一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、入居者が「共用部分」に所有する権利について見ていきます。

 

Aさんは、最近、マンションの305号室を購入しました。廊下、階段室、エレベーターなどはマンション住人全員の所有で、305号室内の床、壁、給排水管などはAさんの所有であると聞いています。それでは、廊下や階段については、どのような権利が発生しているのでしょうか。

区分所有者が共用部分に有する「持分権」

◆共用部分の共有関係

 

●共用部分の共有──一般の共有との違い

 

共用部分は、区分所有者の共有に属します(11条1項)。共用部分(一部共用部分も含む)の共有の性質は、民法で規定する一般の共有(249条以下)とは基本的に異なります(12条)。区分所有者は、共用部分について持分を有しますが(14条)、一般の共有の場合、つまり民法の定める共有の場合のように、共用部分の共有部分の分割を請求することはできません。共有物であるからといって、区分所有者が、たとえば廊下や階段室について、分割請求ができるとするのは不合理だからです。

 

また、一般の共有の場合には、共有者は、自己の持分権を自由に譲渡できますが(共有者A・B・CのうちCが自己の持分権をDに譲渡した場合には、以後はその物はA・B・Dの共有となります)、マンションの共用部分については、その共有持分を専有部分と分離して処分したりすることはできません(15条2項)。

 

たとえば、共用部分である廊下について、その持分だけが独立に譲渡されても意味がないからです。そして、専有部分を処分した場合には、当然に共用部分の持分もその処分に従い、両者が一体となって処分されます(15条1項)。

 

なお、区分所有者は、玄関から廊下・階段室・エレベーター室を経て最上階ないし屋上まで通じているような共用部分(法定共用部分)について、これを廊下・階段室等からなる個々の共用部分の集合としてではなく、全体として一個の共用部分として共有し、持分権を有することになります。

 

たとえば、305号室のAさんの共有持分が15分の1であるとして、Aさんは、廊下について15分の1の所有権、階段室について15分の1の所有権を有するというように個々の共用部分について考えるのではなく、一体としての共用部分について15分の1の所有権(共有持分権)を有していると考えるのです。

共有者の持分は原則「専有部分の床面積」の割合で決定

●各共有者の持分割合

 

「持分」といった場合には、「持分権」(共有権)の意味で権利を指すこともありますし、「持分権の割合」の意味で共有者全体の中での自分の所有権の割合を指すこともあります。では、後者の意味での持分は、どのように決まるのでしょうか(305号室のAさんの共有持分が15分の1というのは、どこから出てくるのでしょうか)。

 

各共有者の持分は、原則としてその有する専有部分の床面積の割合によって決まります(14条1項)。たとえば、仮に301号室の床面積が305号室の2倍あるときには、301号室の区分所有者は、305号室の区分所有者の2倍の共用部分共有持分を有することになります。ただし、この割合は、規約で別段の定めをすることができます(14条4項)。

 

たとえば、規約の定めにより、専有部分の床面積の端数を切り捨てた持分割合にしたり、専有部分の床面積がそれほど違わないものについては同一の持分割合にすることが考えられます。標準管理規約(単棟型)では、専有部分の床面積の割合によることとして、別表を設けて各住戸の持分割合について「○○○分の○○」という形で具体的に示しています(10条、別表第3、コメント10条関係)。

 

共用部分共有持分の割合は、単に観念的な数字としてだけではなく、実際上、①集会での各区分所有者の議決権割合(38条)、②共用部分の負担または利益収取の割合(19条)等の基礎となり、区分所有者の権利・義務に影響します。つまり、一般的には、持分割合の大きい区分所有者は、議決権が大きく、また、負担が大きくなります。

 

●共用部分の専用使用

 

各共有者は、共用部分をその用方に従って使用することができます(13条)。民法249条とは異なり、持分に応じて使用ができるのではありません。したがって、先の例のように共用部分共有持分の割合の小さい305号室の区分所有者であるAさんは、301号室の区分所有者の半分の回数しか廊下を通行(使用)できないわけではありません。

 

ところで、標準管理規約にみられるように、バルコニーやベランダについては、共用部分と解されていますが、ただ、各住戸に接しているそのような共用部分については、当該区分所有者に専用使用が認められると考えられています。1階の各住戸に接する専用庭やマンション敷地内の各住戸に割り当てられた駐車スペースについても、一般的には同じように考えられています。標準管理規約(単棟型)でも、そのように定められています(14条、別表第4、15条)。

 

このように建物の共用部分または敷地を特定の区分所有者または特定の第三者が排他的に使用する権利を専用使用権といいます。専用使用権の設定方法、その内容、対価、存続期間、譲渡性、解約の条件等については区分所有者の規約(または規約としての効力を有する規則等)によって定めることが多く、その場合には区分所有者の特定承継人に対しても効力を生じます(46条)。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

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    本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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