グループ全体で200人規模ながら、求人に年間600人近い応募が寄せられる建設会社の代表・瀬古恭裕氏の著書『社員が好きなように働く会社』より一部を抜粋し、「質の高いお客様」を確保する方法について解説します。

良いものを適正な価格で提供する

私は基本的な営業戦略として、高品質なものを適正な価格で売りたいと考えています。お客様の立場になり、お客様にとってのメリットとコストのちょうどよいバランスを追求するイメージです。決して「安売り」はしません。

 

そして、社員に対しては常に、「社長について、お客様から2つのクレームが来ても気にしないでほしい」と言っています。ひとつは、「瀬古は思い通りの時間に来ない」ということです。発注業者が絶対という業界なので、下請けは指定した時間に行くのが当たり前なのですが、私は「この時間でないといけません」と平気で言うのでよく怒られます。

 

これは、他の仕事との兼ね合いで本当に時間が取れなかったり、優先順位を考えたら後回しにせざるを得ないと判断しているからです。もうひとつよくあるクレームは、見積もりが高いということです。「他にはもっと安いところがあるのに」とよく言われます。

 

もちろんケースによってはお客様のご要望に合わせることもありますが、競合他社に対して価格で勝とうとは思っていません。それを呼ばれた時間に行って、言い値でやっているだけでは、悪かろう安かろうで差別化できません。提案力や工事の品質などトータルにみて判断していただきたいと考えています。

 

電気工事業はゼネコンの下請けが多く、自分たちで工事価格を決められるわけではありません。しかし、だからといって下請けの場合、言われるままの納期、言われるままの費用で受注していても、会社は強くなりません。少し高いけれどしっかりした仕事をしていると、建設工事の下請けであっても質の高いお客様との取引が増えていきます。その結果、社員も鍛えられ、会社としてのレベルが上がっていくのです。

 

新規開拓についても、ただ「仕事をください」というのではなく、「私たちの会社はこういう方針で、こういう仕事をします」とアピールすることで、質の高いお客様を求めていっています。

何よりも原価管理にこだわる

私が経営で何よりも重視しているのは、原価です。原価を適正に管理すれば、利益は自ずとついてきます。「そんなこと、当たり前だろう」と思われるかもしれませんが、建設業では意外にそうではありません。会社によって差がありますが、建設業ではいまだに売上にこだわる傾向が強いのです。

 

理由のひとつは、売上の多寡が業界におけるランクの目安とされていることです。競合他社より少しでもランクを上げることがステータスにつながり、受注できる案件の規模にも関係するといわれます。

 

しかし、かつてのバブル崩壊後と同じように、いつまた建設不況がくるともしれません。売上重視で原価管理が甘くなっている建設業は、あっという間に赤字に転落してしまうでしょう。

 

その点、私たちの会社は昔もいまも、売上より原価にこだわっています。なぜなら、原価を管理することで粗利(売上総利益)を確保しやすくなるからです。いくら売上が大きくても、原価割れで赤字になっているようでは、会社は倒産してしまいます。

 

さらにいうと、粗利の計算上、原価にどこまでの経費を含むかも重要です。建設業では通常、原価には現場の人件費は含みません。原材料費と外注費、その他の現場諸経費を売上から差し引いて粗利(売上総利益)を計算しています。

 

しかし、私たちの会社では原価に現場の人件費や、さらに本社の間接部門などの経費まで含めて計算するようにしています。これらは通常、販管費といって、粗利(売上総利益)ではなく営業利益の段階で計算するものです。

 

こうすると、粗利(売上総利益)は低く見えますが、粗利から販管費などを差し引いた営業利益、そして経常利益でのブレが少なくなります。また、現場ごとにどれくらい儲かっているのかを細かく把握でき、赤字になりそうなときは早めに手を打つことができます。年度末に会社全体の会計を締めて初めて、どれくらい儲かったのかが分かるような経営とは、スピード感が違います。

 

 

いま述べたように、私たちの会社では、総務・経理などの間接部門の人件費も部門別に割り振るようにしています。間接部門の仕事は全社に関わるものであり、部門別に割り振るのは簡単ではありません。しかし、日報による業務報告をもとに、どんな業務を何時間行っているのかが分かれば、それなりに割り振ることはできます。

 

私たちの会社では同業他社が販管費の処理をどのように行っているのかといったことも詳しく分析しています。個々の様々な経費をきちんと把握し、それを現場ごとの原価に落とし込み、さらに合理化を図ることで、間違いなく価格競争力がアップします。相見積もりのときにはそれが、大きな武器になります。例え同じ金額で見積もりを出したとしても、私たちの会社のほうが利幅は厚く、それを人員や部材などに使うことで工事の品質を上げることができます。

 

こうした現場ごとの予算管理の考え方は、京セラの創業者である稲盛和夫氏がおっしゃっている「アメーバ経営」を参考にさせてもらっています(関連記事『役職・年齢関係なし!? 常識を覆す「クラスター型組織」とは?』)。建設業と製造業ではやや違うところはあり、建設業向けにアレンジしていますが、基本的な考え方は同じです。

手が届く会社を目標にする

私はこれまで、自分たちより売上が2〜3倍の会社を目標にし、そういう会社を目指す経営を心掛けてきました。売上や利益はもちろん、販管費、社員数、平均年齢、技術者の内訳、取引先などを細かく分析し、参考にします。このやり方は創業当初から変わりません。自分たちと同格の企業と比べても、気付きがありません。

 

あまりにかけ離れた規模の会社でも、参考にはなりません。頑張れば追いつけそうな、ちょっと上の企業こそ、具体的な目標としてちょうどいいですし、参考になる点も多いのです。

 

 

瀬古 恭裕

株式会社鈴鹿

 

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