不動産賃貸を営んでいる人(不動産所得)の必要経費に関しては、その経費性の判断にとても悩ましいこところがあります。少しでも節税をしたいという気持ちは分からなくはありませんが、本来は経費にならないものまで経費に計上してしまうと、税務調査で否認される可能性が高まります。今回は、不動産所得の必要経費について、税務署と争った事例(平成30年2月1日裁決)を、相続税やその税務調査の実態に詳しい、税理士の服部誠が解説します。

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不動産所得の必要経費に関して行われた税務調査

会社役員のAさんは、役員報酬(給与所得)とともに、不動産の貸し付けによる不動産所得と年金収入(雑所得)を得ていました。毎年の確定申告では、それぞれの所得を合算して申告していました。

 

そんなAさんに対し、税務調査が行われました。

 

税務署は、不動産所得の必要経費を一部否認したため、Aさんは自身の判断で修正申告を行い、追加分を納税しました。

 

しかし、Aさんの修正申告には経費と認められないものが含まれていたため、税務署は、それらを経費から減算した形で所得税と消費税の更正処分を行いました。

 

税務署が必要経費ではないと判断したものは、土地に関する固定資産税のほか、自動車に関する税金やガソリン代などの費用、交際接待費など多肢にわたっていました。そこでAさんは、税務署の更正処分に不服があるとして、審査請求を行いました。

国税不服審判所の判断

国税不服審判所は、経費の一部に関して、Aさんの申告内容を認めました。具体的には、土地に関する固定資産税は、賃料収入を得るために直接の関連があり、かつAさんの業務の遂行上必要なものとしてAさんの主張を認めたのです。

 

一方で交際接待費に関しては、不動産賃貸業務との関連性が乏しく、関与税理士からも合理的な説明や証拠資料の提出がないことから、業務遂行上必要な支出であるとは認められないとして、税務署の主張を認めました。

 

上記2点は、一般的な判断と言えます。ただ難航したのは、自動車に関する諸経費の取扱いでした。自動車に関しては、家事用と業務用の両方が混在しており、明確に区分することが非常に困難だからです。

 

国税不服審判所は、自動車に関連する経費について、所得税法上の必要経費と生活費の区分が曖昧な「家事関連費」の考え方を基本としました。家事用と業務用の両側面がある家事関連費は、原則として経費にはなりませんが、業務の遂行上必要である部分が取引の記録等で区分されている場合に限り、必要経費として認めています。

 

Aさんは自動車の使用方法や頻度を明らかにする証拠として、走行距離の明細や自動車検査証などの資料を提出し、これをもって必要経費に該当すると主張しました。

 

しかし、それらの証拠資料は今回の調査で指摘された自動車ではなく、乗り替え後の自動車のものだったのです。しかも走行距離の計算書は審査請求後に作成されており、実際に使用していた自動車の記録に基づいて作成されたものでもありませんでした。

 

そのため審判所は、自動車の使用方法や頻度が明確にされたとは言えず、また不動産賃貸業の業務に直接必要かどうか明らかとなったとは言えないため、必要経費として認めることはできないと判断しました。

不動産所得の必要経費と税務調査

このように不動産所得は、不動産の賃貸によって生じる所得であるため、必要経費も固定的なものが多く、一般の事業所得のように色々な種類の経費が生じるものではありません。

 

そのため経費であることを主張するためには、客観的にみて、その業務と直接の関係があり、かつその業務の遂行上必要な支出であると認められることが必要です。

 

必要経費に関する税務調査の対策としては、支払先を明らかにして、業務における必要性をきちんと説明できるようにしておくことが求められます。

 

いかがでしたか?

 

本件のようなケースであれば、接待した相手や自動車の利用状況などを正確に記録し、業務の遂行上、必要であったことを証明できるようにしておくことが大切です。

 

不動産所得に限らず事業所得においても、必要経費に関してはこのような点に気を配るようにしましょう。

 

 

服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

 

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本記事は、『税理士法人レガート』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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