今回は、前回の続きとしてサンフランシスコ・ベイエリア、オークランドの住宅事情を見たうえで、米国では築年経過による不動産価値の下落がない理由や、今後の物件価格の予測について見ていきます。

全米有数の家賃成長を記録しているオークランド

前回に引き続き、サンフランシスコ・ベイエリアにおける住宅事情の現状と、過去の推移を数字で検証してみましょう。

 

オークランド市はサンフランシスコ湾を挟んでサンフラシスコ・ダウンタウンの対岸にある都市です。1906年サンフランシスコ大地震後、避難地として急速に発展しました。また、全米でも有数の港湾都市となっており、人種も多様化しています。

 

[図表1]オークランド大都市圏 (単位:千戸)

 

 

サンフランシスコ・ダウンタウンまでBARTで15分の位置にあることから、サンフランシスコの住宅高騰を受け、この数年は全米でも有数の家賃成長を記録した街です。

 

[図表2]サンフランシスコとオークランドの位置関係

 

[図表3]オークランド市における人種分布図(2013年時点)

 

SF市内の「古い物件」でも価値が下がらない理由

一方、当該住宅調査によれば、この10年で賃貸物件のメンテナンス不足は改善していますが、サンフランシスコ市内にある築75年超の建物の49%では、基礎・外壁・下水管等でなんらかの問題が起こっています。また、サンノゼ市内にある築35年以内の建物の39%では、屋根・電線・暖房施設・漏水等で問題が生じています。

 

前回から見てきたように、米国における住宅の特徴として「建物が古い」ということが挙げられますが、これは米国税法上、法定耐用年数が経過していても取得時からゼロスタートで長期間の償却を取らなければならないことに起因するほか、米国では価値が収益還元・取引比較に基づき算出されることから、築年経過による価値下落(戸数の増加による付加価値創造)はなく、平気で100年超で使いまわす経済合理性が働いているものと考えます。

 

ニューヨーク市住宅公社の2013年の委託調査によれば、彼らが所有する古い賃貸住宅の再開発を検討した際に、大規模改修を行った方が改修費は再開発費用の26%で収まるという検証もあり、再開発をしなかったことは、米国人の住宅に対する考え方がわかる一面と言えましょう。

 

このように、「建物が古い」マーケットではあるものの日本と違って価値が落ちず、むしろ値上がりしているという現実があります。

小規模アパート以外は大幅な価格上昇を見せる近年のSF

最後に、サンフランシコ市内における過去10年程度の形態ごとの不動産価格推移を見てみましょう。

 

[図表4]サンフランシスコ市内中間価格推移(単位:千ドル)

(出所:Zillow, Paragon)
(出所:Zillow, Paragon)

 

※参考数値:サンフランシスコのアパート 当たり売買単価(単位:千ドル)

 

過去10年間で、小規模アパート以外いずれの種類においても大幅な上昇を経験しました。区分所有・戸建てのボラティリティが大きい一方9戸以上のアパートは、価格面で安定しています。

 

場所的な面からみると、サンフランシスコ中心部に比べ、サンフランシスコ周辺部の方がきつい下げの傾向にあります。また、シリコンバレー周辺では、特に大手IT企業群の通勤圏内では特に住宅価格の高騰がみられます。ここではやはり経済と不動産の密接な相関があると言えます。

 

[図表5]シリコンバレーにおける中間住宅価格

(注)サンフランシスコ、サンノゼ大都市圏およびアップル、グーグル、フェイスブック従業員の住宅価格推移
(注)サンフランシスコ、サンノゼ大都市圏およびアップル、グーグル、フェイスブック従業員の住宅価格推移

 

ここで気を付けなければならないのは、借家人保護の観点から市町村政府よって規定している「レント・コントロール(家賃値上げ規制)」です。ニューヨーク、ロサンゼルス等、全米大都市で規制導入されていますが、サンフランシスコ・ベイエリアでは、以下の市町村が、大小あれ、何らかの規制を行っています。米国では日本のように借家権が強くないため、市町村政府が不動産所有者に対し、所有権に家賃上昇に関する規制をかけています。

 

★サンフランシスコ

★サンノゼ

★オークランド

★バークレイ

★イースト・パロアルト

★ヘイワード

★ロスガトス

 

サンフランシスコのレント・コントロールについて、簡単に見てみましょう。

 

【規制対象】

●1979年6月13日以前に建築占有された建物

●1996年1月1日以降に借家人が占有することになった戸建て、タウンハウス、コンドは対象外

●政府系、ホテル、病院、学生寮は対象外

●家賃値上げは、市が規定するCPI連動率の範囲内(但し設備投資等の例外規定有)で所定の手続きを経て可能

●前回値上げ時より12カ月以内は不可(ちなみにサンフランシスコ市は2016年3月から適用するCPI連動率は1.6%としている)

 

既存テナントがいる限り市場家賃は取れません。当然ながら立ち退きにも一定の規制があります。

 

サンフランシスコ市で1980年以前に建築された建物は91%を占めることから、ほとんどのアパートがレント・コントロールに該当してしまい、またアパート新規開発が大規模化しているため、サンフランシスコ市内の小中規模アパートがレント・コントロールに引っかかり、規模の大きいものに比較すると、これのために値上がり率が低くなっています。

 

一方、サンノゼ市のレント・コントロールは、サンフランシスコ市に比べると革新的です。

 

【規制対象】

●1979年9月7日以前に建築占有された建物

●2戸までの戸建て(いわゆるDuplexを含む)、タウンハウス、コンドは対象外

●政府系、ホテル、病院、学生寮は対象外

●家賃値上げは、前回値上げ時より1年で最大8%、もしくは2年で最大24%まで

 

となっています(設備投資等の例外規定なし)。

 

この範囲であれば、過去の家賃成長率を勘案すればカバーされるものですね。ただし、現在サンノゼ市は規制の見直しを協議しだしましたので、注視する必要はありそうです。

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