即戦力となる外国人材を受け入れる、新たな在留資格
2019年4月1日から改正入管法が施行され、新しい在留資格である「特定技能」が動き出しました。
施行前後は『外国人に単純労働解禁か』『事実上の移民政策ではないのか』などニュースや新聞等でも連日のように扱われ、世間の関心も非常に高く、人手不足に悩む中小企業経営者からは受け入れを真剣に検討したいとの声も多く寄せられる一方、いまだ「特定技能を取り巻く周辺制度の詳細情報を把握しきれない」や「制度自体が複雑すぎて何から手を付けていいのかわからない」との声も多く耳にします。
ここでは、わが国の人手不足解消の一手として政府が打ち出した「特定技能」という新しい在留資格について、どのような経緯で新設された、どのような在留資格なのか等、現状の就労系在留資格とも比較しながら、改めて解説していきたいと思います。
わが国の少子高齢化に伴う労働力人口の低下及び人材不足の問題はとても深刻な状況にあります。総務省によるとわが国は2008年をピークに総人口が減少に転じており、2050年には日本の総人口は1億人を下回ることが予測されています。また、15歳から64歳までの生産年齢人口を見てみますと2017年の7,596万人(総人口に占める割合は60.0%)が2040年には5,978万人(53.9%)と減少することが推計されています。労働市場での人手不足は経済成長の大きな制約につながります。
これになんとか歯止めをかけるべく、高齢者雇用や女性活躍の推進等が叫ばれている中、年々右肩上がりで増加傾向にあるポテンシャルワーカーたる外国人労働者への期待も高まる一方です。
このようなことから、国内人材の確保のための取り組み等を行ってもなお人材不足が深刻な真に受入れが必要と認められる分野に着目し、即戦力となる外国人材を受け入れるための新たな在留資格の創設が必要という政府の考えのもとに生まれたのが、新しい在留資格「特定技能」といえます。
「単純労働分野」と言われる職種にも対象を拡大
これまでの日本の入管政策は、人手不足を補うことを目的に、外国人労働者に対して就労系在留資格(以下、就労ビザ)を与えるというスタンスではなかったため、いわゆる単純労働とされる仕事に就くための在留資格は存在しませんでした。あくまで優秀な外国人に限り高度な専門職として日本で働いてもらおうという考え方のもと就労ビザが与えられ、専門的・技術的分野の外国人の就業を促進してきたということです。
外国人が就労目的で在留が認められるためには、「専門的・技術的分野」と言われる高度な専門的な職業・大卒のホワイトカラー層・技術者等に限定されていたといえます。もちろんこれは日本の産業及び国民生活等に与える影響を政府が総合的に勘案してのことですが、日本での就労を希望する外国人にとって、この「専門的・技術的」という言葉が、就労ビザ取得のとても高いハードルとなっていました。
ここ数年、日本で働く外国人労働者を目にする機会が増えてきたように感じている方も多いと思います。事実、日本における外国人労働者数は年々右肩上がりに増加しています。しかし、今のままの受入れペースでは、深刻な人手不足を補いきれないほどにわが国の人手不足は喫緊の課題と言えます。
現在の人手不足が将来的にわが国の経済基盤の持続可能性を阻害しないよう、外国人労働者受け入れ拡大を望む声も多いことから、今までの高度な専門職に限っていた従来施策を変更し、新たな在留資格を新設することで単純労働分野と言われるような職種にも対象を広げ、人材不足に歯止めをかけようとする狙いがあるのです。
「特定技能」には「1号」と「2号」の2つがある
政府は、新しい在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」の新設により、人手不足が深刻な業種に対して、2019年の4月から5年間で約34万人程度の外国人労働者を受け入れる方針です。
新設される在留資格「特定技能」の「1号」と「2号」の2つについて、それぞれ見ていきましょう。
●特定技能1号
特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。それに対して、特定技能2号は、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
特定技能1号では、いままで就労系在留資格付与要件として使われていた「専門的・技術的」という言葉を「相当程度の知識又は経験」に拡充されていることから、外国人材を幅広く受け入れていく新たな仕組みであることが読み取れます。
特定技能について論ずるうえで、よく「単純労働が可能になるんですよね」といったようなご質問を多くいただきますが、政府は単純労働や単純作業という言葉を一切使っていません。あくまで「相当程度の知識又は経験」を必要とする技能を要する業務が可能になるという見解ですので、このあたりご注意ください。
「相当程度の知識又は経験」とは、受入れ分野で即戦力として活動するために必要な知識又は経験のことであり、特定産業分野ごとに実施されるそれぞれの所管省庁が定める試験(特定技能評価試験)によって確認することになっています(※技能実習2号を修了した者は、試験等を免除)。
特定技能1号が今までの就労系在留資格と大きく異なる点として、日本人が行う場合にも発生するような附随的業務を行うことが認められているという点です。これは外国人を雇用する側にとっては、今までに比べてとても大きなメリットになるのではないかと思います。なお、当然ですが附随的業務は、全体の業務量の半分以下である必要があります。
また、技能実習と比べて大きく異なる点としては、同一業界内の転職が可能であることがあげられます。技能実習では原則として転職が認められていないため、本人の意思で会社(実習場所)を変えることはできません。故に受入機関がブラックな実習先だったとしても泣き寝入りせざるを得なかったり、失踪して不法滞在になってしまうような問題も発生しています。この点、転職可能な特定技能は、働く外国人にとっても選択の余地が広がることから大きなメリットと言えます。
特定技能1号の場合、家族の帯同は基本的に認められず、在留期間の上限は5年です。
●特定技能2号
特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
特定技能2号になると、1号と違って家族(配偶者と子ども)の在留も認められます。また、在留期間の上限もないため、在留期間の更新を経て永住の申請も可能になりますので、このあたりが事実上の移民政策ではないのかといわれているゆえんです。
特定技能外国人を受け入れられるのは「14業種」限定
特定技能外国人は、どの分野でも受け入れ可能というわけではありません。今のところ特定産業分野に指定された下記14業種に限定されています。
特定産業分野とは、生産性の向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお、深刻な人材不足であり、当該分野の存続のために外国人材が必要と認められる分野のことで、現在は、
①介護業
②ビルクリーニング業
③素形材産業
④産業機械製造業
⑤電気・電子情報関連産業
⑥建設業
⑦造船・舶用工業
⑧自動車整備業
⑨航空業
⑩宿泊業
⑪農業
⑫漁業
⑬飲食料品製造業
⑭外食業
の、14業種が指定されています。したがって、現在これら以外の業種で特定技能外国人を受け入れはできないということです。ちなみに特定技能2号は、⑥建設業、⑦造船・舶用工業の、2分野のみ受入れ可とされています。
政府は、本年4月の制度スタートから特定産業分野14業種において、5年間で最大34万5150人を受け入れる予定ですが、それぞれの業種の受入れ見込み最大値を下記にてご確認ください。介護、建設、外食業あたりがとても多いです。
①介護業:60,000人
②ビルクリーニング業:37,000人
③素形材産業:21,500人
④産業機械製造業:5,250人
⑤電気・電子情報関連産業:4,700人
⑥建設業40,000人
⑦造船・舶用工業:13,000人
⑧自動車整備業:7,000人
⑨航空業:2,200人
⑩宿泊業:22,000人
⑪農業:36,500人
⑫漁業:9,000人
⑬飲食料品製造業:34,000人
⑭外食業:53,000人
現在はこれら14業種が特定産業分野とされていますが、今後これらと同様に人材不足の状態が生じた業種が発生した場合は、行政及び中央省庁等の関係機関による協議により必要と判断されれば、業種分野の拡大も十分可能性はあるかもしれません。
特定技能外国人を受け入れるための「基準・義務」
さて、本年4月1日の制度実施以降、特定技能外国人の雇い入れにご関心がある企業も日に日に増えてきました。これらに関連するセミナーや行政による説明会は連日満員という話も聞きます。いざウチの会社も特定技能外国人を受け入れようと思ったとき、「会社(受け入れ機関)はどうすれば受け入れ可能になるのか?」「実際に受け入れた場合は、会社にどのような義務が発生するのか」などは、関心が高い事項かと思いますので、そのあたりも少し触れておきましょう。
まずは受入れ会社になるための基準は下記となります。
①外国人と結ぶ雇用契約が適切(例えば、報酬額が日本人と同等以上であること)
②受入機関自体が適切(例えば、5年以内に入管法や労働法令違反がないこと)
③外国人を支援する体制がある(例えば、外国人が理解できる言語で支援できること)
④外国人を支援する計画が適切(例えば、生活オリエンテーション等を含む支援計画があること)
「雇用契約が適切」とは、特定技能外国人に支払う報酬が日本人と同等以上で結ばれていること等が求められますので、外国人であることを理由に日本人より低賃金で雇うことはできません。また、外国人が理解できる言語で支援できるとは、日本語レベルN4程度の外国人でも理解できる言語(母国語等)でのサポート体制の構築などが必要です。
次に、受け入れ機関としての義務については、当然、特定技能外国人への支援を適切に行う事が必要となってきます。外国人への支援の具体例とは、
①入国前の生活ガイダンス提供
②出入国時の空港への送迎等
③住宅の確保
④在留中の生活オリエンテェーション
⑤生活のための日本語習得
⑥外国人からの相談・苦情への対応
⑦行政手続きに関する情報提供
⑧日本人との交流促進
⑨非自発的離職時の転職支援等
が挙げられています。一企業、特に中小零細企業等ではこのような支援体制を組むだけでもかなりの労力を費やすことになります。そこで、先に述べたような外国人に対する支援業務は、受け入れ機関自身が行わなくても、今般の入管法改正で新たに創設された『登録支援機関』へ委託することが可能な仕組みが取られています。『登録支援機関』についての説明は長くなりますので、『2019年入管法改正で新たに整備された「登録支援機関」とは?』に譲ります。
「特定技能外国人1号」として日本で働くための条件
特定技能外国人1号として日本で働くには、
①試験に合格して特定技能外国人1号になる方法
②技能実習2号を修了し、無試験で特定技能外国人1号になる方法
の2パタ-ンがあります。
政府は、特定技能制度創設後5年間で34万人の受け入れを見込んでいますが、特定産業分野ごとにその受け入れ想定パターンが明確に分かれているといえます。例えば、介護業、外食業、宿泊業といった『特定技能評価試験』がいち早くスタートした分野は、そのほとんどを①のパターンで想定しています。これに対して建設業、製造業、農業などといったこれまでも技能実習を積極的に受け入れていた分野では、そのほとんどを②のパターンによる受け入れとして想定しています。
『特定技能評価試験』の開始時期は、特定産業分野によってばらつきがありますが、介護業、宿泊業、外食業の3業種が先行して既にスタートしております。その他の業種は2019年秋以降から順次開始されることとなっています。これは前述した通り、建設業、製造業、農業などは、そのほとんどを②のパターンによる受け入れを想定していますので、あまり試験を急ぐ必要はないという理由からかと思います。
最後に、『特定技能評価試験』の実施予定国についてですが、当面は、協定国であるベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジア、ネパール、モンゴルの9カ国で実施される予定です。この9か国との協定はあくまで現地での試験実施を予定している国であり、9ヵ国以外の国籍の外国人も日本で『特定技能評価試験』に受かれば『特定技能』を取得できる可能性はあります。今後順次協定国も増えていくことでしょう。
これまで述べてきました新しい在留資格「特定技能」の始動は、賛否両論あるにせよ日本の入管政策における、大きな変換点である事は言うまでもありません。わが国における喫緊の課題である人手不足解消の一助として、今年から多くの特定技能外国人が日本で働く事になります。せっかく日本で働く事を選んでくれた外国人が今後一日でも長く日本で働いていただけるよう、政府はもちろん、受け入れ企業や登録支援機関をはじめ、外国人雇用に関わるすべての日本人が彼らを理解し、支援体制をしっかり整備していくことで、外国人から選ばれる国になっていく必要があります。
特定技能に関する最新情報、リーフレット、申請書様式等は、法務省HPをご参照ください。
法務省HP:新たな外国人材受入れ(在留資格「特定技能」の創設等)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00127.html
井出 誠
行政書士・社会保険労務士
社会保険労務士ブレースパートナーズ 代表
行政書士ブレースパートナーズ 代表