東京…大量供給と景気減速で、賃料は下落傾向へ!?
[東京のオフィスマーケット]
労働需給が逼迫するなか、立地改善や集約による新築大型ビルに対する需要は堅調。しかし、2019年・2020年の2年間で、「丸の内・大手町」エリアのオフィス面積の7割に匹敵する50万坪が新たに供給される。景気の減速も受けて需給は緩和、テナント誘致競争による賃料の値下げ圧力が徐々に強まり、2019年後半にも賃料は下落し始めると予想される。
2018年の新規供給25万坪は、2000年から2017年までの過去平均18万坪を7万坪上回る大量供給だった。にもかかわらず、東京オフィス市場では依然として需給タイトな状況が続いている。好調な企業業績を背景に、2018年の新規需要はプラス29万坪と、新規供給を4万坪上回る見通し。2018年末時点のオールグレード*の空室率は前年末に比べて0.6ポイント低い0.9%と、調査開始以来初の1%割れで着地する見込み。
*オフィスのグレードは[図表6]を参照
2018年は、大企業を中心に立地改善や、大型オフィスへの集約の動きが広がった。労働需給が逼迫するなか、従業員にとっての執務環境改善が、多くの企業にとって経営上の重要課題の一つになっているとみられる。そのため、まとまったスペースを確実に確保したい企業は、契約期間満了前の早い段階から移転を検討する傾向が強くなっている。さらに、竣工前にテナントの内装工事が可能なケースが増えていることもあり、2018年に竣工した新築ビルのほとんどが、平均で9割を上回る高い稼働率でスタートした。一方、オフィススペースの拡張ニーズも引き続き強い。実際、新築ビルに移転を決めたテナントの移転元ビルでは、既存テナントが増床する事例が多くみられている。そのため、二次空室は当初の想定ほど発生していない。
2018年の大型移転の上位3業種は、IT、製造業、そしてプロフェッショナルサービスが占めた。プロフェッショナルサービスのなかでは、コワーキングオフィスオペレーターによる新規開設が特に目立っている。オフィス成約面積に対するコワーキングオフィスの開設面積の割合は、2017年の2.3%から、2018年上半期には8%に急上昇した。大企業による利用も増えているコワーキングオフィスは、2018年のオフィス需要の主要ドライバーのひとつとなった。
2019年に予定されている新規供給は約20万坪。そのうち、グレードAは10万坪で、いずれのビルもリーシングはきわめて順調だ。フリーアドレスやABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)に対する注目が高まるなか、面積効率の良い大型ビルに対するニーズが高まっている。ただし、2020年の新規供給は全グレードで30万坪と、2003年の35万坪に次ぐ規模が予定されている。また、2019年後半には米国の経済成長の鈍化が予想され、これが日本経済にも波及するとみられる。そのため、2019年後半からは、新築ビルのリーシングの遅れや、既存ビルでの二次空室発生といったリスクが次第に高まるだろう。
オールグレードの空室率は緩やかな上昇に転じ、2019年には1.4%、2020年には2.0%まで上昇すると予想する。今回新たに公表する東京オールグレードの賃料は、上位グレードに遅れて動く傾向のあるグレードB未満のビル(全体棟数の60%)による影響から、2018年末時点では対前年末比5.2%上昇の22,040円/坪となる見通し。大量供給が予定されている2020年には、テナント誘致のための賃料値下げ圧力が徐々に強まるとみられ、2018年末比で1.4%下落すると予想する。
グレードAの空室率は、2018年末時点で対前年末比-1.0ポイントの0.8%となる見込み。2017年に続き、2018年に竣工したビルはほぼ満室状態。2019年の新規供給は10万坪と2018年の半分以下で、全体のテナントの内定率は70%以上と推定される(2018年11月現在)。2020年は、再び20万坪超の大量供給が予定されている。テナントの内定率は現時点で20%程度とみられるが、経済状況が急変しない限り、内定率は今後徐々に高まっていくだろう。それでも、予想される経済成長の鈍化に鑑みて、新築ビルの竣工時の稼働率は2018年に比べて低下する可能性がある。また、既存ビルの二次空室の発生も考えられることから、グレードA空室率は2020年末までに3.0%程度まで上昇すると予想する。
グレードAの想定成約賃料は、2018年末時点で対前年末比+2.6%の37,400円/坪となる見通し。割安感のあるビルの募集賃料が引き上げられたことを主因として、年間の上昇率は前年2017年の+1.4%を上回る見込み。しかし、2019年には空室率が上昇に転じるとみられることから、賃料は2019年後半から調整局面入りすると予想する。2020年末時点の賃料は対2018年末比で-2.7%と予想。
グレードAマイナスの空室率は2018年末時点で対前年末比-0.5ポイントの1.0%となる見通し。2019年と2020年に予定されている新規供給は年平均で6.3万坪。2018年には、グレードAマイナスのビルから、新築を中心とするグレードAビルへの移転事例が多くみられたものの、テナント退去後の空室は館内増床などで消化されてきた。しかし、2020年にかけてグレードAビルの供給が再び増加することに伴い、既存のグレードAマイナスビルでは、築年数の古いビルを中心に二次空室が徐々に積み上がっていくとみられる。このため、空室率は2019年末で1.8%に、2020年末には2.4%に上昇すると予想する。2020年末時点のグレードAマイナスの賃料は対2018年末比-2.9%と予想。
グレードBの空室率は2018年末時点で対前年末比-0.6ポイントの0.9%まで低下する見込み。2019年と2020年に予定されている新規供給は年平均でわずか2.2万坪で、過去平均3.1万坪の70%にとどまる。このため、空室率は2020年末時点で1.2%程度に抑えられるだろう。2020年末時点のグレードBの賃料は、対2018年末比で-1.1%と、他のグレードに比べて緩やかな調整にとどまると予想する。
大阪…ひっ迫したオフィス需要で、賃料上昇は続く
[大阪のオフィスマーケット]
2018年の空室率は、全グレードで調査開始以来の最低値からのスタートであった。中堅・中小企業から大企業に至るまでの旺盛な床需要は、過去最大級の5.5万坪の新規需要を記録した2017年の勢いそのままだったといえる。新規供給も1万坪にとどまったため、1年を通じてグレードAの空室率は1%を下回り、グレードBならびにオールグレードの空室率は2%を下回った。2019年は新規供給がなく、2020年は1.2万坪にとどまる予定で、2018年末時点のオフィスストックに対してわずか0.8%に過ぎない。大型ビルの供給が本格化する2022年まで、大阪オフィス市場は需給が逼迫した状況が続くだろう。
オールグレードの空室率は2020年末時点で対2018年末比+0.2ポイントの1.9%に上昇する見込みだが、需給がタイトな状況に変わりはない。そのため、大阪のオールグレード賃料は同+6.6%と大きく上昇すると予想する。グレードAの空室率は2020年末まで1%割れが続き、賃料は同+5.6%の25,350円/坪と予想され、2010年Q1のボトムからの上昇率は39%に達する。グレードBの空室率は2020年末まで2%割れが続き、賃料は2018年末比+6.8%の14,150円/坪と予想され、2013年Q4のボトムからの上昇率は35%に達する見込み。
名古屋…大型供給はなく、当面は貸し手優位な状況か⁉
[名古屋のオフィスマーケット]
2018年は幅広い業種で館内増床や拡張移転の動きがみられた。また、空室率の低下が続くなかで、スペース確保を急ぐ企業の動きも目立った。グレードAでは1棟竣工があったものの、自社ビルを建て替える企業による一棟借りとなり、需給タイトな状況に変わりはない。2018年の新規需要は、新規供給0.9万坪を上回るプラス1.8万坪となり、2018年末時点でのオールグレード空室率は1.0%と、調査開始以来の最低値を更新する見込み。
2019年・2020年の2年間の新規供給は、グレードAはなく、グレードBを中心に、合計1万坪を予定。2019年竣工予定のビルのリーシングは順調で、2棟いずれも高稼働での竣工が見込まれる。2020年に竣工予定のビルのリーシングが本格化するのはこれからだが、既に引き合いは強い。そもそも新規供給の規模が限定的であるうえに、リニア新駅開発に関わる立ち退き移転が見込まれるため、貸し手優位な状況は当面続くと考えられる。
オールグレードの空室率は、2020年末時点で対2018年末比+0.7ポイントの1.7%に上昇する見込み。しかし、需給タイトな状況に変わりはなく、名古屋のオールグレード賃料は2年間で7.7%の上昇を予想する。グレードAの空室率は2020年末まで1%を下回る状況が続き、賃料は同+3.0%の27,150円/坪と、2007年につけたピーク賃料の27,350円に近付くだろう。2015年Q2のボトムからの上昇率は28%に達する見込み。グレードB空室率は2020年末時点で対2018年末比+1.3ポイントの2.2%まで上昇する見込み。しかし、築浅ビルを中心に需給タイトな状況が続くと想定されるため、賃料は同+8.4%と大きく上昇すると予想する。
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