有料老人ホームの入居金が贈与税の非課税財産に該当しないことから、その入居金が結果的に相続税の課税価格に算入された事例(平成23年6月10日裁決)を、相続税やその税務調査の実態に詳しい、税理士の服部誠が解説します。

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妻を主契約者・夫を追加契約者とし、老人ホームに入居

事案の内容は次の通りです。

 

●妻Aは、平成19年4月13日に有料老人ホーム「M」に入居するため、妻Aを主契約者、追加契約者を夫(被相続人)HとするM入居契約を締結した。

 

●妻A及び被相続人Hは、平成19年4月30日に、本件老人ホームの○○号室に入居した。

 

●本件老人ホームは住宅型有料老人ホームであり、全室個室で次のような供用施設を有している。

⇒大浴場、フィットネスルーム、プール、レストラン、ラウンジ、ビジネスセンター、ヘアエステ等。

 

●入居契約において支払うべき金員は1億3,370万円であるが、被相続人Hが約1億2,400万円、妻Aが約1,000万円を支払っている。

 

●被相続人Hは、平成19年4月20日付遺言公正証書を作成した。

 

●平成19年7月○日、Hが死亡、妻Aらは相続税の申告書を法定申告期限までに提出した。

 

●妻Aは入居契約時から現在に至るまで本件老人ホームに入居しているが、その間、介護を必要とする状態ではなかった。

 

●相続税の税務調査が行われ、被相続人Hが負担した入居金に関する更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。

 

まず、納税者の主張は次の通りです。

 

●名義上の主契約者は妻Aであるが、実質的な主契約者は被相続人Hであった。そして、本件入居金は被相続人Hが負担すべきものであった。

 

●妻Aは、本件相続開始時に、被相続人Hから主契約者の権利である終身利用権を死因贈与により取得したものと認められるが、終身利用権は一身専属権であるから、相続税の対象とならない。

 

●仮に主契約者が妻Aであるとしても、本件入居金の性質は終身利用権の対価であり、その権利の贈与であるとしても、生活保持義務の履行であるとすれば、相続税法第21条の3第1項第2号の「扶養義務者相互間において生活費に充てるための贈与」に該当し、贈与税は非課税であるから、相続開始前3年以内の贈与加算の対象にもならない。

 

一方の税務署の主張は次の通りです。

 

●入居契約の内容を十分に理解した上で、主契約者を妻A、追加契約者を被相続人Hとしており、入居契約書に主契約者として署名押印しているのは妻Aであったことから、主契約者は妻Aであったと判断できる。

 

●本件入居金の法的性質は、家賃相当額の前払金であると認められる。

 

●入居契約の主契約者は妻Aであるから、妻Aが入居金支払義務を負うところ、被相続人Hが生活保持義務履行のために本件入居金の一部に相当する金額を負担したものである。

 

●従って、被相続人Hが負担した入居金の一部については、入居契約開始日において、いまだ生活保持義務の履行がなされていない部分は、妻Aが本件老人ホームを使用する期間の経過に応じて償却されていくものであるから、被相続人Hの妻Aに対する生活保持義務の前払金とみるべきである。

 

●ゆえに、前払金のうち、相続開始時にいまだ生活保持義務の履行が完了していない部分は、被相続人Hの妻Aに対する返還請求権の対象となる。

高額な入居金は「生活費」に該当するのか?

最終的に国税不服審判所は次のような判断を下しました。

 

●本件入居契約書の内容はもとより、本件入居契約締結に至る経緯、本件入居契約への関与状況、契約により支払う金員の出捐者、契約当事者の認識等を総合的に勘案して判断するのが相当であるが、これらを総合勘案した場合、妻Aが主契約者と認めるのが相当である。

 

●被相続人Hは、自ら支払い義務のない妻Aに係る入居金の一部を支払ったものであり、これによって妻Aは、入居金全額の支払いによって初めて取得することのできる施設利用権を低廉な支出によって取得したものと認められる。

 

●妻Aは著しく低い対価で本件老人ホームの施設利用権に相当する経済的利益を享受したものであり、被相続人Hと妻Aとの間に実質的に利益の移転があったことは明らかであるから、その部分に関しては被相続人Hから贈与により取得したとみなすのが相当である。

 

●相続税法第21条の3第1項第2号は、扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるための贈与のうち通常必要と認められるものの価額は贈与税の課税価額に算入しない旨を規定している。この場合の非課税となる生活費に該当するか否かの判断は一律に定められるものではなく、個々の具体的事情に即して、社会通念に従って判断すべきものである。

 

●本件老人ホームの入居金は、1億3,370万円と極めて高額であること、居室面積もXXX平方メートルと広いこと、共用施設としてフィットネスルーム、プール等が設けられ、さらには、ヘアエステ等の施設も併設され、これらは無料で利用できること等に鑑みれば、本件老人ホームの施設利用権の取得のための金員は、社会通念上、日常生活に必要な費用であると認めることはできない。

 

●本件入居金は、妻Aの日常生活に必要な費用であると認めることはできないから、相続税法第21条の3第1項第2号の規定する「生活費」には該当せず、従って、本件入居金のうち、被相続人Hが支払った金額は、贈与税の非課税財産に該当しない。

 

以上より、被相続人Hが支払った本件入居金の一部は、妻Aが被相続人Hから贈与により取得したものとみなされることから、当該金額は、相続税法の規定により、「相続開始前3年以内の贈与」として相続税の課税価格に加算されることとなる。

 

いかがでしょうか。今回のケースでは、豪華施設の入居金ということから「生活に通常必要なもの」とはならず、贈与税の非課税財産には該当しないと判断されました。この判断の決め手になったのは「社会通念上適当であるか否か」です。

 

今後のご参考になれば幸いです。

 

 

服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

 

 

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    本記事は、『税理士法人レガート』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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