前回は、不動産活用成功のポイントである「管理力」について説明しました。今回からは、不動産を使った具体的な相続対策について見ていきます。

パートナー税理士と協力して「破たん」を予防

今回からは、富裕層の破たんを招く危険性をはらんだ事例を用いて、不動産を使った具体的な相続対策を説明していきます。筆者が富裕層からご相談を受け、ソリューションをご提供してきた実際の例をもとに、富裕層にありがちなシチュエーションを想定しています。

 

特に不動産を資産承継、維持に利用する方法としては、大きく分けると以下の4パターンがあります。

 

①不動産以外の資産を不動産に換える。

金融資産を不動産に換えることで相続税を圧縮する、収益性を高めて承継する資産を安定させるなどの効果を狙います。

 

②収益の上がらない不動産の収益を上げる方法を探る。

収益の上がらない不動産から立地を変えて収益の上がる不動産に買い換える、空室の多い不動産の管理方法を変えることで空室を解消して、収益性を高めるという、大きく2種類の方法が考えられます。

 

③不動産の所有者を変える。

不動産管理会社を設立し所有する方法が一般的です。

 

④不動産を事業承継のためのツールとして使う。

遊休不動産の活用により、事業承継に必要な対策を取ることができます。

 

以降の回でご紹介する6つの事例は、この①から④のソリューションをあてはめることで問題解決につながった事例と、正しい対策を取らず相続に失敗した事例です。なお、私たちが提供する全てのソリューションにおいては、税務の問題が密接に関係してくるためパートナー税理士の協力のもと、提案から実行支援まで行っています。

対策の立案に向けて「リスク要因」を洗い出す

最初の事例は経営の先行き、社内の人間関係などに不安を感じていた中小企業の経営者が、パターン①の「不動産以外の資産を不動産に換える」方法を利用し、資産を承継したものです。

 

父の代から40年にわたって自動車関連部品製造業を営むAさんは、リーマン・ショックの影響で、平成20年から苦しい経営状況に追い込まれました。しかし、高い技術力でなんとか乗り越え、幸いなことにここ数年は好調で安定し推移しています。売上高は年間12億円。経常利益は1800万円です。

 

資本金は1000万円で、発行株式数は20万株。株主は代表者であるAさんと、親族であり役員を務めるBさん、Cさんです。そのうち、Aさんが8割を所有していました。主な保有資産は工場と事業用の土地。社員は30人です。

 

さほど問題を抱えているようには思えませんが、Aさんにはいくつかの悩みがありました。

 

 

1つは、事業の将来に不安があることです。ここ数年は安定しているものの、近年主要取引先の数社が生産を海外へシフトしており、Aさんの会社が製造している部品もいずれは海外生産に切り替えられるかもしれません。

 

そうなった場合、主要取引先数社に依存してきただけに、今から他業界に移行しようとしても商品開発が追いつきません。非常に難しい事態が想像されました。

 

 

近年の労働環境の厳しさも不安の要因です。現在は社員が高齢化しつつあるものの、なんとか確保できていますが、今後も安定した労働力確保ができるかどうかという問題もあります。これまで高い品質で他社との差別化を図ってきましたが、その技術の伝承も大きな課題です。不況時に新人採用ができなかったため、人材が育っていないのです。景気が上昇傾向であれば中小企業の採用はますます厳しくなります。

 

さらに近隣住民からの苦情が増加傾向にあることも悩みでした。もともとは工場の多いエリアに立地していたものの、経済状況の悪化で廃業が相次ぎ、周辺の宅地化が進むようになりました。住宅が増えたことで、騒音などに関して苦情が出るようになったのです。

 

そしてもうひとつが会社内部の問題です。役員を務めるBさん、Cさんは親族ではあるものの義理の縁。意思疎通があまりうまく行えていません。現在修業中の息子が後を継ぐようなことにでもなれば、ひと悶着起こりかねません。そんな面倒を息子にかけさせることを、Aさんは心苦しく思っていました。

 

さらに、その状況下で相続を迎えるとすると問題が出てくることが分かりました。というのも、Aさんの相続税対象となる資産は大半が自社株だったからです。

 

この話は次回に続きます。

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    本連載は、2015年1月23日刊行の書籍『大増税時代に資産を守る富裕層の不動産活用術』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。本書を利用したことによるいかなる損害などについても、著者および幻冬舎グループはその責を負いません。

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    磯部 悟

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