成長期に入った会社の社長がすべきことは、自らが働くことではなく「陣頭指揮」をとることだ。そして成熟期になったとき、今度は「何もしない」ことが重要だ…。本連載は、株式会社ソリューション代表取締役の長友威一郎氏の著書、『“がんばる経営者”が会社をつぶす~最強の組織をつくる経営術』(合同フォレスト)から「社員が自然に育つ仕組みづくり」の章をメインに抜粋し、事業を拡大するために、経営者として組織をどのようにマネージメントすべきかを見ていく。

「部下の失敗の責任は上司にある」という考え方

基本的に経営者というのは、独自の発想力と行動力とビジネスセンスで会社を立ち上げ、これまで企業を運営されてきた方、事業を継ぐという覚悟を持ち、小さい頃から商売というモノを間近でみてきた方がほとんどです。

 

ご自身の能力が高いため、社員たちも自分と同じように仕事ができるはず、と思いがちなのですが、社員というのは、社長ほどの能力はまだ持っていません。それは、給料の金額の違いからもわかることだと思います。もし、経営者と同じくらいの能力がある社員がいたら、その人にも、社長と同じ額のお給料を払わなくてはいけないということになります。

 

このように、社長の「基準」というのは本来とても高いのです。「これくらいできて当たり前」という「当たり前基準」で判断するため、「安心して社員に仕事を任せられない」という経営者が多いのです。

 

社員に仕事を任せたとしても、自分よりもレベルが低い仕事のやり方が気になってしまい、「もっとこう見ることができるよ」「もっとこう考えられるよ」などと口出しするうちに、だんだん心もとなくなっていき、最終的には「もう、俺がやるからいい」になってしまう。そのパターンから抜け出さない限り、社長の今すべき仕事が増えてしまい、未来に向けたビジョンを描くという仕事には取り掛かれません。

 

まずは社長の「当たり前基準」を下げて、社員をみていく必要があります。自分が期待したことの「50%できれば、まずはいいかな」「80%できたら、すごいことだ」という意識を持って、彼らが手がけた仕事を受け入れる。そこが経営者としての器量につながっていきます。

 

それと同時に、任せた仕事ができているか見守ることも必要です。パナソニックの創業者・松下幸之助さんの言葉に、「任せて任さず」というものがあります。さまざまな捉え方があると思うのですが、私自身は「ただ任せてあとは知らない」というのではなく、任せた後も見守り、その人が自分の力で成功するまでフォローを続けることが、本当の意味での「任せて任さず」になると考えています。

 

任せたけれども、折を見て「大丈夫か?」と進捗を確認したり、「納期は明後日だけど、何か協力できることはないか?」と声をかけたり。私自身、社員に対するこうしたことは、自分からしていくように心がけています。

 

この声かけのタイミングも重要です。プレゼンなどの当日に「大丈夫か?」と言うと、言われた本人は焦るだけです。そこで2、3日前に「(私のほうで)何かすることがあるか?」「どこかわからない部分はある?」などと声かけすることで、「任せて任さず」を実践しています。こうした声かけは、相手を信用していないからというものではなく、成功させるためのサポートという位置づけと考えています。

 

仕事を任せた以上、自分の「当たり前基準」は少し下げ、社員を見守ってサポートしていくことが、社員に仕事を任せるうえでの大事なポイントです。

 

また、社員に仕事を任せて失敗してしまった場合どう考えたらよいのでしょうか。「失敗はあなたの責任」と、失敗をすべて部下のせいにするというのは、根本的に違っています。「部下の失敗の責任は上司にある」という考え方で対処する必要があります。

「任せた」結果、クライアントを怒らせてしまったら?

社員を成長させるためには、「任せて任さず」という姿勢で見守り、サポートを続けていくことが必要です。ただ、事業の流れを考えると、そうも言っていられないときというのが必ずあります。

 

当社の場合でいうと、任せた仕事なのに、納期を守らず、クライアントをお待たせしてしまっている状態になったとき。そういう事態になったときには、「もう、結構!」と瞬間的に、社員から仕事を取ってしまうことがあります。私自身、やってしまった後に反省するのですが…。

 

事業を考えたら、そこで仕事の任せ方をスイッチすることが不可欠ですが、大事なのはそのときのスイッチの体制と指示の仕方です。「もう、結構。任せろ。俺がやる!」と、パッと仕事を取り上げてしまって、その社員に対するフォローもしないと、当人はナイフで刺されたような感覚を覚えていると思います。

 

「自分がミスをした、上司が焦っている、顔が怖い、仕事を取られたけれど上司がやったら15分で解決した、自分のこの3日間は一体なんだったのだろう…」

 

きっと、こうした思いが胸の中を去来しています。そして、このような自分の無力感を目の当たりにする経験が重なると、社内における自分の存在意義が薄れていき、最終的には「自分は必要ないから」と、辞表を提出することになりかねません。

 

社員が自分自身を「この会社には必要ない」と思ってしまうことは、会社に対するロイヤリティを下げることに直結します。こうした事態が起きた場合、その後のフォローが大切です。

 

それには「直接」と「間接」の2パターンの関わり方があります。

 

まず「直接」の場合、その業務が終わった後、必ずその社員に「こういうことをして、このような形でお客様にメールを送った」などの結果報告をします。実務的な部分においては、お客様にメールを送る際には、必ずCCで本人のアドレスも入れて送ります。最初のメールを送信するとき、私からお客様に対して必ず「すみませんでした」「私自身がきちんと管理できていませんでした」というお詫びの言葉を添えます。

 

さらに、その後のメールのやり取りを通じて、「私はこういう内容で、こういう資料をつくって送ったよ」と見せてあげる。こうした一連の流れを知ることは、本人にとって学びの1つとなるからです。

 

もし、そこでCCをつけずにいたら、私がどういう仕事をし、どのような文面で、いつメールを送ったかということが伝わりません。すると、本人はそのことを気にしたまま、モヤモヤとした気分を抱え続けることになってしまいます。

 

でも、CCをつけてメールを送ることで内容を伝え、本人が「ああ、なるほど・・・」と思ったあたりで、こちらから声をかけるようにしています。そこで、「あれくらいなら、あなたにもできたはず」と一度𠮟りはしますが、「ああいうふうにやってほしかったんだ」と説明し、その流れで「あのときになぜ仕事を取ったか」という話をします。そのときは「成長する姿を見たかったけれど、お客様に迷惑はかけられない。お客様、待っていたからね」など、私自身の気持ちも伝えるようにしています。

 

もう1つ「間接」の場合は、こうした出来事を、その社員と私の間にいる人間、たとえば、各拠点のトップなどに報告し、「あとのフォローを頼む」と任せます。絶対に「長友さん(※筆者)、冷たい・・・」などと、社内で愚痴っていると思うので(笑)。「あの人との仕事はやりづらい」「当たり前基準が高すぎる」とか、きっといろいろあるでしょう。

 

そこで、その社員の上司にあたる人間に、「私もそうだったよ」「私も同じような経験をして、つらい思いをしたけど、あれがお客様には一番の基準、あれがソリューション基準なんだ」「私もそういう経験をしたけれど、今ではこういうポジションや仕事もできるようになったよ」などと、フォローしてもらうわけです。

 

そのように第三者に入ってもらったほうが、本人も素直になれるし、愚痴を吐けるので、気持ちの整理がつきやすくなります。

 

さらに、こうしたやり取りがその上司から上がってくるので、その後の状況も把握しやすいのです。こうした連携が取れることで、社員一人ひとりが仕事に対して積極的にもなれますし、もっと仕事ができるようになりたいという成長意欲も引き出すことができます。

 

こうした流れは、私たちがコンサルティングの際にお勧めしている組織改革の原型でもあり、企業内コミュニケーションがスムーズであることの重要性も表しているのではないかと思います。

“がんばる経営者”が会社をつぶす~最強の組織をつくる経営術

“がんばる経営者”が会社をつぶす~最強の組織をつくる経営術

長友 威一郎

合同フォレスト株式会社

中小企業を中心に1000社以上をコンサルティングしてきた著者が明かす、再び成長できる会社をつくるノウハウ、社員も会社も幸せになる秘訣。組織を成長させるために、何をすべきかが見えてくる!

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