今回は、会社の全社員のモチベーションを上げるべく、アミダくじで金の延べ棒をプレゼントする企画を実行した社長のエピソードを紹介します。※本連載では、株式会社吉寿屋相談役・神吉武司氏の著書、『社員の能力を劇的に伸ばす すごいご褒美 』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、社長が贈る「ご褒美」によって社員のやる気を引き出し、企業の生産性を高める具体的な方法をレクチャーしていきます。

「じゃんけん大会」で36インチ液晶テレビをプレゼント

 法則  役職や雇用形態に関係なく公平に分配する

 

当社の従業員は正社員とパート社員(吉寿屋では「準社員」と呼びます)、アルバイトを合わせると全部で400名ほどになります。また男女の比率では女性が8割を占めます。つまり準社員と女性社員に活躍してもらうことが社業発展には不可欠であり、正社員と準社員、男性と女性にかかわりなく、一生懸命に働いてくれた人には公平に報いたいと考えています。

 

そのような考えのもとに〝成果還元型〟のご褒美を設けることで、ほとんどの社員が目標を持って自分の力を発揮してくれました。

 

一方で現在は個人よりも全社員に渡すご褒美が多くなっています。成果を出した社員だけでなく、私から見るとすべての社員がそれぞれの能力や役割、立場で一生懸命に働いてくれているからです。

 

成果を出した社員、残念ながら結果が振るわなかった社員、頑張り屋の社員、そうでない社員…みんな私の大切な社員です。そのすべての社員を労ねぎらい、今以上に幸せになってもらうのが経営者の努めであると考えています。

 

もちろん、「自分は一番良い成績を残したのだから、自分だけの特別なご褒美が欲しい」と思う社員がいても不思議ではありません。ですが、当社では毎月のようにさまざまな報奨がもらえるので、幸いにもそうした不満の声が聞こえてくることはありません。

 

ご褒美を渡す際に大切にしているのは「公平」さです。一部の社員しか達成できないような難易度の高い目標を設定すると、「私には無理だ」「自分には関係ない」と思う人が出てしまいます。それでは「公平なご褒美」とは言えません。

 

ご褒美の目的は全社員を今以上に幸せにすることですから、もらえるチャンスをできるだけ公平に与えることが大切です。全社員が自ら参加意識を持って、楽しめるよう工夫を凝らさなければなりません。

 

例えば、朝礼後の全員参加による「じゃんけん大会」や「アミダくじ」で商品をプレゼントしたほか、前述のような勤続年数による表彰、本人や家族の誕生日、子どもの進学祝いや新築の祝いといったものを提供してきました。

 

例えば「じゃんけん大会」では、お年玉プレゼントとして36インチの液晶テレビ(当時の定価5万円)を7台用意し、勝ち抜いた人にプレゼントしたこともあります。そのほか2014年には創業50周年の記念事業の一環で「社内宝くじ」を実施したこともありました。正社員には3枚、勤務時間が長い上位40名の準社員には2枚、アルバイトには1枚ずつ無料で渡し、抽選会を開きました。

 

宝くじなら平等に当たるチャンスがありますし、正社員ほど当たる確率が高くなるような配慮もしています。このときは1等の100万円が1名、2等の10万円が2名、3等の1万円が10名で大いに盛り上がりました。

 

ほかにも、社員の家族も対象とした「よしや宝くじ」を開催したこともあります。

 

既婚者には自分の家族の名前を、独身者ならお母さんの名前をカードに書いて箱に入れてもらい、私が当たりカードを引いて当選者を決めるのです。1等の賞金は10万円(子どもなら3万円)、2等は2万円、その他、5000円が50名、さらに野菜セット、お菓子セットなど、全部で100名くらいが当選するような工夫をしました。

 

以前は本物の宝くじを購入してプレゼントしていたのですが、当選確率が悪く、結局、一度も当たりませんでした。「それならば・・・」と京都支店長から「購入費用を全額賞金にして『社内宝くじ』を作ったらどうでしょう」と提案があり、よいアイデアだと思って採用したのです。法律の問題などをクリアして始めたところ、とても楽しい時間を全社員で共有することができました。

 

1年を通して全員が何かをもらえるよう、また、ゲーム性があって抽選を楽しめるよう試行錯誤を重ねていったのです。こうした「ご褒美」を軸としたワクワク感が社業発展を下支えしてくれているように思います。

きっかけはオリンピックで見た「金メダル」

【事例】 金の延べ棒プレゼント

 

誰もがもらえるチャンスのあるご褒美で最高額の報奨です。この規格外のご褒美を思いついたきっかけは約10年前、2008年の北京オリンピックでした。

 

50周年記念事業の目玉となるご褒美を検討していたとき、オリンピックで優勝した選手が表彰台で金メダルを誇らしげに掲げているのを見て、「社員に本物の金メダルを渡したら喜んでもらえるのでは」と直感したのです。

 

早速、百貨店に足を運んで「金メダルを作ってほしい」と依頼したところ、オリンピックと同程度のサイズにするには190グラムほどの金が必要だと分かりました。2008年当時の金の値段は1グラム2800円ほどだったので、190グラムなら53万2000円です。さらに金型代や加工代など合計160万円になるという話でした。

 

金額自体には問題はなかったのですが、仮に当選した社員が売却する場合、金の値段である53万2000円ほどの価値しかありません。金型・加工代のおよそ106万円は金メダルの形にするためだけの経費であり付加価値はありません。ならばいっそ、「もう少し奮発して金の延べ棒をプレゼントしたほうがよほど喜んでもらえるのでは」と思ったのです。

 

そこで純度99.9%の純金の延べ棒1キログラムを1名、100グラムを1名に渡すことを決め、早速実行することにしました。期間は2009年6月末の決算からの10年間で、本書を執筆している2018年が最終年度となります(ちなみに2019年2月4日時点で金の価格は1グラム5000円程度で、10年前より2000円ほど高くなっていますから、1.8倍ほど価値が上がっていることになります)。

 

さて、金メダルから金の延べ棒に変更すると決めたのち、次に苦慮したのは抽選方法でした。入社順や成績優秀者とすれば簡単に決められますが、それでは対象が400名ほどいる社員だけに絞られてしまいます。

 

それでは全社員に参加意識を持ってもらうことができず、組織全体のモチベーションアップにつながらないばかりか、行事としても盛り上がりに欠けるのではと思えました。

 

そうして最終的には、勤続5年以上の社員と全準社員を集め、「大アミダくじ大会」を開くことにしたのです。アミダくじなら、営業成績も年功序列も性別も関係ありませんから、文句なしの公平です。唯一の条件となった「勤続5年」は、入社から間もない社員にも、当社で働き続ける励みになればと考えました。

 

また、大アミダくじ大会は1日で当選者を決めてしまうのではなく、半年ほどかけて行うようにしました。まず本社や直営店ごとにアミダくじ大会を個別に実施し、最終的に20名程度にまで絞り込みます。その後、本社で最終大会を開催し、アミダくじのなかの1本に「当たり」のしるしを私自身が書き込み、1本ずつ引いて当選者を決定するのです。

 

金の延べ棒がかかっているわけですから、他のご褒美とはわけが違います。最終候補に残った20名は「我こそは」と希望を抱きながら固唾を飲んで見守り、ついに当たりが出た際の会場の盛り上がりたるや、それはすごいものがありました。

 

この大アミダくじ大会がここまで盛り上がった理由は、その金額の高さも去ることながら、金の延べ棒を引き当てた人を実際に目撃できるところにあります。一般の宝くじは当選確率が低いうえ、当選者を見る機会はほとんどありませんから、本当に当たっているのかどうか、賞金を何に使ったのかなどの実感が湧きにくいのですが、大アミダくじ大会の当選確率は(社員70人として)70分の1(100グラムも入れると200分の1)と極めて現実的です。しかも歴代の当選者たちの喜ぶ姿やその後の結果を見ることもできますから、いやがうえにも期待が膨らみ、ワクワク、ドキドキすることが想像できると思います。

 

これまで大アミダくじ大会は9回開催していますから、合計18人の当選者が生まれています。一度当たれば翌年からは参加できませんが、その代わり勤続5年目を迎えた社員が次々と新規参戦してきます。

 

最終年度となる今年の当選者は誰になるのか──未当選者の皆さんは「今年こそは!」と思っていることでしょう。

「自分自身は控えめに、相手には少し多く」を意識する

このように何かを分け合うことの大切さを学んだのは、今から65年前、私が小学校4年生か5年生の頃でした。ある日、私が友だちと3人で近所を歩いていると、道端に1000円札が落ちていたのです。

 

当時は1000円札紙幣ができた頃で、現在の貨幣価値に換算すると10万円ほどにはなるでしょうか。小学生にとってはとんでもない大金です。驚いた私たちは1000円札が落ちていた前の家に持っていくと「うちのではない」と言われたので、警察に届けることにしました。その後、1年経っても落とし主が表れず、拾った本人である私に返ってきたのです。

 

図らずして1000円という大金を手にした私は、そのとき、ごく自然に「あのときの3人で分けよう」と思いました。しかも自分が多く受け取るのではなく、一緒にいた友だち二人に350円ずつ渡し、私は300円をもらうことにしたのです。

 

家に帰り、父に一度お金を渡して事情を説明しました。すると父から「拾ったんはお前やな?」と聞かれ、「僕が拾って僕の名前で警察に届けた」と答えました。その私の言葉を聞いた父の様子が今でも忘れられません。父は何とも言えず嬉しそうな顔をしたのです。その表情を見た私は学びました。

 

「自分の分をちょっと減らし、みんなで分け合うと喜んでもらえるんだ」

 

以来、経営者として会社を率いる立場になった今日に至るまで、公私にわたって「自分自身は控えめに、相手には少し多く」を意識してきました。経営者が倹約に努め、自分の取り分をちょっと減らすだけで社員みんなが幸せになり、さらに会社の利益もどんどん余っていくことを実感してきたのです。

 

これは仕事に限らず家庭でも同じです。

 

例えば1万円を夫婦で分け合う際、5000円ずつでも平等ですが、自分を4000円にして妻に6000円渡すと喜んでもらえます。それを何度か繰り返せば、「うちの旦那っていい人なのよ」と周りの奥様に自慢してくれるようになるでしょう。親は自分の分を差し置いてでも子どもに食事などを与えるものですが、そんな親の無償の愛情を受けて子どもは心豊かに育っていきます。

 

自分の分をちょっと減らし、みんなで分け合う──これが人生を豊かにする秘訣です。

 

 

神吉 武司
株式会社吉寿屋 相談役

社員の能力を劇的に伸ばす すごいご褒美

社員の能力を劇的に伸ばす すごいご褒美

神吉 武司

幻冬舎メディアコンサルティング

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