発が起きるでしょう。工場で働いている従業員たちからすれば、働く場所がなくなってしまうのですから、必死に抵抗するのは当然です。

 

あるいは支店の撤退となれば、取引先からビジネス上の不都合を理由に、これまでの取引を解消されてしまうかもしれません。

 

経営者としては、身近に接する人たちから売却について否定的な意見を聞かされると心が揺らぎます。しかしながら、その声に流されてしまうと結局は破綻することとなり、経営者自身だけでなく、家族や全従業員にとっても悲惨な状況に陥ってしまうこともあります。そのため、経営者は事業用不動産の売却について、冷静にその事実を見極めて判断する必要があるのです。

 

むしろ経営者は、不動産売却にあたっては〝周りは敵だらけ〟だと考えた方がよいでしょう。安値で買い叩きたい買主に加えて、交渉を円滑にまとめて面倒を避けたい不動産仲介会社、金融機関でさえも味方ではないのです。

 

不動産売却において有利な交渉を進めるには、経営者は絶対にイエスマンであってはなりません。しかし、地道に事業活動を続けてきた経営者の多くは交渉ごとが苦手な傾向にあります。特に二代目、三代目社長はその傾向が強く、事業を円満に経営する手腕には長たけていても、さまざまな人が要望や意見、アドバイスを投げかけてくる不動産売却では、人の意見を聞き入れすぎるとマイナスに作用することもあります。

「きっと事業が回るようになる」が判断を狂わせる

経営者をいつも悩ませる法人税は、利益がなければ課税のしようがありません。ところが不動産についてまわる固定資産税は違います。

 

土地を持っているだけで課税されるので、たとえその事業用地が赤字しか生み出さないとしても、土地を保有している限りは毎年、ほぼ一定の額を納税しなければなりません。経営不振の事業で利用している土地は、赤字決算と課税という二重のマイナスをもたらす「経済的な問題の源泉」なのです。

 

しかし、土地を手放せば事業は続けられず廃業となりますから、判断は簡単ではありません。特に事業に思い入れがある場合、客観的に評価することは困難です。今はうまくいっていなくても、数年後にはきっと事業が回るようになる――その考えが、正しい判断を狂わせるのです。

経営者にとって不動産売却は負債整理のためがほとんど

事業用資産とされるのは本社や工場といった建物、土地、設備や備品、在庫商品などです。このうち大きな価値を持つのは、ほとんどの場合、不動産、中でも土地だけです。建物や設備、在庫商品などは非常に安価に処分され、場合によっては処分費用を要することもあります。

 

経営者にとって、負債が膨らむと、事業をたたんだ後に借金が残り、自身の生活を圧迫する可能性が高まります。私のところに相談に来る経営者のほとんどは、末期的な状態のまま自主的に廃業することなく事業を続け、多額の負債を背負っている状態です。

 

事業を廃業するときには、それまでの負債を清算しなければなりません。事業用不動産を売却して完済できればよいのですが、そうでなければ取引先に迷惑がかかったり、経営者の個人的な財産が失われたりすることになります。

 

与信の限界にいたると、金融機関はそれ以上の融資をしてくれないので、いずれは廃業もしくは倒産することになりますが、早めに決断しないとその後の生活も非常に苦しいものになります。

事業用地や自宅の売却は起死回生を図る最後のチャンス

倒産すると事業用資産や個人保証をしている経営者の財産は管財人が管理することになります。競売などの手続きにより管財人が現金化し、債権者に分配するのが一般的な破産手続きです。

 

ただし、抵当権が設定されている物件については「別除権」が発生します。管財人ではなく、抵当権を設定している金融機関などが裁判所に対して独自に競売を申し立て、優先的に債権を回収することができるのです。

 

競売が申し立てられると、裁判所は不動産鑑定士に不動産の査定を依頼し、競売の開始価格が設定されます。開始価格は市場価格の7割程度が一般的です。競売により得られた不動産の売却代金で負債を賄えればよいのですが、そうでない場合は経営者には負債が残ります。

 

実は不動産の売却価格は交渉の仕方や加工、買主の見つけ方などを工夫することで数倍にまで引き上げることが可能です。しかし、裁判所による競売ではそういった工夫は一切なされず、競売によって決まった価格がその不動産が持つ本来の価値に比べて大幅に低くても、自動的に売却されてしまいます。

 

経営者にとって事業用地や自宅は最後に残された大きな資産であり、その売却は起死回生を図る最後のチャンスです。競売にかけられ高値売却の機会を失ってしまうと、大きな負債を抱えた人生を送ることになりかねません。

ほとんどの財産を失う危険性がある

ほとんどの経営者は会社の負債に対して個人保証をしています。そのため廃業の決断が遅れて倒産にいたると、事業用資産を売却して得た資金を返済原資にあてても残る負債分については個人で背負うことになります。負債の額が大きく、金融資産で賄えない場合、自宅はもちろん自家用車や貴金属類、家財など、換金できる財産を処分して返済資金を作らなければなりません。

 

それでも支払い切れないケースでは経営者個人が破産にいたることもあり得ます。破産すれば左記のような「差押禁止動産」を除いて、それまで営々と築いてきたほとんどの財産が失われます。

 

【差押禁止動産】

一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具

二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料

三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭

四 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物

五 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物

六 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)

七 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの

八 仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物

九 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類

十 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物

十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具

十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの

十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物

十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

(民事執行法第百三十一条規定)

 

最低限の生活を保障する物品以外はすべて差押えの対象となり、負債の返済にあてるため処分されてしまうのです。

「最悪の老後」を迎えてしまう前に

ここまで紹介してきた通り、慢性的な経営不振に陥った経営者は立て直しもかなわず、かといって廃業することもできず、最後は多額の負債を抱えて最悪の老後を迎えるケースが多数を占めます。

 

運転資金の融資を受けるようになれば黄色信号、2期連続の赤字決算となれば事業の先行きは赤信号が灯った状態です。多くの経営者は危機的状況を敏感に察知するはずですが、さまざまな事情があるため「廃業して傷が小さいうちにリタイアする」という賢明な決断がなかなかできません。

 

事業不振が続くと負債が膨らむため、「従業員に退職金が支払えなかったり、取引先に迷惑をかけたりするのではないか」「老後の暮らしが厳しくなるのではないか」などの恐れが先立ち、迅速な判断ができないのです。

 

ただし負債と資産の状況によっては、廃業の決断を難しくしている要因の多くを解消することが可能です。事業によって利益を生み出せなければ、負債を圧縮するのは困難ですが、不動産の高値売却ができれば、一気にこれを解決することができる場合が往々にしてあり得ます。

 

売却で得た資金で借金を完済できるので、取引先や保証人に迷惑がかかりませんし、従業員はもちろん一緒に働いている兄弟、友人に十分な退職金を支払うこともできます。廃業に反対する家族も、借金を残さず会社をたたむことができれば考えが変わるでしょう。不振の経営者にはまだ、起死回生の手段が残されているのです。

株式会社大澤都市開発 代表

兵庫県生まれ。龍谷大学経営学部出身。在学中はアメフト部に所属。卒業後、マンション販売会社を経て、実家の駐車場管理業務を引き継ぎ、1年で急成長させる。その後独立開業し、宅地開発、医療ビル開発等で事業を広げていき、日本では珍しい不動産オークションを主催、自社ビル内にオークション施設を併設。これまでの総取り扱い不動産は1000棟、15万平米を超える。不動産コンサルティングマスター。日本で唯一の経営者引退コンサルタント。株式会社大澤都市開発、他関連数社の代表を務める。

著者紹介

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大澤 義幸

幻冬舎メディアコンサルティング

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