世界で拡大する「認知症カフェ」…介護問題の一助となるか?

日本において、「認知症」に関わる問題は深刻化しています。介護する側の負担が重いのは当然のことではありますが、患者本人も、認知症という治らない病に苦しんでいるのを忘れてはいけません。自身の変化に怯えたり、苛立ったりしている認知症患者の方へ、どのような手助けができるのでしょうか。本記事では、認知症患者の救済場として注目を集める「オレンジカフェ」について解説します。

オランダでは「アルツハイマーカフェ」の拡大が進む

私たちがそれまで「難しいだろう」「そんなことはできるのかな」と思っていたようなことでも、実はやってみると新たな展開につながることがたくさんあります。もっと言えば、「難しいだろう」ということすら考えないような、意識もしていないことでも新しいことは生まれてきます。私たちが始めた「オレンジカフェ」という認知症カフェもその一つ。

 

2006年に海外研修でオランダに行ったとき、現地でアルツハイマーカフェを開設している施設を視察することができました。その施設は元修道院だった建物を利用して認知症患者さんのための施設として使っているもの。デイケアで使われている場所で週に一度、金曜日の夜に地域の人にも開放されたカフェをオープンします。現地のアルツハイマー協会から依頼を受け、認知症の人が集まれるカフェとして開かれているのですが、特徴的なのは誰もが集まれるということ。

 

患者さんや家族はもちろん、医療・介護関係者、地域住民、学生などがみんな楽しそうにカフェにやってくるのです。しかもお国柄なのかお酒を飲むのもOK。認知症の人も特別扱いされることなく、ごく自然にみんなと語らったり、ビール片手に歌ったり自由にしている。しかも学生は無料なので、当然のように楽しみにやってきます。

 

でも、それがまた老若男女問わず集まれるカフェの楽しい空気をつくっているわけです。これはなんだかいいなと思いました。ノーマライゼーションやインクルージョンを堅苦しくなく包み込むように実践しているのに触れて、自分たちもやってみたいと思ったのです。

 

その後2009年に再びオランダを訪れたときには、2006年当時、全国6カ所だったアルツハイマーカフェが120カ所にまで拡大。さらに2011年には220カ所と、それだけカフェの効果が認められたというわけです。今ではさらに250カ所にまでなり、オランダの認知症ケアの3本柱の一つにまでなっています(書籍『医療・介護に携わる君たちへ』刊行当時)。

 

決して日頃から交流のある人たちでなくても、「居場所」を提供することで、同じ地域で生活している、同じ時代を生きてきた、あるいは同じ悩みを抱えているなど、集う人たちが何らかの接点を持ちながら、そのつながりを強くしていくこともあるのです。

認知症の人が堂々とできる「オレンジカフェ」

この認知症カフェを自分たちも開設するにあたって、私たちの法人の地域包括支援センターが主体となり、公民館を借りてスタートさせることになりました。同じ川越市内にある他の9つの地域包括支援センターでも認知症カフェの取り組みが一斉に始まりました。

 

一つの地域でこれだけの認知症カフェが開設されているところは国内でもあまり例がありません。彼らが名付けたのは「オレンジカフェ」。これは日本での認知症施策の総合戦略がオレンジプランと呼ばれていることにちなんだもの。海外で見て学んだ認知症カフェの良い部分を日本の実情に合うようにアレンジして開いたのです。

 

オレンジカフェもオランダの認知症カフェですごくいいなと感じた「自由な感じ」を大切にしたくて、特にルールで縛ることをしていません。集まってきた人たちが自由に、主体的に過ごせることが大切だからです。

 

ただ、日本人の物事の考え方、とらえ方に合うような工夫はしています。あえて100円の〝カフェ代〟をみんなに払ってもらうのもそうです。無料でもいいのですが、無料にすると「なんだか怪しい」と感じる人もいるので、お茶代的な金額を支払ってもらうことで安心して集まってもらえるようにしました。

 

私が見学に行ったときは、集まってきた認知症の人やそのご家族、地域の人たちがみんなで歌を楽しんでいる。聞いていると、昔流行った「瀬戸の花嫁」なんかを歌っているのですが、若いスタッフたちはその歌を知りません。

 

ですが認知症の人は歌えるので2番の歌詞まで知っている。この曲はこう歌うのよという感じで堂々とみんなをリードしているのです。そんな姿は、普段あまり見られません。どちらかというといつもは自分が認知症という負い目のようなものを感じてか、あまり前に出てなかったのにここでは自分を出せている。こういう場をつくれて良かったと感じました。

 

これは、まさに私たちが大切にしている「主体性」が自然に表れたもの。利用者の方に単なるサービスを提供することではなく、その人自身の主体性を取り戻させるためのお手伝いをすることが私たちがやるべきことだからです。

 

医療・介護の世界ではよく「自立」ということを言われますが、それは身体的なことだけを指すのではありません。精神的なもの、意志的なものも含めての自立をいかに取り戻してもらえるかが勝負。加齢や障害で主体性を発揮しにくくなるのは現実としてあることです。

 

そのために、本来なら自分でできたことを誰かにやってもらえることは「楽」かもしれない。ですが、それは「喜び」ではありません。喜びを取り戻してもらえるように取り組むことが私たちの役割です。どんな人も、姿勢や顔つき、何かをやろうとする意欲などは「喜び」があることでどんどん良い方向に変わっていきます。

 

すべての場面で主体性を持たなければダメという話ではなく、そのときそのときで主体性を持てる時間をどのように提供していけるかが大事なのだということ。オレンジカフェはそうした取り組みの一つであり、そこにはいろんな大切なものが詰まっているのです。

医療法人真正会・社会福祉法人真寿会 理事長

昭和31年生まれ。帝京大学医学部卒業。埼玉医科大学病院での研修後、医療法人真正会霞ヶ関中央病院に入職。同医局長を経て霞ヶ関南病院病院長に就任。現在に至る。

主な社会活動として、全国デイ・ケア協会会長、日本リハビリテーション病院・施設協会副会長、埼玉県地域リハビリテーション推進協議会会長。また帝京大学医学部・兵庫県立大学大学院・埼玉県立大学・目白大学等で講師を務める。厚生労働省社会保障審議会介護保険部会臨時委員も歴任。

これまでの著書に『ケアマネジメントと組織運営』(メヂカルフレンド社)、『主治医意見書のポイント』(社会保険研究所)、『ケアプランの上手な立て方』(日本実業出版)等がある。医師、日本リハ医学会認定臨床医、認知症サポート医、社会医学系専門医・指導医。趣味はゴルフ、海外旅行、風景写真、水彩画等。

著者紹介

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斉藤 正身

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