前回に引き続き、個人所有の賃貸用建物を「法人所有」に切り替えて、節税を図る方法を見ていきます。今回は、法人設立までの手順と、注意点について説明します。

「法人」は早ければ1週間程度で設立できる

複数のメリットを持つ法人化ですが、今回からは賃貸用建物を法人化する際に必要な手順を見ていきます。

 

まずは新たに同族法人を設立し、個人が所有する賃貸用建物をその法人へ売却します。個人ではなく、新設法人で不動産賃貸業を行うためです。「法人を設立する」と聞くと、途端に気後れしてしまう方もいることでしょう。多くの方にとって、法人は手続きが面倒で、ややこしいというイメージがあるからです。

 

しかし法人の新設は、実はとても簡単です。新たな印鑑を作り、必要書類を提出するだけで、早ければ1週間程度で設立できます。

 

資本金は、1000万円未満とします。1000万円を超えると消費税の申告が必要になり、また法人に課せられる地方税の均等割りによる税金が高くなるからです。資本金は50万円から100万円程度で十分です。

 

株主となるのは、相続人です。法人を設立する目的は、被相続人の財産を圧縮しつつ、相続人に渡る財産を殖やしていくことですから、被相続人が株主になってしまうと株式という相続財産が増えてしまいます。つまりここで設立する法人の株主は、被相続人以外ということになります。

 

このようにして法人を設立したら、その法人で被相続人の持つ賃貸用建物を購入します。個人所有ではオーナーしか受け取ることができなかった家賃収入を、賃貸用建物を法人化することで役員に役員報酬として支払い、分散するためです。

家族を役員にする場合は「年齢」にも注意

さて、皆さんが気になっているのは、この役員の「仕事」ではないでしょうか。実際に筆者がよく受ける質問に「仕事もしていないのに、役員になって役員報酬をもらって大丈夫なんですか?」というものがありますが、これは問題ありません。

 

以前手がけた案件に、日本の会社でありながら社長はほとんどシンガポールで過ごし、日本にいる社員の数もそう多くない会社がありました。この会社の税務調査の際、税務署の若い職員が「社長の給与は架空人件費ではないですか? 海外にいては仕事ができないでしょう」と、半ば食ってかかるように質問してきたことがあります。

 

筆者はその職員に対し、やんわりと指摘しました。「それは違いますよ。経営における役員の仕事はリスクを負うことですから、作業をやっているかどうかは関係ないし、世界中どこにいても経営はできるんです。会社法でもそうなっていますよ」と。

 

もちろん、社員や職員に給与を支払っているにもかかわらず、実際に仕事をしていないような場合は、架空人件費となってしまいます。しかし役員の仕事は、法人の経営に対してリスクを負い、判断をし、責任を取ることです。そのため、世界中のどこにいようと、会社の作業をしていなかろうと、役員報酬をもらうのはまったく問題ないのです。

 

役員の数も、当然、複数人いて問題ありません。何十人もいるというのは現実的ではありませんが、たとえば妻と子ども3人が役員といった形はよくあります。

 

ただし、年齢には気をつけなければいけません。いくら相続人であるといっても、未成年や学生ではまだ無理です。「高校生になっていれば問題ない」という税理士もいますが、実際に借入する際の保証人になり得るかを考えれば、不可能であることがわかります。

 

相続人の年齢はたいてい40代以上なので問題ありませんが、「孫も役員にしたい」という場合は年齢にも注意が必要です。

本連載は、2013年11月27日刊行の書籍『大増税時代に大損しない相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大増税時代に大損しない 相続税対策

大増税時代に大損しない 相続税対策

北村 英寿

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策を成功させるためには、実行に移してからの最終的な「出口戦略」まで考える必要があります。 「出口戦略」とは、相続税対策のために購入した賃貸不動産の最終的な顛末を考えることです。 相続発生後は、基本的にそ…

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