一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、ベランダや管理室における所有権について見ていきます。

マンションの規約ごとに異なる「共用部分の範囲」

◆標準管理規約に定める共用部分の範囲

 

マンション標準管理規約(国土交通省のホームページ内においての「マンション」などの検索で閲覧が可能です)では、単棟型マンションの共用部分に該当するものの例として、①内外壁、床スラブ、バルコニー、ベランダなどの「建物の部分」、②エレベーター設備、電気設備、配線配管(給水管については、本管から各住戸メイターを含む部分、雑排水管および汚水管については、配管継手および立て管)などの「建物の附属物」、および③管理事務所、集会室などがあげられています(別表第2)。

 

もちろん、マンションによっては、そこに掲げられているもの以外の共用部分がありますし、また、マンションの構造によっては、そこに掲げられているものでも、共用部分とはならない場合もありえます。

 

◆共用部分か専有部分かが争われた事例

 

実際には、そのマンションにおける建物部分が共用部分なのか専有部分なのか一見して明らかではない場合が少なくありません。その建物部分が、専有部分であったらそれだけ自己の財産の範囲は拡大しますが、他方、その修理・修繕等は基本的に自分の費用負担で行わなければならず、また、その部分に起因する損害を第三者に与えたときには損害賠償に応じなければなりません。

 

区分所有者は、普段は建物の一つひとつの部分について専有部分であるか共用部分であるかについては気にとめていませんが、上のような問題が生じた場合などには、これが争われることになります。建物内の車庫部分や天井裏に配管されていた給排水管の裁判例については、本連載第9回と第10回で述べましたが、以下では、「ベランダ・バルコニー」と「管理室・管理人室」の裁判例についてみてみましょう(上でみたように、標準管理規約では「共用部分の範囲」に含まれるとされています)(関連記事『購入したマンションの所有権…「車庫部分にマンホール」の判例』『マンションの一室を購入…物置やトランクルームの「権利」は?』参照)。

居住部分がある管理事務室を「共用部分」とした判例

ベランダ・バルコニー

 

ベランダとバルコニーの用語上の区別については必ずしも統一がなく、しばしば混同されています。比較的広く用いられている語法では、ベランダは数戸共通に存在し間仕切りがあるもの、バルコニーは各専有部分に固有のもので、他の専有部分への非常通路とはならないものです。

 

判例として、バルコニー(ベランダを含む広義と解されている)は管理組合の管理する共有物であるとした最高裁判決があります(最判昭50・4・10判時779号62頁・判解12事件)。ただし、近年の下級審判決の中には、バルコニーがマンションの売買契約書に専有部分と表示されていたことなどから、これを専有部分としたものもあります(東京地判平4・9・22判時1468号111頁。なお、規約共用部分としたものとして横浜地判昭60・9・26判タ584号52頁)。

 

学説には、通常のバルコニー(およびベランダ)は、建物全体の壁体外部(外壁)を構成する建物部分であるから、たとえ専用のバルコニーであっても、法律上当然に共用部分であるとする見解もあります(玉田・注解174頁)。

 

しかし、その非共益的性格(専用的性格)と専有部分との具体的一体性から専有部分と解し、そのうえで、外観上、耐力上および非常用の用途などの見地から専有部分一般よりも強い制限(たとえば、建物の景観の一部をなすということから共益性を有することを認め、その変更を禁止することなど)を規約によって設け、その制限を超えない限りでの使用や改良行為を認めるべきか(稲本洋之助=鎌野邦樹『コンメンタール マンション区分所有法 第3版』、株式会社日本評論社、2015年)、または、共用部分としたうえで、各区分所有者に規約により「専用使用権」を認めるべきものと考えます。

 

いずれにしても、それぞれのマンションの状況に応じて、規約により対応できることを認めるべきでしょう。

 

管理室・管理人室

 

最高裁は、事務所部分と居住部分の2つからなり、両部分の境に間仕切りがある事例について、管理人室(居住部分)が管理事務室(事務所部分)との一体的利用を予定され機能的に分離することができない場合には、たとえ管理人室に構造上の独立性があるとしても利用上の独立性はなく、したがって、管理人室は管理事務室とともに共用部分であるとしました(最判平5・2・12民集47巻2号393頁・判解13事件。この流れに沿う裁判例として、東京地判平10・12・21判タ1066号274頁)。

 

居住部分と事務所部分と管理室・管理人室が構造上・利用上一体となって当該建物全体の「管理」機能を担っている限りは、両部分を一体として共用部分と考えるべきでしょう。この点についての争いを避けるためには、規約によって共用部分(規約共用部分)である旨を明らかにしておくことが望ましいでしょう。

 

他の裁判例として、事務所部分と居住部分の2つからなり両部分の境に間仕切りがない場合において、ある分譲会社が専有部分として所有権保存登記をし管理人室として使用させてきた事例について、当該建物部分が構造上の独立性を有すること、専用の出入口があり、共用設備たる防災用設備もわずかな一部分を占めているにすぎないこと、日常生活に必要なガス・水道等も備わっていて管理人室以外にも使用できることから利用上の独立性も有することを認定したうえで、専有部分としたものもあります(東京地判昭63・11・10判時1323号92頁。その他、専有部分としたものとして、東京地判昭51・10・1判時851号198頁、東京地判昭57・1・27判時1050号88頁等)。

 

なお、建物の附属物としての排水管枝管が専有部分に属するか共用部分に属するかが争われた最高裁判決については、すで本連載第10回に述べたところです。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

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    本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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