生前の土地売却で財産評価が上昇、相続税負担は増大
地主の方々は、たくさんの土地を持っています。しかし、土地の収益性の低下を放置していることが多く、意外と現金を持っていません。結果として、土地を切り売りすることになります。
ある大きな地主の方が、将来の相続を心配されていました。相続対策を前面に出す不動産仲介業者から、「納税資金が足りません! 売却して納税資金を準備しておきましょう。生前対策が必要です」とアドバイスされ、土地を売却したのです。
その結果、せっかくの不動産が現金に変わり、相続税負担が増大してしまいました。生前の土地売却によって財産評価の上昇をもたらしたのです。
先祖代々の土地の取得費は、譲渡収入の5%に?
相続財産に十分な現金がない場合、資産を売却して納税資金を調達するしかありません。地主の方々の場合は、土地の売却でしょう。
土地を売却すれば、所得税等が課されます。たとえば、相続発生前から納税資金の確保を考えて土地を売却する場合、所得税等の計算方法は、以下のとおりです。
所得税 = (譲渡収入 − 取得費 − 諸経費)× 20.315%
ただし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年超の場合
20.315% = 15.315%(所得税)+ 5%(住民税)
すなわち、譲渡収入から取得した時の金額、譲渡の際の諸経費を引き、20.315%の税率を掛けて計算します。
居住用財産(マイホーム)を売った場合、3,000万円特別控除の特例があります。また、10年超所有しているのであれば14.21%の軽減税率の特例(6,000万円まで)があります。
譲渡所得の計算のために、取得費を差し引くといわれても、先祖代々の土地を相続した場合、先祖の取得が大昔であり、いくらで買ったか記録が残っていない場合がほとんどです。その際には、譲渡収入の5%を取得した時の金額(概算取得費)として計算します。たとえば、譲渡収入が1億円であった場合は、500万円で取得したものとみなすことになります。
{1億円 − 500万円(=1億円 × 5%)− 諸経費}× 20.315% = 1,930万円
すなわち、取得費500万円の土地を1億円で売った場合であれば、所得税等は1,930万円という計算になります。
相続発生後に譲渡した場合の特例で、税負担を軽減
不動産仲介業者は、相続前でも土地の売却を勧めます。しかし、相続発生前に急いで土地を売却する必要はありません。売却代金として受け取った現金を相続財産とすれば、相続税負担が重くなるからです。
また、相続発生後の売却であれば、取得費加算の特例を適用することができ、所得税負担を軽減させることができるからです。すなわち、土地の売却が、相続税申告期限から3年以内(相続発生日から3年10カ月以内)であれば、土地に係る相続税を、譲渡所得の計算における取得費に加算することができます。
たとえば、相続財産のすべてが土地で、2,000万円の相続税を支払っていたとしましょう。その場合、所得税等は以下のように計算されることになります。
{1億円 − (500万円 + 2,000万円)− 諸経費 }× 20.315% = 1,523万円
すなわち、取得費に相続税2,000万円が加算されるため、譲渡所得が小さくなるのです。それゆえ、所得税等が1,523万円まで減額されることになり、約400万円の税負担が軽減されます。
土地売却に最適なタイミングは、相続発生の「直後」です。生前に売り急いではいけません。逆に、相続発生後はすぐに売却しなければいけません。
不動産仲介業者は、すぐにでも売らせて媒介手数料を稼ごうとします。おかしな提案に従って、タイミングを間違えてはいけません。
岸田康雄
島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士