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世界の金融業界でも神秘的な存在感を放つ
私が働いているピクテという会社は一般にはあまり知られていません。ところが逆に、世に言う本当のお金持ちなら誰でも知っているような、何とも不思議な金融機関なのです。
その活動は厚いベールに覆われ、世界の金融業界でも神秘的な存在感を放つプライベートバンクとなっています。
そもそも、プライベートバンクとは富裕層に特化した金融サービスで、通常ほとんどが商業銀行や証券会社のプライベートバンキング部門、またはそれらの子会社を通じて展開されています。ピクテが特別なのは、そのプライベートバンクを本業としている金融機関である点。母体がプライベートバンク専業である金融機関は非常に貴重な存在と言えます。例えば、日本国内には同様の金融機関は存在していません。
そんなピクテの歴史は日本の江戸時代、1805年まで遡ります。プロテスタントの本拠地、スイスのジュネーブに設立され、以来210年を超える歴史の中で、幾多の経済危機を乗り越えて投資家の資産を守り続けてきました。
また、ピクテは設立に王侯貴族が関わるなど、貴族社会との関係が深いことも一つの特徴となっています。経営陣にも欧州の名家出身者が多く、その気品ある活動は貴族が行う貴族のためのプライベートバンクと呼んでも過言ではないでしょう。
その結果、ピクテの顧客になることも一種のステータスとされ、誰もがなれるとは限らないようです。結果的に、世界のプライベートバンク中の最上位に位置付けられています。
私がピクテに入った当初の印象は、「たいして営業もしていないのに・・・、人からの紹介客を待っているだけのようなのに・・・、運用資産が増えている不思議な会社」でした。事実、私の知る当時の先輩プライベートバンカーは「営業はしない」と豪語していたものです。実際、日本の金融界の常識に照らしてみると、現在でも「営業はしていない」と言ってよいほどです。
その一方で、私が入社した2000年当時に10兆円程度であったピクテの資産管理運用額は、2018年9月末には約60兆円になっています。合併や買収を行ったわけでもないのに、世界中の資産が集まってきているのです。
それはピクテ213年の歴史の中で培った投資手法が、世界の投資家を引き寄せたからと考えています。
経営陣であるパートナー(共同経営責任者)自身が、頭のてっぺんから足の先までプライベートバンカー、という金融機関もあまりないと思われます。しかも、経営者である彼ら自身、実際に顧客を担当して資産の管理運用に直接関わっているのです。同時に、その当のパートナーたちも昔からの資産家ですから、自分の資産保全も積極的に考えなければなりません。そして他でもないピクテに運用を任せるのですから、彼らもいわば顧客の一人。自社の運用能力が自身の資産に直結しますので、強固な資産運用体制を構築するために真剣そのものになるのは当然なのです。
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そんなピクテに入社して今年で20年目になります。ただし、最初、私には高をくくっているところがありました。ピクテへ移る以前からロンドンやニューヨークで多くの外国人ファンド・マネジャーと仕事をし、ヘッジファンドの運用にも携わったので「海外はどこも同じ」という気持ちだったのです。ところが、ピクテのパートナーたちから教わったことは、それまでとは全く違う考え方でした。当初は商品開発担当者として、現在では本社のエクイティ・パートナー、いわゆるピクテ本体の番頭格の一人となって、外部には公開されない運用ノウハウに触れることを通じて、そのベールの内側を覗き続けてきました。おそらくアジア人としては私が初めて、ピクテ独自の考え方の奥深くにまで触れていることになります。
その資産保全のノウハウは文書化されるようなものではなく、パートナーからパートナーへ直接のコミュニケーションを通じて代々継承されてきました。ピクテの歴史213年間でパートナーとなったのはたった42人。一度就任すると平均で20年以上その職にあることで結束力を高め、過去の経験則をDNAのように受け継いできたのです。現在、パートナーとなっているのは7人、緊密なコミュニケーションのもとにスピーディーで高度な経営判断が実施されます。
その中で連綿と受け継がれてきたのは、長い経験に裏打ちされたいわば「哲学」です。詳しくは本書で説明していきますが、簡単に言えばそれは、「決して欲張ることなく、徹底した分散投資を長期にわたって実践する」というものです。
日本人にとって「資産の保全」はますます難しい時代に
今日、日本人にとっては資産の保全がますます難しい時代になってきました。金利はマイナスあるいは限りなくゼロに近くなる一方で、国が目標とする物価上昇率は2%と、実質金利マイナスの環境が政策として高々と謳われる時代に突入したからです。
資産運用が必須となる状況となる一方で、リーマン・ショック以降の運用収益率を押し上げていた株式やクレジット市場の投資環境は2018年終盤に入り変わってきているようです。一方、国内に目を向けても、それほど魅力的な投資先は多くはありません。
かつては物価上昇に強い資産と言われた国内の不動産にしても、長期投資の観点では高い収益を上げることは難しくなると思われます。近年、アパートやマンションへの投資が持てはやされていますが、インカムゲイン(家賃収入)はともかくキャピタルゲイン(値上がり益・売却益)を得ることはそう簡単ではないでしょう。なぜなら、潜在成長率の要である人口が減少を続けているため、アパートの借り手、宅地の買い手が減少していくからです。
日本は2020年以降、10年間で人口が600万人以上減少する人口ダウンサイジングの時代を迎えます。その収縮のスピードは凄まじく、厚生労働省の直近の推計によると、2055年には1億人を割り込んだ9744万人に、その後もさらに減少を続け2065年には9000万人を切ると推計されています。人口減少によって国内の総需要が拡大しない経済への投資ほど、難しいものはありません。
このような投資環境において、資産保全を成功させていくには少なくとも10年先を見通す目を持ち、あらゆるリスクを想定してポートフォリオを構築することが不可欠なのです。
資産保全で近い将来起こりうるインフレ経済に備えよ
1989年、イギリス。当時勤務していた山一證券のロンドン現地法人に赴任してすぐ、私は預金口座の開設に出向きました。向かった先は、イギリスの大手金融機関ナットウエスト銀行(ナショナル・ウエストミンスター銀行、現在はロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループの傘下)です。
口座開設の手続きを待つ間、「預金金利はどのくらいなのだろう?」と考え、何気なく金利ボードを見て驚きました。
「1年もの定期預金金利10%」
当時は日本もバブル景気の真っただ中。同じ年、定額郵便貯金の金利は4.57%を記録していましたが、さすがに2桁の金利は見たことがありませんでした。慢性的なインフレーションと国際収支の悪化、それによる英ポンド通貨の下落に見舞われたイギリス病が完治しておらず、まだサッチャー首相が剛腕を振るっていた時代だからこその、驚異的な高金利です。
しかし、当時のイギリスのようなインフレ経済下では、たとえ10%という超高金利で預金していても、金融資産の価値は目減りする一方でした。そのインフレの「威力」を象徴するものとして、当時イギリスでの生活で強烈に印象に残っていることがあります。
ロンドン滞在中の移動手段にするため、私はドイツの大衆車であるフォルクスワーゲン・ゴルフを中古で購入しました。購入価格は9000ポンドです。そして6年後の1995年、ニューヨークへの転勤に伴いその車を売却したのですが、その買い取り価格はなんと同じ9000ポンド!個人間での直接取引だったとはいえ、2年に1回ほど、結局3回しか洗車しなかった車が、買った時と同じ価格で売れたのです。日々の暮らしの中でも何となく感じてはいたものの、6年近くも使用した中古車の価格が変わらないという、まさに長期にわたるインフレの威力を身をもって実感した瞬間でした。ただし同じ期間に、英国の通貨ポンドは円に対して4割近く下落しています(車を購入した1990年3月の260円から、売却した1995年9月は157円)。また、フォルクスワーゲンの母国ドイツの当時の通貨、ドイツマルクに対しても約2割近く下落しています。円で考えれば、ゴルフの価格は234万円から141万円あまりへと大きく下がっていたのです。
中古車の価格はポンド・ベースでは下落しませんでしたが、そのポンド自体の価値が大幅に下落していたという、自国通貨安を伴うインフレの経済を、私はこのような形で経験することとなりました。そして、同じような状況が近い将来の日本に訪れる可能性は決して少なくない―そのように確信している今だからこそ、日本人の資産保全と運用について改めて真剣に考えなければならないというのが私の思いとなっています。
萩野琢英
ピクテ投信投資顧問株式会社 代表取締役社長
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