「子どもの学費」を会社に支払わせたオーナー経営者の末路

日産自動車を「V字回復」させ、一躍時代(平成)の寵児となった元会長カルロス・ゴーン氏。私的な目的で会社の経費を支出・流用した疑い等で逮捕された際、その公私混同ぶりが各メディアを賑わせた。このような大がかりな刑事事件に発展しないまでも、経営者による会社の資金の私的な流用が発覚した場合、「税務上」ではどれほどのペナルティが課せられるのであろうか。本記事では、元国税調査官で公認会計士の矢敷和貴氏が、税務署・国税局による税務調査のポイントについて解説する。

会社に損害を与える資金の流用は「刑事事件」に発展も

「息子の学費を、会社に支払わせた」

 

「オーナー経営者個人の結婚式費用を、会社に支払わせた」

 

規模の大小を問わず、オーナー企業では、多少なりとも、こういうことが起こりうる。会社に損害を与えるような場合等、刑事事件にも発展するかもしれない。

 

今回は、それとは別にもっと身近な、「税務上」においてどのような問題が発生するのか? 具体的には、税務署・国税局の調査に入られた場合どうなるのかを見ていきたい。本来、冒頭のような私的な費用は、経営者である役員個人が支払うもので、会社に負担させるべきものではない。よって、税務調査では経費とは認められず(このことを「否認」という)、追徴税額を支払うことになる。

 

「どのような場合に否認され、その際会社が支払うペナルティはどの位か?」

 

その仕組みをキチンと押さえておかないと、思わず足元をすくわれる結果になる。
以下、調査の勘所を解説する。

経営者が知らずに受け取る「目に見えない」報酬とは

役員報酬には、金銭報酬と「それ以外の報酬」がある。これが税務調査でよくモメる要因となる。

 

この金銭以外の報酬とは、「経済的利益」と呼ばれ、「目に見えない」非常にやっかいなものである(なお、無形の報酬として、ストックオプション等の「株式報酬」もあるが、今回の説明では割愛する)。

 

この税法が定める「経済的利益」とは、会社の行った行為が実質的にその経営者(役員)に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすものをいう。冒頭の本来役員個人が負担すべき子どもの学費や自分自身の結婚式費用他に、例えば以下のようなものがある(カッコ内は、課税される金額)。

 

①資産を贈与したケース(その資産の時価) 

②資産を時価より低額で譲渡したケース(その時価と譲渡価額との差額)

③債権を放棄し又は免除したケース(その債権の放棄額等)

④無償又は低額で居住用土地又は家屋の提供をしたケース(通常収受すべき賃貸料と実際に徴収した賃貸料の額との差額)

⑤無利息又は低率で金銭の貸付けをしたケース(通常収受すべき利息と実際に徴収した利息との差額)

⑥役員等を被保険者及び保険金受取人とする生命保険契約の保険料の全部又は一部を負担したケース(保険料の負担額)

 

毎月自分の口座に振り込まれる役員報酬とは違い、上記の「経済的利益」は目に見えないものであるため、ウッカリしていると経営者自身が、その恩恵を受けていることに「気づかない」場合が多々ある。

 

では、経営者がこの「経済的利益」の恩恵に知らず知らずのうちに(中には確信犯的な経営者の方もいるかもしれないが…)あずかっていることが、税務調査で露呈するとどういうことになるのか?

オーナー経営者が国税に「往復ビンタ」される⁉

税務調査で、調査官が、経営者の「経済的利益」を発見し、追徴課税を行うことを、
国税内部の用語では「往復ビンタ(を食らわせる)」という。

 

ここでの「往復ビンタ」とは、もちろん本当に国税局の調査官から、経営者が頬を殴られるという意味ではない(なかには殴り掛かりそうな位、威勢のいい調査官もいるが…)。経営者が受ける、税務上のペナルティのことを表現するのに用いられるもちろん「一種の比喩」である。

 

前述の「経済的利益」が調査等で発見された場合、まずその支出は、形式上は、経費処理されているのに対し、実質上、役員に賞与を支給して、それを役員個人が消費したと、税務上認定される。

 

その結果、生じる追徴税額等は、以下のとおりである。

 

(1)法人税上の取扱い

会社の経費科目で支出しても、税務上、役員給与と認定されるため、経費にならないことが起こる(いわゆる「損金不算入」)。

【例】子どもの学費を、会社の経理上、研修費等の名目で経費処理していたものが、税務上認められず、役員に対する給与(役員賞与)認定により、経費にならなくなる。

 

(2)所得税上の取扱い

役員の給与台帳に上乗せして、経済的利益の分も所得税を支払わなければならない。

【例】子どもの学費に相当する金額は、会社から支給される役員給与(役員賞与)であるため、受領者としての役員個人側で、その分追加で所得税を支払う。

 

上記の2つは、法人税のみならず、所得税も追徴されるダブルパンチの内容であるため、
国税内部では、通称「往復ビンタ」と呼ばれているのである。

 

さらに、その経費に消費税も乗っかっている場合、経費として認められた場合は消費税を控除できるが、役員給与認定されるとそれも控除できなくなり、さらに消費税も追徴される。厳密には、トリプルパンチになり、実際には『1往復「半」ビンタ』になるのである。

 

(3)消費税上の取扱い

消費税がかかった経費として、消費税を控除している場合には、役員給与認定を受けると、それが引けなくなり、「認定された役員給与の金額×消費税率(8%)分」の消費税を追加で支払わなければならない。

 

調査で否認された場合、(1)~(3)の本税部分に加え、ペナルティとして過少申告加算税(または重加算税)、延滞税も追徴され、その支払いは莫大な額におよんでしまう。以上のことから、これらの「経済的利益」でのミスは、できる限り避けたいところである。

 

公私混同する経営者には、税務上も強烈なペナルティが待っていることを知っておいていただき、みなさんの会社にも「経済的利益」と疑われる怪しい経費はないか、事前にチェックしていただくのがベストの対策となる。

 

この「往復ビンタ」を防ぐ方法はあるのか? それについてはまたの機会に解説したい。

公認会計士 元国税調査官

早稲田大学卒。国税局採用の国税調査官として、法人の税務調査を担当。また、出向により財務省本省に勤務し、政策・法令の企画立案、国会対応業務等にも従事。公務員在職中、公認会計士論文式試験に合格(57位。全合格者の上位5%以内)し、外資系世界4大会計事務所にて、約10年間会計監査業務と税務業務に従事。泥臭い税務調査実務の最前線(交渉術、心理学含む)から、最新の理論(税法、判例解釈等)に至るまで、売上高2千万円の個人オーナー企業から、売上高2兆円規模の大企業まで診てきた経験と、国税当局・中央省庁の内部論理まで熟知した、日本で唯一の公認会計士として、顧問税理士からは得られない観点での、セカンドオピニオンを得意とする。

記事のご感想、ご疑問等はこちらまで → zeimusogokenkyukai@gmail.com

著者紹介

連載【GW特集】平成の世に「富裕層から滑り落ちた」情報弱者たち~彼らが失敗した理由

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧