一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、マンションの区分所有者が「建物の土地」に有する権利について見ていきます。

マンション区分所有者には「土地に対する権利」がある

◆建物の敷地

 

区分所有者は、建物については、専有部分について単独の所有権を有し、共用部分について共有持分権を有していますが(そして、これらは一体的に扱われます)、建物は必ず土地の上にあるので、区分所有者(建物所有者)は、土地に対する権利を有する必要があります。土地に対する区分所有者の権利の及ぶ範囲を「建物の敷地」といい、その敷地に対する権利を「敷地利用権」(敷地に対する所有権も含みます)といいます。

 

区分所有法は、「建物の敷地」とは、建物が所在する土地(法定敷地)と、5条1項の規定により建物の敷地とされた土地(規約敷地)とをいうと規定しています(2条5項)。後者の規約敷地については次に述べます。

 

建物が所在する土地とは、一棟の区分所有建物がその上に物理的に所在する土地をいい、区分所有者等の意思とは無関係に法律上当然に建物の敷地とされ(この意味で「法定敷地」といいます)、また、法定敷地(規約敷地も同様)は、専有部分と敷地利用権の一体性および不動産登記手続上の必要から、登記上の筆単位で把握されます。

 

したがって、一筆の土地の一部のみに建物が所在する場合には一筆の土地全体が法定敷地になり、また、一棟の建物が数筆にまたがって所在している場合にはその数筆全部が法定敷地になります。 さらに、一筆の土地の上に数棟の建物がある場合には、その土地全体が各建物それぞれの法定敷地になります。

 

◆規約敷地

 

区分所有法5条1項は、「区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる」と規定しますが、このような規約によって建物の敷地とされた土地が規約敷地です。

 

上で述べたように法定敷地は登記上の筆単位で把握されますが、規約敷地も同様に筆単位で把握され、法定敷地とは筆を異にすることになります。

 

規約敷地が設定されると、「建物の敷地」として法定敷地と同様の取扱いがなされます。つまり、後述の専有部分と敷地利用権の一体的処分を原則とする規定(22条)が適用され、また、その土地部分にも区分所有法の団体的管理(規約の定めや集会の決議)が及びます。

 

◆敷地利用権

 

区分所有者(建物所有者)は、土地に対する権利を有する必要があり、その敷地に対する権利を「敷地利用権」といいます。

 

より正確に述べると、「敷地利用権」とは、区分所有者が「専有部分を所有するための建物の敷地〔筆者注:法定敷地と規約敷地の双方を含む〕に関する権利」をいいます(2条6項)。単に「(区分所有)建物の敷地に関する権利」と定義するのではなく、「専有部分を所有するため」という点に注意して下さい。

 

敷地利用権は、一般的には、所有権、地上権または賃借権ですが、無償の土地使用権である使用借権も含まれます。所有権であっても、区分所有法の規定上は「利用権」に包含されます。

 

マンションにおいては、一人の者が建物の専有部分の全部を所有する場合もありますが、このような場合は実際には稀であり、一般的には、専有部分ごとに所有者(区分所有者)が存在しています。

 

このように区分所有者が複数ある場合には、「敷地」または「敷地に関する地上権もしくは賃借権」等を区分所有者全員で「共有」または「準共有」しているのが一般的です。敷地についての各区分所有者の共有持分または準共有持分が、各区分所有者の敷地利用権です。

 

準共有の場合には、当該敷地の所有者に対して区分所有者は地代ないし賃料を支払うのが通常ですが、各区分所有者の地代債務は、各自の持分に応じた分割債務であるとする裁判例があります(東京地判平7・6・7判タ911号132頁)。

 

これに対して、いわゆるタウンハウス方式においては、一棟の建物の敷地を各専有部分ごとに区画して一筆とし、各専有部分の所有者がその区画について所有権、地上権、賃借権などの権利を単独で有していることが多いですが(分有形式とよばれています)、この場合には、各筆の所有権、地上権、賃借権などの権利が敷地利用権です。

建物と敷地の一体性…「分離処分」が禁止されるケース

◆専有部分と敷地利用権の分離処分の禁止

 

一棟の区分所有建物に区分所有者が複数存在する場合の敷地利用権については、次の①と②の2つの場合があります。

 

①区分所有者が敷地を共有または準共有(賃借権や地上権の場合)して、各区分所有者がその共有持分または準共有持分として敷地利用権を有している場合。

 

②前述のような一部のタウンハウスにおいてみられるように、区分所有建物の敷地が各専有部分ごとに区画されて一筆とされ、各区分所有者がその区画について単独で所有権、地上権、賃借権などを敷地利用権(分有形式の敷地利用権)として有している場合。

 

①と②のうち、①の場合については、区分所有者は、規約に別段の定めがない限り、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができません(22条1項)。

 

これに対して②の場合は、それらの分離処分が許されます。つまり、①の場合には、たとえばマンションの自己の住戸部分を売却した場合やこれに抵当権を設定した場合には、規約に別段の定めがない限り、敷地についての自己の(準)共有持分権も売却されたり、これに抵当権が設定されたことになります。

 

建物の共用部分の共有持分権もこれらと一体的に売却等がなされます。また、敷地についての自己の(準)共有持分権だけを売却したり、これに抵当権を設定したりすることはできません。

 

なお、「分離処分」が禁止されているため、各区分所有者は、敷地についての自己の共有持分権の分割請求をすることはできません。これを認めることは、専有部分と敷地利用権の分離処分を許容する結果となるからです。

 

◆敷地利用権の定義の仕方

 

区分所有法2条6項は、「敷地利用権」とは、区分所有者が「専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利」とされており、単に「(区分所有)建物の敷地に関する権利」とは定義されていません。

 

前者の定義でも後者の定義でも、上の①および②の場合ともに包含されますが、区分所有法22条1項の規定において、「敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合」に、すなわち①の場合に限って「分離処分」を禁止するためには、区分所有法2条6項の規定において前者のような定義がされていないと、②の場合(分有の場合)を排除できないことになります。

 

つまり、仮に後者のような定義ですと、②の場合(分有の場合)も、法2条6項でいう「敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合」に該当することになってしまいます。

 

したがって、「敷地利用権」について、「専有部分」すなわち「自己の住戸部分」を「所有するための建物の敷地に関する権利」と定義されていれば、「分離処分」の禁止について、その「敷地利用権」を(準)共有するような①の場合だけに限定できることになります(②の場合には、「敷地利用権」を単独で所有していますので)。

 

◆分離処分禁止の趣旨

 

それでは、なぜ①の場合には「分離処分」が禁止され、逆に②の場合にはこれが許されるのでしょうか。まず、①の場合に「分離処分」が禁止されたのは、不動産登記制度の問題、すなわち登記簿が複雑となることを避けることのほか、管理の面における問題などからです。

 

専有部分と敷地利用権の分離処分を認めることによって両者が各別の者に帰属している状態が一般化すると、敷地の管理に関する事項を区分所有者が規約または集会の決議で定めても、その効力は、区分所有者でない敷地の権利者には及びませんから、敷地の管理の面で齟齬が生じてしまうことになってしまいます。

 

次に、土地が分有に属する②の場合に一体性(分離処分の禁止)の制度が適用されない理由については、この場合には専有部分と敷地利用権の従属性ないし一体性が比較的稀薄であり、一般の建物(戸建て)とその敷地に関する権利の関係がさほど異ならないし、また、敷地の登記簿の混乱も生じないことから分離処分禁止制度の適用を除外することとしたと説明されています(濱崎恭生著『建物区分所有法の改正』、法曹会、1989年)。

 

◆区分所有権売渡請求権

 

①の場合において規約で別段の定めをしたとき、および②の場合には、分離処分自体は可能となりますが、分離処分をすると「敷地利用権を有しない区分所有者」が発生することから、売渡請求権の問題(10条)が生じます。

 

すなわち、同規定に基づき、分離処分により「敷地利用権を有しない区分所有者」となった者に対して、敷地についての権利を有する者(分離処分をした元来の区分所有者、または、この者から敷地についての権利のみの処分を受けた者)は、「その専有部分の収去を請求する権利を有する者」として、当該区分所有権を時価で売り渡すことを請求することができます。

 

たとえば、タウンハウスの一住戸をその分有敷地と共に所有しているAが、敷地部分をBに売却し、住戸部分をCに売却した場合に、Bは、Cに対してその区分所有権を時価で売り渡すことを請求することができます。なお、Aが敷地部分の所有権は自己に留めて住戸部分をBに売却しても、Bに敷地について借地権を認める場合には、Bには敷地利用権がありますので、売渡請求の問題は生じません。

 

◆規約による分離処分の許与

 

①の場合についての専有部分と敷地利用権の一体性は、規約によって排除することができます(22条1項但書)。この規約は、区分所有者が設定する場合(31条)のほか、最初に専有部分の全部を所有する者が公正証書によって設定する場合があります(32条)。

 

専有部分と敷地利用権の分離処分禁止を規約によって排除することができるとした理由は、①小規模の区分所有建物については、建物と敷地利用権との間の一体的関係も実質上強いものとはいえないこととともに、また、区分所有建物の敷地の登記簿の混乱もさほど生じる心配のないこと、②大規模な区分所有建物にあっても、例外的に分離処分をすることが必要な場合があることであると説明されています(濱崎恭生著『建物区分所有法の改正』、法曹会、1989年)。

 

②にいう分離処分をすることが必要な場合とは、たとえば、一筆の土地の所有者が地上に2棟の区分所有建物を建築する計画のもとにまず1棟目を建築して分譲するときに2棟目の建物のための敷地利用権を留保しておくために、敷地利用権たる所有権の一部を1棟目の建物の専有部分と一体的に処分しないことが必要であるような場合です。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マンション法案内 第2版

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鎌野 邦樹

勁草書房

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