前回まで、賃貸不動産を個人と法人で共有することで得られるメリットについて説明しました。今回からは、個人所有の賃貸用建物を「法人所有」に切り替えて、節税を図る方法を見ていきます。

相続にかかるトータルの税コストを削減する「法人化」

不動産を活用した相続税対策の中でも、最近特に注目を集めているのが、個人所有の賃貸用建物を法人所有に切り替えて節税を図る方法です。前回までの連載で説明した「個人で賃貸不動産を所有する」「個人と法人で賃貸不動産を共有する」といった2つの対策のように、急激な相続税の節税を図れるものではないのですが、長期的な視野を持って実行するうえでは有効な相続税対策です。

 

一般的に「法人化」と呼ばれているこの方法は、以前から相続に詳しい人々のあいだでは周知のもので、すでに取り組まれていた対策です。それがこの度の税制改正などを契機として、多くの方に広がってきているようです。

 

なぜそのように広がってきたか気になることと思いますが、まず基本的な流れからご説明します。

 

最初に、同族法人を作ります。ここでも出資者は相続人から選び、妻、子など相続人を役員とします。次に被相続人となる個人が所有している賃貸用建物をその法人に売却し、法人所有に切り替えます。

 

賃貸用建物を法人所有にしますと、家賃収入を個人ではなく法人で受け取れるようになります。法人は家賃収入から役員報酬(給与)を役員に支払います。これまでは個人に入っていた家賃収入が、母、子などに分散します。個人に家賃収入が入り続けるということは、課税財産が積み重なっていき、相続税の税率が上がるということですが、それを防ぐことができるのです。

 

個人で受け取った家賃収入を配偶者や子へ贈与しますと贈与税が課税されますが、法人で家賃収入を受け取り、役員報酬(給与)として配偶者や子へ移転すれば贈与税は課税されません。法人を利用することで所得の分散が可能となるのです。

 

さらにこの「法人化」の場合、給与所得控除や生命保険の活用など、いくつもの節税方法が利用できるようになるメリットがあります。

 

最近、この方法が注目されている理由は、この手法が近年の税制の流れを逆手にとっているからです。税制は近年、個人増税・法人減税の傾向にあります。震災による復興特別税では所得税は25年も続くのに対し、法人税はたった3年という事実も見逃せません。

 

この法人化は、税金の最近の潮流を利用し、相続にかかるトータルの税コストを削減する「発想の転換」による相続税対策なのです。

家賃収入が多く、対策に時間をかけられる人におすすめ

さて、この対策がどのような方に向いているかといいますと、1つは現在所有の賃貸不動産による家賃収入が多く、相続財産がこれからも膨らみ続けていく可能性があるという方です。あるいは、子などの相続人が複数人いて、相続発生後は家賃収入を平等に受け取りたいという方にも有効です。

 

さらに、ある程度相続税対策に時間をかけられるという方に向いています。この対策は、「今すぐ」あるいは「1〜2年後」に発生すると考えられる相続には、あまり効果的ではありません。法人を設立して家賃収入を相続人に分散していくには、ある程度の時間が必要だからです。家賃収入を分散しても、それが1〜2年で終わってしまった場合と、それが5年、10年続いた場合では、ときによっては何億円もの効果の違いが出てきます。

 

この法人化が重宝されている理由ですが、節税対策以外にも効果を発揮できるところです。

 

たとえば、収益を上げる賃貸不動産が1件しかないのに、相続人が複数いるような場合です。賃貸不動産を共有で相続するには後々の面倒が予想されますし、二次相続になればさらに権利が枝分かれして、整理に手間がかかります。

 

しかし、この法人化の場合は、賃貸用建物を有価証券として相続するので不動産の共有を避けることができますし、後に相続人同士などで売買することも容易となります。

 

賃貸不動産のほかに財産がなかったり、現金がなかったりする場合、いざ相続が発生すると分割でもめやすく、〝争続〞に発展してしまうことも少なくありません。〝争続〞を避けるためには、早いうちから相続人が納得する体制を作っておくことが必要です。賃貸用建物の法人化は、それに一役買ってくれる方法です。

 

役員報酬として分散したお金は、相続人の納税資金として考えることも可能です。相続税は原則的に現金での納付ですから、相続人ごとに課税される相続税を試算しておき、その額の分だけ役員報酬として分散させていくのも有効です。

 

つまり、この法人化という対策は、相続税という〝見えざる借金〞を急激に減らす効果は低いけれども、ある程度時間をかけていくことによって大きな節税が見込め、さらに〝争続〞の防止、納税資金の確保など複数の対策を期待できるという特徴を持っているのです。

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    本連載は、2013年11月27日刊行の書籍『大増税時代に大損しない相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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