中央の地方債務管理強化方針で償還リスクが増大か
審計署(日本の会計検査院に相当)は2013年12月、同年6月時点の地方債務総額が17.9兆元、うち地方政府が直接償還義務を負う債務(いわゆる1類債務)が10.9兆元と発表したが、昨年末の全人大常務委員会での楼継偉財政部長の報告によると、2014年末の1類債務残高は15.4兆元にまで増加した。うち東部地域が44%、西部が31%、中部が25%を占める(2015年12月28日付第一財経日報)。
常務委報告によると、2013年6月時点の1類債務の17%、1.86兆元が昨年償還を迎えたようだが、中央政府は昨年、向こう2-3年以内に償還の来る1類債務を対象に、3.2兆元の長期、低利の借換債発行を決定した。また14年に予算法を改正しており、昨年から地方債自主発行が解禁、新規債6千億元、その他償還を迎える債務の元利返済支払資金調達のため、約1700億元の債券発行が予定されていたが、ほぼ予定通り発行されたもようだ。
本年は新規債、借換債ともさらに増加し、総額で5、6兆元程度の発行になると見られており(2016年1月8日付経済参考報)、また財政部は、2015-17年の借換規模が総額14.7兆元に及ぶ見込みとしている(2015年12月3日付騰訊財経他)。これらは、昨年に入ってから債務膨張スピードが大幅に鈍化していること、債務限度額を明示する中央の方針(昨年は、年末の債務残高を16兆元に抑えるとした方針を明示)と合わせ、当面の債務リスクを軽減させる要因となっている。
他方、2014年10月、中央は今後地方債務の救済は原則行わないとし、また地方に予算管理徹底を促し、地方融資平台(地方政府が出資して設立された投資目的会社)を通じた資金調達を禁止するとともに(いわゆる国務院43号文件)、これまでの平台を通じた債務を政府の債務として組み入れるかどうか選別することを指示した。
審計署によれば、13年6月時点の1類債務10.9兆元のうち、平台を通じる債務は37%の4.1兆元と分類されており、これらのうち、償還を迎えた債務は1類債務として、借換債によって改めて地方政府の債務として組み入れられているもようで、今のところデフォルトといった事態は伝えられていない。しかし市場では、今後、地方政府の債務に組み入れられない平台債務が発生してくるおそれがあり、そうなると、政府の保証がなくなって、償還リスクが増大することが懸念されている。
「リスクは制御可能」と楼財政部長は言うが・・・
最近の中国現地報道によると、31省市区のうち25の昨年末の1類債務残高が明らかになっているが、債務絶対額は江蘇、山東、浙江、広東、遼寧、貴州が高水準(2015年末1類債務限度額、9千億-1.1兆元)で、江蘇の1兆954億元が最大、また増加率では、重慶と湖北以外の23省区で13年6月比約15-130%増、最も増加率が高いのは寧夏で126.8%となっている(本連載第2回 図表1参照)。増加はもっぱら13年6月から14年末にかけて生じているようだが、これには、43号文件を受けて保証債務などの間接債務を1類債務に組み替える傾向が強まったことも影響していると思われる。
楼財政部長は昨年12月、14年末の各地域の平均債務率(債務残高の総合財政力指数に対する比率)は86%で、“紅線”と呼ばれる警戒ラインの100%を下回っており、リスクは制御可能な範囲内にあると述べている。しかし、上記25省区を見ると必ずしも楽観はできない。15年、6つの省区が100%を超えており、貴州が最も高く197.47%、遼寧120.2%、寧夏111.88%、陝西が111.61%、雲南111.23%、内蒙古104.7%、その他は100%の紅線を下回るが、浙江、四川、湖北は紅線に近づいている(図表1 参照)。また、下位レベル政府の状況も楽観できない。昨年末、人大常務委に報告された国務院の調査結果によると、全国で100以上の市本級、400以上の県級で債務率は100%を超えている(2016年2月1日付中国房地産網)。
【図表1 省市の債務率(2015年)】
地方政府の歳入は土地譲渡収入に大きく依存
また、地方に行くほど、2014年半ばから深刻化した不動産市況低迷の影響が大きい。多くの地方政府の歳入が土地収用・転売による土地譲渡収入に大きく依存し、浙江を始めとして、多くの省市が債務の返済を農地の収用、開発業者への転売に伴う土地譲渡収入で保証している。
図表3は、各地区審計署の報告で、「債務の償還を土地譲渡収入で行う」ことを明記している23省市区を掲載したものだが、貴州や寧夏などそれ以外の地域でも、実際には土地譲渡が盛んに行われている。また、詳細は不明だが、「改頭換尾」、表記方法を変えるといったうわべだけの変更をしており、たとえば貴州では、違法なBT方式による企業・個人向け融資が行われているなど、実際には、多額の土地収入が形を変えて、債務償還に使われているもようだ。図表3に掲載されている23省市区以外でも、実際には、土地財政への依存が高いと推測される。
そして、この土地譲渡収入が2014年以降、不動産価格下落で同収入が大きく減少している。土地譲渡収入は13年、全国ベースで前年比45%増、4兆元(税等の一般歳入比60%)を超えたが、14年は0.3%増とほぼ横ばい、昨年は前年比21.4%減、金額で9千億元弱の大幅減少だ(図表2 参照)。14年の20省市を対象にした調査によると、12の省で土地譲渡収入の対税等一般歳入比が50%以上、中でも海南、江西は75%だった。
【図表2 地方の土地譲渡収入 】
不動産価格は、北京、上海、天津といった1線級都市では昨年2,3月頃に一応底を打ち反転しているが、地方都市の多くはようやく年半ばに反転、または昆明などなお下落傾向が続いているところもある。債務額、債務率とも高い上に、経済の不振が著しい遼寧の場合、以前は年間約2000億元の土地譲渡収入があったが、最近は700-800億元と3分の1にまで減少しているという(上記、中国房地産網)。総じて、地方は財政の土地依存が高いが、不動産市況回復は大都市に比べて遅く、債務リスクが二重に増幅される構造だ(図表4、5参照)。
【図表3 土地財政への依頼度が高い省市(2012年末)】
【図表4 新築住宅価格指数(2010年100)】
【図表5 地域別住宅在庫月数(2015年12月時点】