M&Aは売り手にとっても買い手にとっても非常に魅力的な事業承継方法です。そのため、最近では企業の大小にかかわらず、多くの会社がM&Aに関心を持っています。本記事では、個人・法人の事業承継対策を行う山田知広氏が「M&Aの相手を見つける方法」について解説します。

M&Aは双方の会社にとって「成長」するための戦略

高齢の経営者では企業買収にあまりよいイメージを持っていない人がいると言いましたが、それは買い手企業に「乗っ取られる」とか「吸収される」という思い込みがあるからだと思います。ドラマや小説などでも、大企業が金に物をいわせて弱い立場の中小会社を買い取り、従業員を安い給料で働かせたり、無理難題を押し付けたりした挙句、おいしいところだけ持って行くといったシーンがしばしば描かれます。それで、「買収=侵略される」のイメージが刷り込まれてしまっているのではないでしょうか。

 

しかし、今のM&Aはまったく違います。かつてのイメージとは程遠いといってよいでしょう。

 

① 会社はそのまま、合併することもなく、会社名も変わらない

 

M&Aをしても会社名や現住所や取引先、従業員の待遇もほとんど変化ありません。リストラどころか、むしろ引継ぎ先の大手会社の基準に合わせることが多く、給与や福利厚生などの待遇面でよくなる場合も多いです。

 

② 社長もそのままのことも

 

場合によっては社長もそのまま続投する場合や、会長職や非常勤取締役、顧問としてしっかり会社に携わる場合もあります。引き続き社員や取引先の関係を保つためには、前社長に関わってもらわないとむしろ困るケースが多いのです。

 

③ 赤字企業の再生のための身売りではない

 

売り手は黒字企業もしくは高収益部門の譲渡がほとんどです。買い手は初めから「黒字」の会社を買い取って、すぐに収益を上げたいと考えています。企業の成長戦略としてのM&Aが目的なので、非常にフェアで前向きな選択といえます。

 

④ 成長が加速、社員のやる気もアップ

 

どうしても事業の後継者がいない会社は、保守的になりがちで積極投資できないものです。新たな社長のもとで、また新たな資金源の見通しができ、社員たちも安心して仕事に打ち込めます。小さなオーナー企業から、拡大路線の元気な会社の一員になれて、一番喜ぶのは社員でしょう。

 

⑤ 社内で子どもがバリバリやっててもM&Aを選択

 

近年増えたのが、今後の先行き不安の解消のため、大手上場会社などへ資本参加するケースです。後継者もいて、優秀な社員も技術もある会社ではあるものの、これから息子の代での年間、自社だけの資金力と人材でやっていけるのか……と考えたとき、事業発展の戦略として大手グループの傘下に入る資本提携型M&Aは有効な手段の1つになります。

 

いずれにしても、今の時代のM&Aは双方の会社にとって「成長」するための戦略なのです。健全でフェアであり、売り手と買い手にとってwinwinな承継です。

 

どうしても自社の魅力には気づきにくいものです。しかし「欲しい」といってお金を出して買ってくれる相手がいるということは、その会社に魅力があるという証明に他なりません。M&Aで売れていく会社というのは、負け組どころか立派な勝ち組なのです。

M&Aの相手を見つける方法① 自分で知り合いを辿って探す

私がM&Aを勧める理由に共感していただけたでしょうか。

 

それでは実際に自分の会社をM&Aで売却するとして、どういう方法があるかを見ていきます。4つあるので順番に見ていきましょう。

 

1つめは、伝手をたどって自力で相手を見つけてくる方法です。同業種との横の繫がりがある会社や顔の広い経営者なら、買い手企業を見つけてくることができるかもしれません。ただ、個人のネットワークはいくら広いといっても、たかが知れています。買い手企業が自分の近くにいなかった場合は、延々と出会えないことになります。買い手を探す方法としてはかなり非効率といわざるを得ません。

M&Aの相手を見つける方法② 地元の事業引継ぎ支援センターに相談する

2つめは、地元の事業引継ぎ支援センターに相談する方法です。「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」に基づき、「事業引継ぎ支援センター」が全国の主要都市に設置されています。

 

事業引継ぎ支援センターは、事業の継続や承継、売却・買収に関する相談に乗ってもらえます。また、M&Aが可能だと判断される場合は、仲介業者(民間登録会社)に橋渡し等を行ってもらえます。費用は一切かかりません。

 

ただし、事業引継ぎ支援センターの仕事は、M&A仲介業者に紹介するまでとなります。その先の相手探しは仲介業者次第となりますので、費用や成約率はまちまちです。

M&Aの相手を見つける方法③ 税理士や経営コンサルタントに相談する

3つめは、税理士や経営コンサルタントなどに相談する方法です。税理士や経営コンサルタントの中にはM&Aに強い専門家がいます。先程、M&Aのデメリットをお話する中で「よい仲介者」を探すことが大事といった折に、具体的に5つ条件を挙げました。

 

(1)広い情報網を持っている


(2)自社のことをよく理解してくれている

(3)M&Aや事業承継の実績が多い


(4)税制面や法的な分野に強い


(5)人として誠実である

 

それぞれについて説明します。

 

(1)M&Aを多く扱っている専門家は幅広いネットワークを持っています。専門家同士の繫がりであったり、M&Aセンターなど大手の仲介会社と連携していたりなど、独自の情報網を駆使して最適のマッチング相手を探してもらうことができます。中小企業のM&Aは近隣の会社同士で行われることが多いですが、場合によっては全国規模で探してもらうことも可能です。

 

(2)相応しいマッチング相手を見つけるには、担当する会社の特性や魅力を把握していることが不可欠です。M&Aのマッチングはお見合いと似ていて、企業同士の相性が非常に大事になってきます。

 

お見合いの仲介をするプロの仲人は、自分が担当する相談者の人柄や好み、相手に求める希望や条件、家族関係などを深く知ったうえで、「この人となら合いそう」と思った人を紹介します。成婚率の高い仲人になればなるほど、相談者のことをよく知っています。場合によっては、相談者本人以上に本人のことを理解しているものです。だからこそ、ピッタリの相手を探してこられるのです。

 

企業同士のマッチングでも「担当する会社への深い理解」がなくてはなりません。そういう意味では、以前から付き合いのある顧問税理士がM&Aもやってくれるとよいのですが、現実にはなかなかそうもいきません。M&Aは日頃の税務とはまったく仕事内容が違って、専門知識やノウハウが必要だからです。顧問税理士がたまたまM&Aにも強くて、積極的に力になってくれるのなら、ラッキーといえるでしょう。

 

(3)顧問税理士がM&Aは専門外だという場合は、M&Aや事業承継を数多くやっている専門家を他に探しましょう。

 

M&Aについても最近人気なので、経験の浅い専門家が増えることが予想されます。本当に実績のある専門家を選ぶことが大事です。実績があるかどうかは、「いつ頃からM&Aを扱っているか」「何件くらい経験があるか」「成約率はどれくらいか」を直接本人に尋ねるとよいでしょう。

 

私は1992年にM&Aの仲介会社を設立し、顧問先の事業承継の方法としてM&Aを手掛けています。M&Aの相談が増えてきたことから、2013年に職員をM&Aセンターへ出向させ、2年前より社内体制を整え、専任のM&A担当者を配置しました。おかげで多くのネットワークができました。

 

最近は、税務は今まで通りの税理士に依頼して、事業承継やM&A、相続は専門の税理士へ相談される方が増えています。うちでもセカンドオピニオンとして関与させていただいている例も多数あります。

 

(4)M&Aの専門家だからといって、M&Aだけができればよいという話ではありません。M&Aをしようと相談に来る経営者でも、話をよくよく聞いていくと「M&A以外の可能性もあるのでは」と思えるケースがあります。

 

たとえば、その方に成人した息子がいて他社で働いているような場合です。親子で事業承継について話し合ってみれば、意外にすんなり息子が継ぐというかもしれません。親の側が遠慮をして承継を話題に出さないというのも結構あるのです。

 

もし息子が継ぐといったら(もちろん息子に経営能力があることが前提です)、M&Aではなく、自社株をどうやって承継していくかが課題になります。株価が高いケースは、特例事業承継税制を使って承継するのがよいのかどうか…。といった話になってきます。

 

いくつもの選択肢の中からベター、ベストな1つを選び取るためには、M&A以外の広い知識と経験が必要です。

 

(5)人として誠実であるというのは、M&Aに限らずどんな仕事でも基本です。人としていい加減であったり、真心がなかったり、人の話を聞かなかったり、自分が楽して儲けることが第一であったりする人とは信頼関係が築けませんので、M&Aのような大事な仕事は任せられません、どうしても業界柄、数字、利益、損得で物事を判断しがちです。顧客やその家族だけでなく、顧客の周りにいる人たち(従業員や取引先、ひいては地域社会の人々)の利益や幸福を考えて動ける専門家をぜひ探してください。

M&Aの相手を見つける方法④ M&A情報サイトを利用する

4つめは、M&A情報サイトを利用する方法です。中小企業M&A最大手の日本M&AセンターなどがM&Aに関するサイトを運営しています。また、最近では『トランビ』や『バトンズ(アンドビズ)』など新しいM&A情報サイトも誕生しており、人気です。転職サイトの株式会社ビズリーチや有限責任監査法人のトーマツでさえも、中小企業M&Aの分野へ進出しています。

 

大手のM&A仲介会社は、どちらかというと扱う案件も大企業や中堅企業が多くなります。本書の読者として想定している中小企業は、売上規模が数千万円から数億円くらいの会社なので、そうするとマッチングが難しくなるかもしれません。最初の入り口となる手数料がそれなりに高いので、それだけでもハードルが高くなってしまいます。

 

そういう場合は、トランビやバトンズ(アンドビズ)などを利用するとよいと思います。トランビやバトンズ(アンドビズ)は、〝小さな会社のためのM&A情報サイト〟です。サイトに自社の情報を掲載するための会員登録料や利用料は無料です。

従業員10名以下の小さな会社でもM&Aできる時代

トランビやバトンズ(アンドビズ)など中小企業向けのM&A情報サイトでは、ネット上のオンラインでM&Aのマッチングができます。

 

売り手が自分の会社の情報と希望売却価格を提示してサイトにアップすると、それを見た買い手が「詳しい話が聞きたい」とアプローチしてくる仕組みです。両者で話し合いや交渉をして、条件が折り合えば契約締結、売買へ……という流れになります。

 

実際のサイトを見ていただくと分かりますが、たとえばトランビでは、常時400件を超える売り物件が出てきます。売り手・買い手を合わせたユーザー数は2万社を超えています。

 

業種は飲食店から小売業、製造業、サービス業、IT業、医療介護事業まで多種多様です。中にはブログやSNSのアカウントを売りに出している案件もあります。人気のブログやSNSになるとフォロアーが何千人、何万人とついていることが珍しくありません。そのフォロアーごと買い取りたいという希望があるのです。

 

売却希望価格も1000万円以下から億円を超えるものまで幅が広くあります。中心層としては数千万円〜1億円あたりが多いようです。

 

肝心の成約率ですが、バトンズ(アンドビズ)を例にとると、134件(2018年8月時点)の成約がネットのシステムだけで成立しています。売り手が物件の登録をしてから交渉成立まで、早いと2〜3カ月ということも珍しくないようです。この圧倒的なスピード感は、インターネットならではです。

 

このように、今は小さな会社でも売り買いができる時代になっています。まるで中古車をオンラインで売買するくらいの気軽さです。

 

この動きを受けて、税理士会全体でもインターネットでM&Aマッチングができる仕組みを作ろうとしています。日本税理士連合会(日税連)は税理士の指導、監督をする税理士法で設立が義務付けられている法人で、全国での税理士会で構成されています。税理士業務を行うには必ず税理士会に所属しないと業務ができず、その上部団体が日税連なのです。

 

つい先日、会員である税理士がインターネットを通じて会員同士でM&A情報をやり取りする『担い手探しナビ』というインターネットサイトを通じ、親族外の事業承継に取り組むことが発表されました。

 

中小企業の事業承継対策は、官民あげて喫緊のテーマです。補助金や税制など様々な施策が用意されているこの時期に、しっかり検討していきたいものです。

 

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