受取った消費税より支払いが多ければ戻ってくる
皆さんは、「自動販売機作戦」を聞いたことがあるでしょうか。「自動販売機作戦」とは、消費税の仕組みを利用して行われた、消費税還付作戦です。法人で賃貸不動産を購入する際、ある工夫をして多額の消費税還付を受けるというもので、多くの方が実践していました。もちろん、合法的にです。
どういう仕組みかといいますと、まず法人が賃貸不動産を1億円で購入したとします。話を簡略化するために建物のみを購入したとします。当然、500万円を消費税として支払います。このとき、建築する前に自ら課税事業者を選択しておきます。課税事業者になるかどうかは本連載の第17回でご説明した2つの基準により決められますが、もう1つ、自ら選択して課税事業者になることもできるのです。
さて、法人を設立した1年目(第1期)は売上がまったくといっていいほどありません。それでも課税事業者を選択しているので、たとえば1円でも売上があれば消費税の申告義務が生じます。ここで、消費税の仕組みを思い出してください。お客さんからもらった消費税より、自分が支払った消費税が多ければ還付されるのが消費税還付です。この場合、第1期の課税売上が1円であるのに対し、建築費用プラス消費税として出ていくお金が1億500万円。
ここでどのくらい消費税が戻るかの計算ですが、消費税の還付金額は、課税売上割合で決まります。課税売上割合とは、課税売上と非課税売上の比率で、割合が大きいほど消費税の還付が大きくなります。
課税売上(免税売上含む)÷(免税売上含む課税売上+非課税売上)×100=課税売上割合
1円÷(1円+0円)×100=100
つまりこの場合の課税売上割合は100%となります。
次に、消費税の計算式は以下の通りです。
預かった消費税-支払った消費税×課税売上割合
1円-500万円×100%=▲499万9999円
つまり、499万9999円の還付が受けられるのです(一括比例配分方式の場合)。
なぜこの方法が「自動販売機作戦」と呼ばれるかというと、代表的な方法として、建築現場に自動販売機を1つ置いておくからです。すると、作業員や通りがかりの人がジュースを買うので、1日数百円、年間で数万円程度の課税売上になります。さすがに「売上は1円」というわけにいかないので、このようにして課税売上を意図的に数万円程度作り出し、それと建築費用にかかった消費税とを比べて還付を受けるのです。
このようにして多額の還付金を受け取ったあとですが、そのままにしておくと今度は家賃収入が入ってきてしまいます。家賃収入は非課税ですが、たとえば賃貸不動産が事務所として使用された場合、課税売上がどんどんかさんでいき、翌年度からは支払う消費税のほうが多くなってしまいます。そこで、タイミングを見計らって課税事業者の選択をやめます。以後消費税の申告をしなければ、支払いも受け取りもなくなる、というわけです。
平成22年の税制改正で自動販売機作戦には蓋が・・・
このような「おいしい」自動販売機作戦でしたが、平成22年にはこれを封じ込める税制改正が行われました。その税制改正の1つ目は、建物を購入してから3年以内は、選択した課税事業者をやめることができなくなったことです。課税事業者をやめられなければ、還付を受けた翌年度からは消費税を受け取る機会が多くなるので、還付の効果がなくなってしまいます。
もう1つは、調整対象固定資産です。調整の対象となる固定資産を購入した場合、つまり100万円以上の大きな買い物をした場合は、翌々年にもう一度消費税を調整しなければならなくなったのです。この2つの改正により、還付の「もらい得」ができなくなり、「自動販売機作戦は過去の遺物」というのが業界での常識となりました。
どの税理士に聞いても、「消費税の還付はもう無理ですよ」と言うでしょう。そのため、もはや消費税還付はできなくなったと、一般的には考えられています。しかし、そんなことはありません。きちんと計画的に対策を打つことで、自動販売機作戦と同じような高額の還付を受けることができます。
次回は、自動販売機作戦と同じような高額の還付を受けることが出来る方法を見ていきます。