今回は、「お金のタマゴ」の考えを利用した分散投資について見ていきます。※富裕層だけが存在を知るプライベートバンク、ピクテ。この金融機関の歴史は古く、富裕層の資産運用を通じて築いたノウハウがあります。本連載では、ピクテの投資手法をわかりやすく紹介しながら、初心者の資産運用にも役立つ投資テクニックを紹介します。

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低リスクを明確に意図した「設計」の投資信託への投資

・「欲張らない投資」では、リスクを最小限に抑えて着実なリターンを得る

 

「欲張らない投資」とは、低リスクを明確に意図した「設計」がなされた投資信託への投資です。大きなリターンを求めるとその分リスクを負うことになるのですが、売れ筋ファンドランキングやファンドのリスク特性から想像すると、残念ながら多くの投資家が潜在的な高いリスクに気付いていないと言えるでしょう。

 

もちろんリスクは、突如として顕在化する恐れがあります。例えば、ある新興国の経済がクラッシュすると、市場として十分に育っていない、規模の小さな株式市場に売り手が殺到して混乱し、株価が大暴落、損失を抑えるために新興国株式を売ろうと思っても売れない・・・このように、手遅れになって初めて投資家は流動性リスクの存在に気が付くのかもしれません。

 

そこで「欲張らない投資」のリターンのイメージは、インフレ目標2%を上回る2~4%程度とします。それ以上は望まず、「ビクビク運用」に徹する低リスク運用を明確に意識した投資信託を組み込むべきです。投資信託のリスク・リターン特性で見た通り、日本には比較的少数しか存在しませんが、実は今の日本の人々にとって最も重要なカテゴリーだと考えています。

 

このカテゴリーに属するのはいわば「預金の一歩先」のような投資信託です。すべての日本の人々がリスクの高い投資をする必要はないものの、預金一辺倒から一歩踏み出して、欲張らない投資にチャレンジすることは、ほとんどすべての人に求められていることなのです。

 

・「ちょっと欲張った投資」では、程よいリスクで程よいリターンを得る

 

「ちょっと欲張った投資」は程よいリスク、いわゆる中リスクの商品特性を有する投資信託への投資です。バランスファンドを除くと、中リスクに分類できる投資信託はリスク要因をある程度限定しているものが多く、価格変動の要因が分かりやすいのが特徴です。また価格変動が程よいので「欲張らない投資」からさらに一歩踏み出して、投資への理解を高めるのに適した投資信託とも言えます。

 

個人投資家が投資を開始する際に一番初めに陥りやすいのが、投資信託の選別を分配率やリターンの実績だけで行い、リスクに注意を払わず、高リスク商品への投資に偏るような事態です。

 

このため、投資した投資信託の基準価額が大幅に下落してくると、更なる下落に不安を感じ、一部あるいはすべてを売却してしまうことがあるようです結果的にそこが底値であったりするのですが、売却した当人は自分が底値で売却したことさえ気付かないというケースもあるかもしれません。あるいは同じ投資行動を何度も繰り返すことで投資成果を上げられず、「儲からない」と資産運用を諦めてしまうことが多いようです。

 

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中リスクの投資信託への投資メリットは、市場が調整した時も、たいていの場合は1年間の下落率が最大25%程度に抑えられることです。1年間下落率を25%以内に抑えることは5年から10年程度の投資において重要となります。また、投資家に与える心理面の影響でも下落率25%ぐらいまでは投資を行っていて大きな不安を感じさせない水準と言えます。

 

バブル経済崩壊後の低金利時代に入ってつい最近までは、「ちょっと欲張った投資」が投資信託運用の代表格でした。2000年前半は投資信託と言えば為替リスクを取って他の先進国の国債や優良社債に投資するものなどが常に販売上位に名を連ねていましたが、これらは典型的な中リスクの投資信託です。これらはリーマン・ショック時にも他の投資信託に比べ高い下落抵抗性を発揮しました。ただ、世界的な低金利時代になった今日では、新しい中リスク型の投資信託への投資が求められています。

「育てる投資」は将来の資産形成の「エンジン」となる

・「育てる投資」で資産をじっくりと増やす

 

「育てる投資」とは、10年以上は保有してじっくりと資産を増やすための投資を意味します。「欲張らない投資」は必要不可欠なのですが、インフレへの対処はできても将来に向けた資産形成の「エンジン」にはなれません。特に若い年代層には預金と「欲張らない投資」で基盤を固めた上で、「育てる投資」を一定額行うことが必要です。

 

10年程度じっくり保有し続け結果を求めるためには、10年後も成長が期待される投資対象の選定が重要になります。しかし、これはそう簡単なことではありません。

 

10年前に、液晶テレビの先駆者、日本のシャープが台湾の企業に買収されると予想第章した人がいたでしょうか?当時の同社は液晶テレビのビジネスが好調で2006年3月期の売上高と利益は3年連続で過去最高を更新していました。しかし、その10年後には16年3月期の決算を乗り切れないほどに資金繰りに窮し、同社は同年2月に鴻海(ホンハイ)精密工業からの買収案を受け入れたのです。

 

あるいは10年前に、ブラジルやロシア経済の現在の混迷をどれほどの人が予想していたでしょうか?ブラジルもロシアもBRICs(Brazil, Russia, India, China)の一角として高い経済成長が期待され、ブラジル株式ファンドやロシア株式ファンドは大人気でした。ところが2016年の初めには、ブラジルは一時オリンピックの開催も危ぶまれたほどに経済は混迷、警察官への給与が払えないほどに財政は逼迫、治安は悪化し、通貨ブラジル・レアルと株価は大幅に下落したのです。

 

また、バブル経済期の1988年末に3万159円だった日経平均株価が、10年後の1998年末に1万3842.17円まで下落すると、当時の誰が考えていたでしょうか?しかも20年後の2008年末には8859.56円なのです。1988年当時の日本は世界第2位の経済大国として、米国の経済さえも抜くと考えていた人も多かったのにこのありさまなのです。

 

このように10年後も成長している投資対象を選定することは決して簡単ではありません。だからこそ、10年程度じっくり保有し続け結果を求めるためには、相場の変動に踊らされて売ったり買ったりをしなくて済むファンドであることが必要なのです。それは必然的に投資対象を分散した分散型となり、単一国に投資するものや単一通貨に賭けるファンドでは役目を果たせません。

 

また資産の成長のエンジンとなるためには株式の組み入れが不可欠です。分散型の株式ファンドか、株式が多めのバランスファンドが候補となってきます。

資産保全に重要なのはあらゆるリスクの想定と分散投資

・「スパイス的な投資」で流動性リスクを取り大きく育てる

 

「スパイス的な投資」は流動性リスクを許容して挑む投資で、バイオ株式、インド株式、米国REITやMLPといった単一資産、単一国や単一通貨といった、分散化されずに限られた対象に投資するファンドが該当します。非上場企業への投資であるプライベート・エクイティなどもこの分野に含まれます。

 

流動性リスクとは株式や債券などを換金しようとした際に売れなかったり、通常よりも著しく不利な価格での取引を余儀なくされることで損失を被るリスクです。こうした資産クラスは価格が大きく動くので、うまく投資できれば大きなリターンを上げることができますが、高値で投資してしまうと大きく損をしてしまうリスクがある投資対象です。

 

このため15年以上の超長期投資のスタンスで挑み、単一のファンドに資産の多くを配分しないことが重要となります。

 

さもなければ「買い時」も「売り時」もタイミングを計らなければならない難しい投資が該当することになりますが、実は先ほど見た売れ筋ファンドの多くはここに該当するのです。玄人向きとも呼べるこれらのファンドが一般の人に広く売れていて、「欲張らない投資」「ちょっと欲張った投資」や「育てる投資」をしているつもりが、実は「スパイス的な投資」をしてしまっているところに怖さがあります。

 

・想定外のリスクが起こった時にどう対処するかを常に考える

 

資産を5分割して考え、運用資産は4タイプの投資に振り分けるとは言っても、すべての方にこのような資産振り分けが必要とは限りません。中には「スパイス的な投資」は不要と考える人もいると思いますが、それも決して間違いとは言えないのです。

 

最も避けなければならないのは、資産を分散せずに「利回りが高いから」とか「分配金がたくさん受け取れるから」というような理由で、特定の投資信託に集中的に投資することです。本人はリスクの大きさに気付かず、知らないうちにリスクの高い資産、「スパイス的な投資」が大きな割合を占めていた―などという状態では資産は守れません。一見魅力的な「スパイス的な投資」は、「欲張らない投資」「ちょっと欲張った投資」「育てる投資」で分散投資をしっかり行い、資産を守ってから本当の意味の「余剰資金」で行うべき投資なのです。

 

マーケットが短期的に大きく変動した時に初めて保有資産のリスクの大きさに気付いたのでは、もはや手遅れです。資産設計の基本はまず、あらゆるリスクを想定するということです。その第一歩が、先に挙げた五つの資産の振り分けになります。「お金のタマゴ」で「左から右」へ振り分けを行っていれば、万一、想定外のリスク発生に直面したとしても冷静な対応を取ることができるはずです。資産を確実に守るためには、そのようなケースに直面した時のことまで想定していることが必要だと言えるでしょう。

 

 

萩野琢英

ピクテ投信投資顧問株式会社 代表取締役社長

 

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    本連載は、2019年4月10日刊行の書籍『改訂版 210余年の歴史が生んだ ピクテ式投資セオリー』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。
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    萩野 琢英

    幻冬舎メディアコンサルティング

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