相続・贈与に関する課税制度として、覚えておきたいものに「相続時精算課税制度」というものがあります。相続時精算課税制度を活用することで、総額2,500万円までは、贈与税が非課税になります。ただ、相続時精算課税制度を利用すると、年間110万円までの贈与税の基礎控除を受けることができないなど、注意点もあります。今回は、この相続時精算課税制度の詳しい内容と、メリット・デメリットについて、相続税やその税務調査の実態に詳しい、税理士の服部誠が解説します。

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相続時精算課税制度の概要

相続時精算課税制度は、高齢者世代が所有する多額の財産をなるべく早く次世代へ移転し、消費を活性化させることが経済の活性化にも繋がるという考えの基に、平成16年1月1日から施行されました。

 

この制度は、60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子または孫への生前贈与について、子または孫の選択により利用できる制度で、形式は贈与で財産が移転しますが、税金は相続税で精算するという仕組みになっています。

 

もう少し分かりやすく表現しますと、「贈与のときは2,500万円まで贈与税をかけないが、贈与者が死亡したときには贈与者の死亡時の財産とこの特例を使って贈与した財産の合計額に対して相続税がかかる」という制度になります。

 

そして、一旦この制度を選択した場合には、選択した年以降、贈与者が亡くなるまで継続してこの制度を適用しなければならず、通常の暦年課税の贈与に変更することはできない制度となっています。

相続時精算課税制度の適用対象者と対象財産

次に、相続時精算課税制度の「適用対象者(贈与者と受贈者)」と「対象財産の制限」について見ていきましょう。

 

「贈与者」は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母、「受贈者」は贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属である推定相続人(子)又は孫とされています。そして、相続時精算課税制度で贈与できる財産(種類)には何の制限もなく、贈与する金額や回数にも制限は設けられていません。

 

つまり、贈与者と受贈者の要件をともに満たしており、その両者の間であれば、どのような財産であってもこの制度を使って贈与することが可能となります。

相続時精算課税制度を選択した場合の、税額の計算方法

(1)贈与税の計算方法

 

相続時精算課税制度を選択した場合の贈与税は、次のように計算します。

 

贈与税額=(課税価格-特別控除(総額2,500万円まで))×20%

 

つまり、2,500万円の特別控除額までは贈与税がかからず、それを超えたときに一律20%の贈与税がかかる計算です。ちなみに、特別控除は2,500万円が限度となりますが、すでに精算課税制度を利用していた場合は、控除額の残額が限度額となります。

 

(2)相続税の計算方法

 

相続時精算課税制度を選択した者に係る相続税額は、贈与者の死亡時の財産(相続財産)の価額に、相続時精算課税制度で贈与した財産の価額を加算した金額をもとに計算します。

 

ただし、すでに納めた相続時精算課税に係る贈与税額(特別控除額を超えて支払った贈与税)は、この相続税から差し引いて計算されます(厳密には相続税の申告で還付されます)。

相続時精算課税制度のメリットとデメリット

相続時精算課税制度のメリットとデメリットについては、以下のようになります。

 

(1)メリット

 

① 2,500万円の特別控除があるため、多額の贈与を行なうことができます。

 

② 収益物件の贈与であれば、贈与後の収益は受贈者に帰属するため、贈与者の財産の増加を抑えることができます。

 

③ 相続財産に加算される金額は“贈与時の価額”となるため、将来的に値上がりが見込める財産を贈与することにより、値上がり分の相続税を回避することができます。

 

(2)デメリット

 

① この制度を一旦選択すると、通常の暦年課税制度に戻すことはできません。

 

② 贈与税がかからない場合(特別控除額の範囲内)であっても、所定の書類を添えて贈与税の確定申告をしなければなりません。

 

③ この制度を適用して贈与を受けた財産は、将来の相続税の計算において、「小規模宅地の減額特例」が使えません。

 

④ この制度を適用して贈与を受けた財産は、相続税の物納の対象財産にすることができません。

 

このように相続時精算課税制度は、贈与をする際には2,500万円まで非課税になりますが、相続時には相続税と合わせて精算されるため、決して相続税の節税が期待できる制度とは言えません。

 

適用を検討する際は、上記のメリット・デメリットをよく理解したうえで、慎重に判断することが求められます。

 

 

服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

 

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本記事は、『税理士法人レガート』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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