需要が堅調な「東京」は、成約賃料の上昇が鈍化
■今年竣工ビルは大半が内定
東京オールグレード※ビルの空室率は、引き続き1%を下回る0.6%となった。グレードAビルも、対前期(前年12月期)比0.1ポイント低下の0.6%となり、依然、空室消化が堅調であることを示している。
※グレードの定義は、記事下の図表3を参照
2019年のオールグレードの新規供給は、2018年の25万坪、2020年の30万坪に比べて、20万坪と抑えられてはいるものの、過去18年間の平均より約2万坪多い供給量を見込んでいる。
これらの新規供給に対しても、テナント企業は強い関心を示し、今年竣工のビルはすでに大半が内定している。そのため、来年以降竣工するビルを検討する企業も増えてきている。
新築ビルへの大型移転で発生する、数千坪単位の既存ビルの潜在的な二次空室も、現テナントの移転決定後、数ヶ月の間に、館内テナントからの大幅な増床や外部からの統合移転等で内定するケースが多い。
既存ビルでも、1年以上先の空室のテナントが決まっている状況だ。館内増床できずに出てくる分室ニーズや、自社物件の建て替えに伴う移転、コワーキングスペースを提供する企業の旺盛な新規出店需要も続いており、こうした二次空室が発生しない動きも、空室の減少に拍車をかけている。
■賃料上昇率に鈍化の兆し
多くのエリアで、これ以上大幅な空室率低下は見込めないため、グレードAビルの2018年12月期からの賃料上昇率は1%未満となった。
働き方改革や人材確保のための環境改善を目的とした移転や、IT企業を中心とした爆発的な増床ニーズは引き続き見られるものの、高い賃料水準のビルを中心に、以前より決定までのスピードはやや鈍ってきた印象がある。条件交渉に時間を要している可能性もあろう。
一部の貸し手側には、将来の新規供給や二次空室を見据えた動きもあり、2011年冬から上昇傾向にあった賃料推移は、ここにきて踊り場を迎えつつあるようだ。
一方の借り手側には、フィンテックやIoT、MaaS等、既存の業界の垣根を越えた協業により、新しい働き方や考え方が生まれ、今後のオフィスマーケットに影響を与えていくことも考えられる。年号が令和となった今年は、数年後に振り返った時、賃貸オフィスマーケットの潮目の年となっているかもしれない。
市全体の空室率が1%台まで低下する「横浜」エリア
■みなとみらいで開発目白押し
2019年3月期の横浜オールグレードビルの空室率は1.6%と、対前期(2018年12月期)比0.7ポイント低下した。
エリア別に見ると、「横浜駅周辺」エリアの今期の空室率は1.0%と、対前期比0.5ポイント低下。引き続き横浜駅周辺への需要は多く、空室消化が進んでいる。特に、人材・サービス系企業を中心に、駅近隣の物件への引き合いは強く、テナント退去前に次テナントが決定するケースも非常に多い。そのため、新規募集賃料を引き上げる物件も増えており、テナントは予算面で柔軟な検討が必要になっている。
「みなとみらい」エリアの今期の空室率は2.1%と、対前期比0.8ポイントの低下となった。新規開設や館内増床で空室が消化され、空室が少ない状況が続いている。大型面積を確保できる物件が少なくなり、引き合いも集中し始めていることから、さらなる空室率の低下が予想される。
両エリアでは、2020年に2棟の新規供給が予定されている。1棟はすでにテナントが決定しており、もう1棟もテナント募集が順調に進んでいるため、次の大きな供給は、2021年の「(仮称)横濱ゲートタワープロジェクト」の竣工を待つこととなる。
賃貸オフィス以外では、資生堂の新研究開発拠点と、京急電鉄の新本社ビルが、年内にオープンする予定。村田製作所やコーエーテクモホールディングス、神奈川大学等も、施設の新規開設を予定しており、「みなとみらい」エリアのさらなる発展に期待が集まっている。
■主要エリアで空室減少
「新横浜」エリアでも、空室は減少を続けている。面積帯を問わず、物件の確保が難しい状況。「関内」エリアも、空室率は引き続き低下。建て替えや立地改善、グレードアップ等によるエリア内移転も多いが、エリア外からの移転や、館内増床も続いている。ただし、来年は横浜市新庁舎完成に伴い、大きな動きが出てくるものと予想され、関心を集めている。「川崎」エリアも、空室が少ない状況で推移している。新規募集が出ると、複数の引き合いが集まる状況となっている。
各エリアで空室の減少が続いており、賃料は上昇傾向が見られる。今後の新規供給等の動きが、現在の逼迫したマーケットにどのような影響を及ぼすか注目される。