今回は、インフレを見越した資産防衛としての投資行動の重要性と、日本人の投資家にしばしば見られる特徴的な傾向について解説します。※富裕層だけが存在を知るプライベートバンク、ピクテ。この金融機関の歴史は古く、富裕層の資産運用を通じて築いたノウハウがあります。本連載では、ピクテの投資手法をわかりやすく紹介しながら、初心者の資産運用にも役立つ投資テクニックを紹介します。

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日本人にとって、まだまだ投資のハードルは高く…

「狂乱物価」とまではいかないにせよ、インフレ時代に突入すれば預貯金だけで資産を守ることは難しくなります。1990年代初頭、私がイギリスにいた時によく訪問していたスコットランドの保険会社は、中核ポートフォリオの基本資産配分を株式8割、債券2割という構成で運用していました。地味で質素倹約を旨とするスコットランド人でさえ、株式が運用資産の中核だったのです。

 

同じことは個人投資家にも言えました。資産を持つ者はインフレに勝つために株式に投資し、株価の上昇に期待しつつ、配当を受け取りながら人生を楽しんでいました。当時、イギリスでは水道事業が民営化されましたが、多くの個人投資家が配当を楽しむ資産株として購入しました。この株はその後の値上がりで株式投資家の裾野を広げることに貢献しています。

 

投資に消極的だと言われ続けてきた日本人ですが、今後その傾向はどうなっていくでしょうか。日本人にとって投資はまだまだハードルが高く、投資信託も広く普及しているとはとても言えない状況だと私は思っています。

 

ただ、後ほど詳しく述べますが、投資を始める必要性はますます高まり、同時に、始めるためのハードルが下がっている(始めやすくなっている)ことは間違いありません。例えばインターネットを使った投資は年々手軽で便利になる一方ですし、NISA(少額投資非課税制度)に代表される、投資を後押しする国の制度も充実してきました。

 

また、政府の「貯蓄から投資へ」を推進する意欲には並々ならぬものが感じられます。2016年1月からは、未成年者を対象とし、祖父母や両親が子どもの代わりにお金を出す「ジュニアNISA」、少額からの積立投資ができる「つみたてNISA」も2018年1月から始まり、同年9月末にはNISA、ジュニアNISAの口座数の合計は約1256万口座、買付額は約15兆1397億円に達しています。

 

しかしながら、現在日本でよく購入される投資信託の「ランキング」を見る限り、まだまだ課題が多いと感じざるを得ないのも事実です。

 

その理由を説明します。2019年1月4日時点での日本の投資信託(ETFを除く)残高上位5本は、次のような顔ぶれです。ちなみに投資信託にはいくつかの分類方法がありますが、ここでは個人がいつでも購入可能な追加型株式投資信託という分類を用います。

 

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1位 フィデリティ・USハイイールド・ファンド 6128億円

2位 フィデリティ・USリート・ファンドB(為替ヘッジなし) 5701億円

3位 ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド 5554億円

4位 新光 US-REITオープン 5377億円

5位 ひふみプラス 5182億円

 

リート(REIT)とは、オフィスビルやマンションなどの不動産を投資対象とした不動産投資信託のこと。ハイイールドとは信用格付けが低い代わりに利回りが高い事業債(ハイイールド・ボンド)を指しています。ひふみプラスは中小型株式の銘柄選定に特色がある日本株式ファンドです。

 

上位5本を見ると投資対象や投資対象国が偏っていることに気がつきます。うち四つのファンドは主に海外資産へ投資するものであり、為替の影響も受けることになります。いずれも値動きの比較的大きい資産であり、かつリートやハイイールドなど、単一の投資対象に限定した投資信託です。また、毎月分配金を払い出すタイプの商品である、という傾向も確認できます。

 

当社ピクテの中でも、お預かりしている金額が多いトップは、ピクテ・グローバル・インカム株式ファンドで毎月分配型です。

 

どうやら日本の個人投資家は、ほとんどの資金を預貯金に置くという堅実さを持ちながら、投資をする時にはリスクを取って狭い投資対象に集中して投資するという傾向も持ち合わせているようです。リスクが好きだから、ということではなく、分配金の多さを追うことで結果的にハイリスクの投資対象のファンドになっていった、というのが正しいかもしれません。なおここで言うリスクとは価格の振れ幅、つまり株価などの値動きの大きさのことであり、リスクが大きい=価格の振れ幅が大きい、つまり大きな収益が期待できる反面、損失も大きくなる可能性があることを意味します。

日本の投資信託には「リスク30%超」のものも多い

ハイリスク・ハイリターンとは、より高いリターンを得るためにはより高いリスクを取る必要があるという投資の一般的な原則ですが、同時により高いリスクを取ることでより悪いリターンになる可能性があることも意味しています。高いリターンを得るためには高いリターンの不確実性を許容する必要があるわけです。投資信託のリスク・リターン特性(図表1・2・3)で日米欧を比較すると、そのことがはっきりと分かります。

 

[図表1]日本の投資信託リスク・リターン特性 ※期間:2006年12月末~2016年12月末、リスクとリターンは年率。 ※2006年12月末以前に日本で設定され、日本で販売されているファンドで、純資産総額上位300ファンド(2016年12月末時点)(ETF、マネー型、公社債ファンドを除く)。基準価額(分配金再投資後)、円ベース。リスクは月次リターンの標準偏差。 出所:リッパーのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表1]日本の投資信託リスク・リターン特性
※期間:2006年12月末~2016年12月末、リスクとリターンは年率。
※2006年12月末以前に日本で設定され、日本で販売されているファンドで、純資産総額上位300ファンド(2016年12月末時点)(ETF、マネー型、公社債ファンドを除く)。基準価額(分配金再投資後)、円ベース。リスクは月次リターンの標準偏差。
出所:リッパーのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

[図表2]米国の投資信託リスク・リターン特性 ※期間:2006年12月末~2016年12月末、リスクとリターンは年率。 ※対象ファンドは、2006年12月末以前に米国で設定され、米国で販売されているファンド(ETFとマネー型を除く)のうち、純資産総額上位300ファンド(2016年12月末時点)、年率。 ※基準価額(分配金再投資後)、米ドルベース。リスクは月次リターンの標準偏差。 ※取得可能なデータで作成。 出所:リッパーのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表2]米国の投資信託リスク・リターン特性
※期間:2006年12月末~2016年12月末、リスクとリターンは年率。
※対象ファンドは、2006年12月末以前に米国で設定され、米国で販売されているファンド(ETFとマネー型を除く)のうち、純資産総額上位300ファンド(2016年12月末時点)、年率。
※基準価額(分配金再投資後)、米ドルベース。リスクは月次リターンの標準偏差。
※取得可能なデータで作成。
出所:リッパーのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

[図表3]欧州の投資信託リスク・リターン特性 ※期間:2006年12月末~2016年12月末、リスクとリターンは年率。 ※対象ファンドは、2006年12月末以前に設定されたUCITsのファンドで、イギリス、フランス、イタリア、スイス、スペイン、スウェーデン、ドイツ、オランダで販売されているファンド(ETFとマネー型を除く)のうち、純資産総額上位300ファンド(2016年12月末時点)。 ※基準価額(分配金再投資後)、現地通貨ベース。リスクは月次リターンの標準偏差。 ※取得可能なデータで作成。 出所:リッパーのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表3]欧州の投資信託リスク・リターン特性
※期間:2006年12月末~2016年12月末、リスクとリターンは年率。
※対象ファンドは、2006年12月末以前に設定されたUCITsのファンドで、イギリス、フランス、イタリア、スイス、スペイン、スウェーデン、ドイツ、オランダで販売されているファンド(ETFとマネー型を除く)のうち、純資産総額上位300ファンド(2016年12月末時点)。
※基準価額(分配金再投資後)、現地通貨ベース。リスクは月次リターンの標準偏差。
※取得可能なデータで作成。
出所:リッパーのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

このグラフは日米欧の残高上位の投資信託の過去の値動きを調べ、座標で示したグラフです。縦軸はリターン(投資収益率)、横軸はリスク(標準偏差)となっています。双方とも過去の値動きを分析した過去の数値であり、特にリターンはこの時期たまたまこうだった、という程度に理解しておくのがいいでしょう。あくまで変動商品であり、どの時期を切り取るかによって全く数値が異なるのも珍しくないからです。

 

リターンは分析期間の開始から終了までの変化率を年率換算しており、例えば100だったものが10年で150になったとしたら、50%の上昇を10年で割った5%が年率リターンとなります(実際は単純に10で割るのではなく複利の考え方で年率換算します)。

 

リスクはこの期間の値動きのブレの大きさを数値化したもので、この数値が大きい場合、例えば1年ごとにリターンを測ってみると5%どころか20%の年もあればマイナス10%の年もたくさんあったことを意味します。リスクが20%以上だとすると、どの時期に投資するかによって、結果が大きく異なるような値動きだったと考えていいでしょう。

 

まず、日本の投資信託のグラフを見ると、リスク10~15%と20%近辺にたくさんの投資信託が集まる二つの大きな固まりがあり、リスク30%を超えるものも相当数あることが分かります。投資信託であるにもかかわらず、これは個別の株式投資並みのリスク水準と言えます。一方、米国はリスク10%台に集中していて、欧州はまんべんなく散らばっている印象です。ただどちらもリスク25%を超えるものはほとんどありません。このことから日本人は欧米人に比べて、ハイリスクな投資信託を保有している傾向が高いことがうかがえます。

 

 

萩野琢英

ピクテ投信投資顧問株式会社 代表取締役社長

 

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本連載は、2019年4月10日刊行の書籍『改訂版 210余年の歴史が生んだ ピクテ式投資セオリー』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。
投資はご自分の判断で行ってください。本連載を利用したことによるいかなる損害などについても、著者および幻冬舎グループはその責を負いません。

改訂版 210余年の歴史が生んだ ピクテ式投資セオリー

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萩野 琢英

幻冬舎メディアコンサルティング

世界恐慌、オイルショック、リーマンショック・・・ 歴史の中でいくつも訪れた市場の転換点を乗り越えてきた「ピクテの運用哲学」とは? 今日、日本人にとっては資産保全がますます難しい時代になってきました。金利は限り…

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