「お客様にとってのオンリーワン」となるためには?
ビジネスでは、オンリーワンという言葉を「唯一の技術」や「自社だけが持つ優位性」といった意味で使う場合が多いと思います。だから市場で勝てる、という理解のされ方です。
もちろん私自身、その意味でもオンリーワンという言葉を使っています。
世界で唯一のハミガキ粉はオンリーワン商品であり、実質的な競合相手がいないオンリーワン企業になることが、起業に成功する近道だと認識しています。
ただ、そのような自社目線だけでなく、さらに、「お客様にとってのオンリーワン」でありたいものです。
それは例えば、「自分にぴったりなのはこのブランド」「自分や家族のためを考えてくれているのはこの会社」といった心理です。
それはいわば、ファン心理、仲間意識といった感情に近いものです。商品やサービスを、そのように本質的なオンリーワンの意味や価値を持ったものにすることが重要なのではないかと思います。そして、それがレッドオーシャンにも果敢に斬り込んでいける自信・確信につながるのではないでしょうか。
私は、そうできたことが唯一、私たちのハミガキ粉が異例に高額でも多くのお客様に受け入れていただけた理由だと思っています。
本質を見すえて商品を作ったら、既存のものとはまったく違うハミガキ粉が誕生し、家庭での歯みがきの意味がこれまでと一変し、そのハミガキ粉の値段が従来のものとはまったく違う価格帯になったというわけです。
従来からあったハミガキ粉の常識の中で考えたら、私たちの新しいハミガキ粉は決して安くありません。しかし、「安いほうがよい」という考え方も数ある基準の中のひとつに過ぎず、そこだけにとらわれていると見えてこない世界があるのです。
本物の商品・サービスは「お客様を幸せ」にするもの
私たちが提供しているのは、ハミガキ粉としては、ほかに例のない高額商品です。そして、一般に、「高い買い物」というのは、お客様にとって不利益だと思われています。
ですから、高額な子ども用乳酸菌ハミガキ粉をお客様が進んで買い求め、感謝してくれるという現象は、表面的に見れば「不思議」に映るかもしれません。
スーパーマーケットなどで「1円でも安いものを買う」努力をしている家計の感覚や、小売業者としてそういうニーズに応えようと努力している人たちの目から見たら、違和感を覚える部分があるかもしれません。
しかし、いったん値段という物差しを離れ、本質から考えていただくと、違う側面にも気づいていただけるのではないかと思います。
誤解がないように付言すると、私は「よいものをより安く」といった企業努力を否定するものでは全然ありません。
多くの家計を助けているスーパーマーケットや、お小遣いの限られた若者に数百円で「おふくろの味」を楽しませてくれる食堂など、「よいものをより安く」提供して人々を幸せにする場で働いている皆さんに、敬意を抱いています。
高いハミガキ粉を売っているからといって、間違っても、「ビジネスは高額商品を扱うほうが儲かる!」などと言いたいわけではないのです。
私は、本物の商品・サービスとは、値段にかかわらず「お客様を幸せにするもの」であり、本当のプロとは、そういう「本物」を提供する人たちだと考えています。
もちろん、本物なら高い値段で売ってよいと言っているわけでもありません。後述しますが、価格は真にいいものを使って、いい商品を作った結果にすぎません。
だから、正々堂々と気持ちよく売ることができるのです。そして、新商品や新規サービスを世に問う目的は、「自社が潤うため」ではなく、「世の中をよくするため」だと思っています。経営における利潤や、マーケティングでいわれるニーズとは、本来、その延長にあるのではないでしょうか。
消費者は「企業の都合」でガマンを強いられている
企業やビジネスパーソンには、商品やサービスを通じてお客様に喜んでいただき、幸せを広げる力があります。それが社会をよくしていくのではないかと思います。
私が、より多くのビジネスパーソンに仕事の「本質」を考えていただきたいと願う理由は、まさにそこにあります。
世の中には、広くよしとされている常識が、本質を離れて独り歩きすることもないわけではないからです。
例えば、「よいものをより安く」という企業努力は、多くの消費者に喜ばれるので一種のビジネス常識になっているとも言えるでしょう。
しかし、「よいものをより安く」という思いから、「より安く」だけが独り歩きしてしまったらどうでしょう。案外まじめでよい人ほど、常識を尊重し、墨守したがるものです。そうした有能なビジネスパーソンの多くが、自社に貢献しようと努力することで、大量生産大量消費により、製造・流通コストを下げる方法ばかりが懸命に追求されてしまいました。
しかし、現在はモノが市場にあふれています。かつ、モノの値段が安くなるデフレが長く続いた影響も残る中、原料価格が少しずつ上がっている業種も少なくありません。そこで「より安く」を追求すると、品質を度外視した「価格競争」が勃発しがちなのです。
世の中には、本物の価値がわかる人がたくさんいて、そういう人たちは、「本当によいもの」を欲しているはずです。しかし、単純な価格競争の結果、市場から本物が駆逐され、本質を見失ったただ安い商品だけが店頭に並んでいるとしたら……。そこから買うモノを選ばねばならない消費者は、企業の都合でガマンを強いられているということにもなるのではないでしょうか。
世の中を見渡すと、そうした状況も意外と多く見受けられるように思います。
齊藤 欽也
歯科医師/ウィステリア製薬株式会社代表